費禕×董允その1「休昭!」
自分の事をそう呼ぶのは一人しかいない。
董允が振り返れば小走りに駆け寄ってくる費禕がいた。
「ああ、文偉。どうしたのでしょう」
「ちょっとここでは話しにくいな。君の私室にお邪魔してもいいだろうか?」
周囲を見回してから少しばかり申し訳なさそうな表情で耳打ちする。
「ええ、構いませんよ」
何を話そうと言うのだろうか。董允は首を傾げながらも、連れ立って私室へと向かった。
「さて、一体何のお話でしょう」
自身も費禕も椅子に腰を落ち着けてから、切り出す。わざわざ私室でなければならない話など、心当たりはちっとも無かった。
「ああ、実は……」
声を潜めた費禕に、耳をそばだてる。
「今度の北伐に丞相直々に参軍のご指名があったんだ」
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