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    takanawa33

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    転生年齢逆転の悠七②

    『俺、前世で好きだった人をずっと探してるんですよ~、え? いやいや、はぐらかしてないって、本気よ本気。うん? あのね、すごく強くて優しくて綺麗で、金髪でケツもタッパもでかくてそんで残業が大嫌いな人』
     ユウジ、前世で検索すれば出てくる出てくる違法ながらもアップロードされた過去の発言集。
     これは、覚えているな、確実に。
     七海は動画サイトを閉じて自室のベッドに埋もれた。
    (しかも、私だ)
     条件の一つ一つは七海に当てはまるかと言えば首をひねるところだが、最後の一つは確実に自分を指している。
     七海の中で彼が現世でも生きている喜びと前世からそういった感情を向けられていたという恥ずかしさが混濁する。
     会った方がいいのだろうか。いや、でもしかし七海は前世と今世、二つの時間で虎杖悠仁青年をそういった対象としてみたことはなかったし、たぶんこれからもない。ならばむやみやたらと首を出して苦しめるのはよしたほうがいい気がする。というか、絶対やめた方がいい。
     お気持ちは嬉しいですがこちらは全くその気はありません、なんてわざわざ言うために彼の感情を乱すのは申し訳なかった。しばらくこの前世の話をしても七海が見つからなければ彼も諦めるだろう。人間そんなものだ。
    (虎杖君、がんばってくださいね)
     せめてもの供養に、七海はその日からユウジの出演する番組はすべて録画をしておくことに決めたのだった。



     録画したとはいえ、膨大な夏休みを消費するには時間が余る。罪滅ぼしというのならば過去の作品も見てやろうじゃないか。七海はいくつかのサブスク動画サイトを契約すると夏休み初日から貪るように虎杖悠仁の出演作品を拝見していった。
     デビュー作、意外なことに悠仁は悪役で名を馳せたらしい。ヒーローものの中間管理職のような敵役である。年齢をインターネットで確認すると一五歳と書かれていた。
    『痴れ者が……俺を誰だと思っている』
     なるほど、迫力がある。七海はこういったものの知識はないが、主人公として演技している顔のいい男の演技と比べると雲泥の差があった。
     なんでもファンサイトによると、ヒーローの俳優の存在を食ってしまうほどの演技力が特撮ファンのみならず名の知れた監督にまで知られることとなり、悠仁は瞬く間に出世したのだという。
     次の作品、証券会社に勤める悠仁が一癖も二癖もある上司たちを罠に陥れ、貪欲に地位を作り上げていくダークヒーローな作風だ。この時が一七歳。確認できないが二年の間に舞台で経験を積んだらしい。テレビ出演二作目だというのに主役を勝ちとったのはそのせいだろう。
    (証券会社……)
     懐かしくなる。そういえば悠仁に昔話したような気がする。呪術師を一回辞めて社会人として生きていたことを。その時は「すげぇ、俺には全然わかんない世界だな」と笑っていたのにドラマの中とはいえ立派に仕事をこなしていた。
     これもネットの情報だが、この役を演じるにあたり「中途半端な役作りはしたくない」と三か月ほど会社の様子を見学させてもらったらしい。道理ですごみがあるはずだ。単語の言い回しも台本をそのまま読みあげるような軽薄さが見られない。
     合間にトーク番組も齧る。ゲストとして招かれたご当地巡りの番組やら食事の値段を当てるグルメ番組やら。そして灰原の言っていた「ユウジのパン巡り」も。
    『ユウジはパン好きなの?』
     ご当地番組らしくハンディカムで撮影しているパン巡りは荒い画像で悠仁を映していた。
    『んー、まあ、好きっちゃ好きだけど、どんぶり派かも』
    『じゃあなんでこの番組依頼うけたのよ』スタッフの笑い声が入る。
    『俺がね、好きな人がパン好きなの。だからたくさん食べてどこが美味しかったのか会ったら教えてあげたいなぁって』
    『え、好きな人いるの』
    『うん、前世で』
     再び入るスタッフの笑い声にユウジもケラケラと笑っていた。
     笑えないのは七海だけである。
    (なんで……こんな)
     そんな価値は自分にはないだろう。一軒目のパン屋に入る悠仁の背中をぼんやりと見つめながら七海はソファの上で膝を抱えるのだった。

     気づいたことがある。
     夏休みも残り半分となったころ、両親に笑われるほどユウジの作品ばかり見ていると「そんなに好きなの?」と聞かれとりあえず「はい」と答えた。答えてから、考えた。最初は罪滅ぼしとして見ていたけれど今はどうだろう。主演作品をあらかた視聴し、ゲストに出ているバラエティも見た。そして今は過去のラジオまで聞いている始末。これはもうそんな名目は些細な動機のように思える。
     七海は気づいた。
     ユウジが好きなのだ。いや、正確にはユウジの演技が、ひたむきに努力する姿が、好きなのだ。前世と変わらず誰にでも優しく、明るく、しかし自分にとって正しくないものには決して折れないその心意気が好ましかった。
     今ではほとんどの過去作を見尽くしてしまい、リアルタイムで放送されるユウジのドラマが密やかな楽しみだったりもする。
     かといって、悠仁の前に出ようなどとは微塵も思わないけれど。つまるところ、七海にとって信じられない現象が起きているが、今の状況を見ればこう断定せざるを得ない。
     ――七海建人はユウジのファンの一人なのだ。
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