開けてはいけない扉の話 この扉は開けてはいけない。
玄関を上がり部屋の案内を始めた管理人は、サンウクにまずそう言った。リビングにつながる廊下の途中にある扉のことだった。一見して目立つところはなく、サンウクは頷きながらも疑問に思った。なにがあるのか、なぜいけないのか、詳しい説明はなにもなく、ただその一言だけだった。
リビング、寝室、キッチン、バス、トイレ、一通りが揃った部屋だった。一人暮らしにはいささか広すぎ、サンウクはそこで一瞬迷ったが、郊外のワンルームの三分の一の家賃という馬鹿げた安さが決め手になった。
「あの扉を開けるとどうなる」
立地はまあまあ、見たところ中は小綺麗にしてあり、陽当たりも悪くはない。値段の理由になりそうなものはあの扉のほかに見当たらなかった。よほどの〈いわく〉なのだろうと思い、半分は警戒、半分は興味からサンウクは尋ねた。
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