夏の果 またサンウクさんが引っ越しをしたという。
今度の部屋は見晴らしがいい、とぽつりと呟いたのに思わず、見てみたい、と零してしまった。サンウクさんは一息煙を吐いたあと、じゃあ来るがいいと応じた。
その時すぐにでも、じゃあこの週末に、などと言ってしまえばよかったものを、曖昧に会話を終わらせてしまったから、ようやっと訪ねる約束を交わしたのは夏も終わりの頃だった。
約束の日バスを降りると、あたりはもう夕闇が迫り、東の空には雷鳴が轟いていた。
スマホに送られてきたマップと、赤いトタン屋根の2階建て、という漠然とした道案内は不安だったが、曲がりくねった坂の上にある青い屋根ばかりの一角でそれは容易に目についた。薄っぺらな屋根の下には、窮屈そうに4,5戸分のベランダが並んでいる。
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