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    soseki1_1

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    soseki1_1

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    密かにデートの約束をする荘園初期傭占🤕🔮

    「物思いか」
     聞こえた声に、ふと意識が浮上する。思考に沈んでいたつもりはないが、随分とぼんやりしてしまったらしい。自覚しながら、イライは声の方へ振り替えることなく、口角だけを僅かに擡げた。この声が誰のものか、など、見ずとも理解できる。
    「どうかな」
    「或いは疲れか」
    「相変わらず試合に出れていないのに?」
    「その分色々聞いてやってるだろ。昨夜もそうだった」
     告げられた真実に瞬きをひとつ、ふたつ。視線を掲示板に向けたまま思考を整える。熱に浮かされた考えは、油断をするとすぐに飛び跳ねてしまう。しかしこれはどう跳ねようとも、堪えようとも真実だろう。
     昨夜、イライは仲間のトレイシーの愚痴を聞いてやっていた。自室に招く訳にはいかないため、談話室で。隣に立つ男の部屋と談話室まではそこそこの距離がある。わざわざ足を伸ばさなければ通り掛ることなど有りはしない。昨夜は酒盛りもしていなかった為、出歩く用向きなどないはずだ。それは、つまり……導き出される答えに、イライは口角がまたいっそう擡げられるのを止められない。
    「探してくれた?」
    「たまたま通りかかった」
    「そういうことにしておこうかな」
    「慈悲深い天眼様なことで」
     肩を竦めて息を吐く男の声を聴きながら、小さな笑みを零す。彼が人目のありかねない場所でらしいことを紡ぐのは稀だ。距離や態度には滲ませるが、言葉で示すことに関しては律している。今、エントランスに人目がないとはいえ、随分と寂しい思いをさせたらしい。昨夜だけでなく、ここ数日は狂宴ゲームこと試合の兼ね合いから、ふたりきりになることは難しかった。軍役経験があり、今も傭兵として生きている経歴から、そして試合の中の活躍から、荘園の生存者の誰からも頼られる男。そんな彼が見せる僅かな柔い部分を、自分だけが知っている。その事実は飽くことのない熱情を呼び覚ます。酷い程の優越感さえ身に覚えさせる酷い熱情だ。喉の奥まで這い上がるそれを笑みだけに留めながら、イライは掲示板を見続ける。今隣に目を落とせば、夜まで待てないと自覚していた。
    「ちなみに今夜、君の部屋の扉が叩かれるという噂があるのだけど」
    「……へえ、こんな偏屈な傭兵の部屋が?」
    「そう。しかも、来訪者はクラッカーとチーズ、それから生ハムも拵えるようだ。君のチャイティーさえあれば、完璧な夜の茶会ができるだろう」
    「ミルクとシナモンを多めに入れた、甘めのものにしておこう」
    「ご明察だ」
     言い終えて、イライは口元に小さな笑みを零す。踊るような心地に感けて、堪らず視線を隣へと下げる。薄汚れた若草色のフードを被る愛しい男は、未だ掲示板に目を向けたままだ。今このエントランスで、投げかけた目線が合うことはないだろう。人目を気にしているというよりも、場を弁えている人だ。ここが皆が使う場であることを踏まえているし、そういった姿勢をイライ自身好ましく思っている。ある程度は律していながらも、時折皆の前だろうとふいに近しくなる距離も。ふたりきりの部屋の中では熱を守ろうとするかのように隙間なく寄り添う様も。その全てを、愛おしいと。
     会話を終えると無言を楽しむこともなく、ナワーブは体を傾ける。そのまま去るかと思った彼は、仕舞いにイライの背を優しく撫でた。その瞬きの間だけを残して、小さくも大きな背中が扉へと消えていく。
    「ずるいなぁ」
     居住区へと続く扉が音を立てて閉じ切るまで、イライはその背を見詰めていた。寂しい無音を幾らか耳に入れてから、唇から思わずらしくもない独り言が零れ出す。目を隠す覆いは、赤らんだ頬の一部をも隠してくれるだろうか。誰もいないエントランスで、イライは気恥ずかしさに息を吐く。細やかな睦ぎ合いを見守り続けた相棒は、青年の肩に乗ったまま呆れた風に……そしてどこか嬉しそうに、鳴き声をひとつ零した。
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    soseki1_1

    PROGRESS大佐🤕と喧嘩して家出した🔮を匿う副官🧲2
    /現パロ大占傭占
    「ああ、いるよ」
     携帯電話から届く声が誰なのかは判別がつかない。ただキャンベルさんの口ぶりと目線で彼だと解った。彼は眇めたような流し目で僕を見た。
    「僕の家に居る」
     裏切られたと思った。立ち尽くした足が後ろにたたらを踏んで、この家から逃げようとする。だけど裏切られたという衝撃が体の動きを固くしていた。そのうちに、彼は言った。
    「なんで? あげないよ。送り届けてなんてやらない」
     踵を返して走り出そうとした足が止まる。息を止めたままキャンベルさんを見ると、彼はもう僕の方を見てはいなかった。ただ、唇を歪めて厭に微笑んでいた。
    「飽きたんだろ?貰ってあげるよ。常々美味しいんだって聞いてたし」
     怒鳴られてる。とは、漏れ出る音で解った。そういう空気の振動があった。それに構うことなく、キャンベルさんは鬱陶しそうに電話を耳から離すと、液晶に指を滑らせて電話を切った。四方形のそれをソファに投げて息を吐く。僕の、何とも言い難い視線に気付いたのだろう。彼はもう一度目線だけで僕を見た。それが問い掛けの代わりの視線だと解ったから、逃げ出すより前に口を開いた。
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    soseki1_1

    PROGRESS求愛してる白鷹とそれに気づかない夜行梟/鷹梟/傭占
     そもそもの始まりは食事からだった。と、夜行梟は呟き始める。狩りのやり方を教えた頃から、やたらと獲物を取ってきたがると思っていたのだ。覚えたての狩りが楽しいのだろうと微笑ましく思えていたのは一、二年ほどで、そのうちどこからか料理を覚えて振舞うようになった。あれはそういうことだったのだ。給餌だ。求愛行動のひとつだったという訳だ。夜行梟はその真意に全く気付かず、私の料理美味しくなかったかな、悪いことしたな、なんてひとり反省していた。
     夜行梟の誕生日に三段の素晴らしいケーキが出された辺りから、つまりは今年のハロウィーンを終えた辺りから、いとし子は本領を発揮し始めた。まず、夜行梟の寝台に潜り込んだ。今思えばこのときに気付いてもよかった。よかったのに、夜行梟は布団の隙間を縫うように身を潜らせたいとし子に「怖い夢をみたのかい?」なんて昔と同じように声を掛けた。もうとっくに子供じゃなくなっていた白鷹は、このときは未だ我慢していた。「そんなものだ」とだけ言って隣に潜り込み、足を絡ませて寝た。今思い返すと完全に求愛だった。鷹族の習性だ。鳥型の鷹は空中で足を絡め合い、互いの愛情を深めるのだ。鷹族の遠い親戚からきちんと聞き及んだ話だった。のに、思い当たらなかった。まだ甘えん坊さんだな、なんて嬉しく思っていた。
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