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    soseki1_1

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    誘拐されても犯人を説得し改心させて帰ってくる淫魔🔮と心配でたまらない大佐🤕/傭占

    「一体なにしたの」苛立ちと焦燥を混ぜ込んだ声が電話口から届く「君、このままだと監禁されるよ」
     声音も言葉も苛烈な色を帯びている。そも、この男から電話など早々来ないのだ。大佐の副官という立場ある身であるし、その上司たる大佐から…イライにとっては恋人から、過度な連絡は避けるようにと双方に言い伝えられている。副官たるノートンは頭が回る……悪く言えば狡猾な男で、その指示を素直に飲んでいた。そんなノートンから音声の連絡が来たのだ。だから着信ひとつで、それだけの事態なのだと悟れた。
     現状の逼迫を認識しながら、けれどもイライは眉尻を下げるばかりだ。なにせ彼は、この事態が何故生じたのか知っていた。
    「誘拐されたくせに拘束中に犯人を説き伏せて自首させた?」
    「話し合えばなんとかなる人だったから」
    「馬鹿じゃないのか」副官は上司の恋仲であることも憚れず嘆息を口にした「馬鹿だろ」それも二度も。
     詰る言葉に、イライはさして傷つかなかった。どころか反応すらしなかった。副官たるその男とはそれなりの交友を築いていたので、彼が仕事熱心で、多少の中がなければどんなに呆れようとそんな言葉は出さないことを知っていた。それを差し置いても、例え誰から言われたとしてもイライは同じ呼応をした。馬鹿なんかはまだ易い方で、過去にはもっとひどい言葉を浴びせられもした。暴行だってあった。イライが尊厳あるひとりの人間として扱われたのは、多くの人から大佐と呼ばれる恋人の家に来てからだ。人間を愛する淫魔とはそれだけ不可解な存在だった。思えば、これが全ての起因だった。
     だからイライは、自分ひとりが不自由になるなら構わないと思っていた。彼は淫魔で、そのくせ一途で、大佐と呼ばれるその男のことをめっぽう愛していたので、彼から与えられるなら監禁だろうと暴力だろうとなんだって嬉しかった。当人に口に出してもいる。その上で、彼はただとびきり甘ったるい愛欲だけを注いだ。暴力の欠片もない。監禁だって、大分前から検討の中にあるとは知っていた。それでも尊厳を保つためにと踏み切らなかったのだ。そんな彼がこんな事故のような一件ですべてに踏み切るとなれば、後で酷く後悔しかねない。「君たちがどうなろうと知ったことじゃないけど」電話の終りにノートンはそう付け加えた「後々面倒になった奴を宥めるなんて、僕は絶対したくない」そうだ。確かに、こんな形で成るのはいけない。どうせしてもらうなら自分の欲だけでして貰わないと。
     そういう訳で、言いつけを破ってイライは寝室から出た。
    「ナワーブ」
     階段を降り、一階のリビングの戸を開ける。言われた通り、彼はソファで項垂れるように座っていた。なるだけ静かな足音で歩み寄り、隣に座る。顔は上げてもらえない。手持ち無沙汰に背中をそうっと撫でようとする前に声が落ちる。
    「部屋にいるようにと言ったはずだ」
    「君が心配で」
    「心配されるべきは俺ではない。お前だ」
    「私は、もう大丈夫だよ」
    「大丈夫じゃない」半ば遮るように声は出た「大丈夫なんかじゃない」
     俯く顔がぐったりと左右に振られる。
    「相手は銃を持っていた。ナイフも。縄の用意もあった。それだけあればなんだって出来る」
     それは聞き覚えのある言葉だった。先程、イライは同じことを聞いた。泣き崩れた誘拐犯を支えて建物から出た後、駆けつけていたナワーブに訳を話したときのことだ。話し合いで解決したと言うイライに、ナワーブは同じことを言った。対して告げた言葉を、イライは覚えている。これが彼を傷つけたと、イライは自覚していた。言った後で気づいてしまった。深い後悔を抱いている。「あの人が改めるきっかけになるなら私なんて安いものだよ」と、なにも取り繕わない本心で告げた。
    「ごめん。私が、君の心を踏み躙った」
     言葉を亡くしたナワーブの顔を、二度と忘れてはいけないと思った。前かがみになっているナワーブの背に手を当てて、そうっと撫でる。
     ナワーブの頭は再び横に振られた。
    「そうじゃない」
     泣き崩れるような声が落ちる。
    「俺の心なんて問題じゃない。それどころの話じゃないんだ」
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    soseki1_1

