医者×ホスト 5何度目かわからないシャンパンコール。
隣のお姫様は俺の快気祝いだとか言って景気よくお金を使ってくれる。
「ありがとう。」
「KAORUの為だもん。ほんと、どうなるかと思ったから。」
刺すような視線を感じるのは俺の隣にいる男からだ。
何故、この人がここに居るのか気になって仕方ないけれど、今は仕事中だし、気にしないようにしないと。
「羽鳥さん」
本名で呼ばれて慌ててその長い足をお姫様に見えないように蹴り飛ばす。
「あはは、佐倉山さんて冗談言うタイプなんですね。」
「センセってば〜。KAORUが困ってるでしょ?」
「……」
あからさまに不機嫌なのは解る。
このお姫様は羽振りが良いのを知っていたし、俺の中でもお金は使ってくれるけど我儘言わない、必要以上なタッチはしないっていう所謂良客認識の人だったわけで。
何故かクリスマスイブに佐倉山先生(セフレ)を連れ立って来店した訳だけど。
俺の仕事ぶりを見たいだとかなんとかって言ってたのを思い出して、状況は察せる。
それでもこの微妙な空気はやめて欲しい訳で。
殺傷事件から向こう、距離感が掴めないままズルズルと相変わらず身体の関係は続いている。
「…アルマンド」
「はい?」
低い声で言われたお酒の名前に思わず顔をまじまじと見つめる。
「此処で金しっかり使ったらまた来れるだろ。」
「男はお断りなんですけど…!」
何を言い出すのかと想えば存外子供っぽい言葉で絞り出すように出た反論はプライベートで彼と話すようなものそのもので、我に返って口を思わず噤む。
「わかったから、だから…今日はほんと勘弁…」
「コニャックにするか、それとも。」
にんまりと人の悪い笑みを浮かべた綺麗な顔をした黒髪の男は、店で高い酒を俺の制止も聞くわけもなく頼んだ。
連れの女性と共に結局ラストまでいた男はしっかりと現金で支払って、俺でも感心するレベルでスマートにそつなく女性をタクシーに乗せて見送った。
「ねぇ、なんで。」
「羽鳥さんがつれねぇからだろ。」
「はい?」
「クリスマスの予定聞いただろうが」
「いやいや、俺とアンタは…」
言葉を言いかけて飲み込んだ。
認めてしまったらそれ以上はないし、それ以下になるだけだ。
こんな不毛なことを辞めなければと思う反面、何かを期待してしまうのはきっとあの日の病室で見た彼の表情のせいだ。
俺は何も悪くない。
「いい加減観念しろよ」
「何を、」
「……俺のものになれ。」
「誰が」
なるか、と口を開きかけた所でふと端正な顔が近付いてくる。
逃げようとして足を後ろに引いたけれど首にいつの間にか手を回されていて逃げ場を失う。
そのまま外気に晒されて冷たい唇が触れ合えばその場に固まったまま動けなくなる。
「っ、ホント…やめてって言ってるでしょ」
「わかる様になるまでしっかり抱き潰してやるから覚悟しろよ。」
離れ際、紅い瞳が鈍く光っては俺を捉えて動けなくさせる。
心臓が痛い。
拒絶したいのに、拒絶できない。
俺は一体どうしたんだろう。
そう思いながら引き摺られるようにして後から来たタクシーに2人乗り込んで、向かうは匂いのしない真っ白な高層マンションだった。