その手は救いか、絶望か(続編)水に濡れた後の木々の匂いは、 瑞々しい香りがする。 暫く雨が降っていなかった所為か、 木々は久し振りの雨に喜びその緑を深くしていた。 触れれば葉が弾けるように揺れ、 薄水色の手袋に雫がしみ込んでいく。
何かを美しいと思う事はないが、 木々の営みというものを見ていると妙な感じがするのは何故だろうか、 とゼロスは思う。
魔族は人間の負の感情を糧とする存在で、 自身に感情と呼べるものは無いと思っている。 が、 こうして木々を見ている時と人間たちの中に紛れている時とでは何かが異なっているという事は、 自身にも何か感じられるものがあるのだろう。 それが感情と呼べるものなのかを理解することは、 一生無いのだろうが。
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