    DOODLEナワーブ🤕と喧嘩して家出したイライ🔮を匿うノートン🧲/現パロ大占傭占
     火種って簡単に点くんだなって思った。鼻の先にある、灰色の間からちらちら覗く赤色は綺麗で、心臓みたいだなんて見たことのないものの想像をした。ただ咥えてるだけなのに口の中に煙が溜まるのが不思議だった。吐き出してばかりいたそれを思い切って吸い込んだとき、喉が焼けるような不快感に襲われて咳き込んだ。そこからはもうてんで駄目で、ただ口内に煙を溜めておくだけで僕は咳をするようになった。向いてない。明らかに分かる事実が悔しくて、認めたくなくて、僕は咳をしながら煙草をふかし続けた。
     ひたすら歩いて歩いて歩いた先にあった見慣れたコンビニでそれは買えた。ライターだって簡単に買えた。レジの隣に置いてあった。「煙草を」と言った僕に気怠げな店員は「何番ですかぁ」と草臥れた問いかけをして、僕は、淀み無く番号を言った。彼がたった一度だけ僕の前で言った煙草の銘柄を僕は馬鹿みたいに覚えていて、彼が言わなかった番号まで調べて覚えていた。言うつもりはなかったのに、その番号が口からついて出た。悔しかった。その番号以外知ってるものなんてなくて、店員はスムーズに立ち並んでる箱達からたったひとつを取り出していて、僕は撤回する機会を失った。
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    DOODLE本丸傭占奇譚
    「好きな奴が出来たんだと思う」
     言われたとき、なんのことだかさっぱり解らなかった。
    「主」
     そう続けられた言葉でようやく言葉の真意を理解できた。正しくは、広げていた雑誌を読めも見もできず何秒か握りしめ、畳んで、発言した加州清光の方を見て、数秒経ってようやく理解できた。皴のついたページは恋愛特集だった。時の政府が発行している月刊雑誌の中でも恋物語を中心に集めた一冊だ。毎月本丸の、自分の部屋に届くようにしてある雑誌を一文字則宗は横に置く。
    「まじか」
    「たぶんマジ」
     普段使わない一昔前の若者言葉がまろび出る。らしくないとは加州も解っていたろうが全く指摘されなかった。それだけの大事だった。
     この一文字則宗と加州清光が所属する本丸は、端的に言えば素晴らしく堅物なところである。質実剛健を絵に描いたような場所だ。審神者制度が樹立した最初期に設立し、今なお各任務で優秀な成績を残し続け、表彰式に呼ばれ過ぎて参列側じゃなく運営側に回ってしまうような所である。そんな本丸を運営する審神者は、本丸の有り様と同様の人間であった。則宗からすれば朴訥すぎるきらいさえあった。どこぞの国の軍人で、前線を経験しており、かつては大佐と呼ばれる地位にあったらしい。ここまでは本丸の誰もが知っている経歴だ。しかし則宗はもう少し込み入った事情まで知っていた。元監査官の特権だ。最前線を行く審神者の手に渡ると決まったとき、興味を持ってちょっと調べておいた。男には、前線にいたとき作戦の執行に問題があったと難癖をつけられ、結果部下三名を処刑された経歴があった。作戦外で、戦場外で部下を無駄死にさせた経験は男の精神を大層苛み、一時は、というより審神者の招集があるまでは病院に詰めていたらしい。樹立期における軍人経験のある審神者の登用は必死なもので、特に男は指揮力と前線経験のある経歴も申し分なかった。審神者当人は戦場に赴かず、前線に出るのも人間より幾倍も頑丈な刀剣男士だからと何度も説得されて首を縦に振ったらしい。だから審神者になったばかりの頃、刀装なしで初期刀を出陣させる指令にはたいへん反抗的な姿勢を見せたとか。政府に対する三日三晩に渡る必死の抗議と独自に作成したマニュアルにより、この出陣命令は見直され、今は初手の出陣で初期刀が重傷で帰城するようなことは少なくなったのだとか。そしてそういった改善が何件かあり、今では政府
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    DONEまーふぃーさんの赤塩FA
     花のような男だと思った。摘めばそれだけで萎れてしまうような儚い男だと思った。
     だからか、歪に歪みその赤い手は、心底そうっとその体を抱き寄せている。恭しげで、優しく、割れる宝石を扱うようなその手は、けれども当の体の主が見ることはない。その双眸は深い赤色に沈み、何者をも映さない。一見哀れにすら思えるその瞳を、けれども紅色はそう認識しなかった。美しいと思った。瑞々しい血の流れる心臓のような色だ。人間たちが謳う宝石の美しさとは、この赤い眼のことを言うのだろう。なるほどこれであれば、己の手中に収めんと躍起になるのも頷ける。
    「ふふっ」ふいに見つめていた赤の瞳が細められる「くすぐったい」
     それもそのはずで。塩、と呼ばれる男には、紅衣の男から伸びる白い蔦が伸びていた。白い蝶を伴う蔦は、いつもなら紅色の力を知らしめる脅威となるものだ。けれども今ばかりは……この美しく儚い白い男に触れる今ばかりは、その凶暴さの一切を拭い捨てている。そうっと、さも割れ物に触れるかのような慎重さで白い肌に、その唇に触れる。途方もない愛欲を示すその動きは、けれども見えない彼にとってはくすぐったいものだったのだろう。微笑む唇を今一度蔦で撫でてやれば、くすくすと愛らしい声がいっそうこぼれ落ちる。
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