はらりと、白の薄布がその身を滑り、落ちていき…その中に隠されていた体躯が顕となった。
「……どう、かな…」
感情に揺れる青い眼差し、赤く火照る頬の下。シーツで覆われていた体躯は……肩と胸部を露出した、ニット素材の衣服を纏っていた。
一見すれば、冷える時期に重宝されるセーターのような形だ。しかし首こそ詰めているものの、その両肩から先まで大胆に露出しており、それが防寒の類ではないのだろうと理解できる。殆ど前掛けのようになっているようだ。背にある布は臀部を包む箇所くらいなもので、後は頸当たりから垂れる飾りリボン程度だろうか。肩だけでなく、脇も背中も…尻尾の付け根すらも露出し、伸び出ている。
そして露出は肩や背だけに留まらない。胸部は円形に繰り抜かれており、本来隠されるべき肌を顕としている。本当なら、胸の膨らみで押し上げるような穴となっているのだろう……ここまでくれば、その目的は推測できた。しかしイライは女体でなく、男体だ。加えて肉付きも薄い。そのため、穴の縁が臍の辺りにまで伸びており、淫紋がちらりと垣間見えている。
普段の淫魔の姿とは少し異なる……人間の姿に寄った、淫美を際立たせる様相だ。
特別に、自分のために用意したのだろうとは、その姿からも、それを隠していたことからも暗の内に理解できた。
「こういうのが…男の人はいいんだって、たまに手伝っている酒場のお客さんから聞いて」
「……」
「だから、色々調べてみたんだけど…」
「…………」
「……変、だった…かな……やっぱり…」
言いながら、イライは徐々に俯き、その視線を自身の膝元へと落としていく。羞恥のあまり赤く染まった耳を晒しながら、膝元で自身の両手を握り合わせる様は、いっそ後悔すら滲んでいるように見える。
それを見逃さず目に映しながら……ナワーブはどうしたものかと僅かばかり悩んだ。長考は不安を煽るだけになるだろう。そう察した彼は、自らを覆っていたガウンを脱ぐと、隣の愛しい体躯へそうっと掛けた。露出していた箇所が分厚い布で覆われ、露出する肌の面積が途端に減る。
予期せず暖かなそれに包まれ、イライは驚いたのか顔を今一度上げた。不安と当惑で満ちる眼差しと出会い、ナワーブは口を開く。
「体が冷えてしまう」
「…そ、う……だね…」
行動の理由を述べれば、イライはその目を丸めた後、すぐに視線を逸らして俯いてしまった。耳は未だ赤く、手は互いに握り合わせて、その皮膚に爪すら立てられている。彼が恥いっていることは明白だ。大方、誘いが無駄だったとでも思っているのだろう。サイドテーブルのランプに照らされた、その全ての仕草を見逃さずに見つけながら、ナワーブは正しく予想を立てていた。
「イライ」
ガウンの下に手を潜り込ませ、その肩にそうっと触れる。体はぴくっと震えたものの、イライがナワーブの呼びかけを無碍にすることなど有るはずもない。眉尻を情けなく垂れさせたその顔がおずおずと擡げられるのを、ナワーブはじっと見つめていた。
それだから、目が合うや否や。自らの歯で噛み締められ、歯形の跡が薄らと浮いたその唇に口付けることなど、実に容易いことであったのだ。
「んっ、ン、ぅ!?…っ」
イライは一瞬身を震わせて、その身を後ろへ引き退らせようとした。喫驚に伴う自然的な呼応だ。しかし舌を舐ってやれば、それがナワーブからの口づけだと理解したのだろう。逃げようとする体はすぐに諌められ、彼は肩を抱かれるまま口付けを甘んじた。それを褒めてやるようにぢゅっ♡と甘く吸い付き、舌先を咥内へと差し伸ばす。迎えに伸ばされた舌と絡め合いながら、時折その上顎をずり…♡と強く舐ってやる。そうすれば、喫驚のために強張っていた体が少しずつ解れて、ナワーブへくったりと身を委ねていく様を、肩を抱く手によって如実と感じ取れた。
「ん、ん…っ♡」
確かに欲情しているのだと……これは情けなどではないのだと解らせるように、舌を執拗に絡め、歯をも甘く立てて愛でてやる。肩を抱く手を一寸も離さないまま抱き寄せ続ける。時折唾液を注いでやれば、舌を絡めるままにぢゅぅ…♡と音を立てて飲み干していく様は、なんとも従順で愛らしい。
「は、ぁ…♡…っ♡ぁ、…ふ…♡」
顎が痺れたのだろうか。交わす唾液が飲み切れず、口端から溢れて伝っていく感覚を覚え、名残惜しくも唇を離せば……眼前には蕩け眼差しを晒す愛しい人の姿があった。青い瞳は陶然とナワーブを映している。その眼差しに引き寄せられるようにして、ナワーブは肩を抱いた腕でその身を後ろへと引き寄せ、その体を引き倒した。