夢中ドポン
つめたい おおきな みずうみ
冬の あさに 息が止まる様
酸素を 与えられず
動き 戻りを 繰り返す
指で押さえられた 秒針は
我であろうか
熱は 水の中を 泳ぎ回り
次第に 親を 忘れていく
つめたい いたい
くるしい くるしい
氷河期の 空気の 筒のうえ
臓器を 生かした この気体を
誰か 抜き取って しまう
ひらり
真っ青な 目玉に 金色の飴
氷柱にしては 細い 柔らかい
溶けた 誰が 入れた
誰が 誰 だれ
「はぁっ」
大きく息を吸って、それから目が開いた。
心臓がバクバクしている。
よかった、いつもの天井だ…。
雲托は数秒前まで感じていた息苦しさが抜けきれず深呼吸をして自分を落ち着かせる。
窓を見ると、まだ日差しは差し込んでいない…とすると、夜中だろうか。
再び寝ようにも、またあんな夢を見てしまったら安眠も何もないだろう。すっかり目が覚めてしまっていた。何か作業をと布団から上体を起こしたが、冷蔵庫のような部屋の冷たさは、雲托を押し倒すように布団に戻した。
夜が明けるまで、夢のことをぼんやりと思い出していた。早く忘れたい気持ちでいっぱいなのだが、どこか引っかかることがあった。
「……龍須酥。」
自分が水中で動けず、息もできず死を直感したあの瞬間。そこに突然見えた金色の瞳と白い髪は、紛れもなく彼のものであった。何故彼はいたのだろう。
何も言わず、何も動かず、ただ自分は龍須酥が水の中に溶けていく様子を見ていた。消えていく二人の様子で違いがあったのは、彼は我を見つめるだけで、苦しさで目を見開くことももがくことも無く、ただただそこに存在していたということだ。感情の読めない彼の瞳には、あの時の我は滑稽に見えていただろうか。
「…まあ、所詮夢でしょうか…。」
夢という不確かなものに延々と悩んでいても解決することはなく、雲托はふわふわした形容しがたい感情でいっぱいになってしまった。あぁ、もどかしい。
龍須酥は、今も天体観測をしているだろう。
易経の研究と法律の普及。全く違う物事のように見えるが、理想とする到着点は同じのはず。最近は、若や子供たちが法律の普及イベントを手伝ってくれているおかげで、自分が思っていたよりも早く空桑に貢献出来ていることに、充実を覚えている。しかし彼は、我よりも長く空桑に居るがたった一人で部屋にこもり、寝食も忘れて研究に明け暮れていると若から聞いていた。孤独は、苦では無いのだろうか。そう思う我はもう、空桑の温かさを身に染みて感じることの出来る幸せ者なのだろう。きっと龍須酥も、自分とは異なる形で空桑の、そして若様の温かさを感じているはずだ。
似ているようで違う彼の存在に、何か特別なものを感じているのかもしれない。夜が明けたら、一度話してみようか。
終