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    飯山食堂

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    飯山食堂

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    ごぷろちょい後くらいの、まだしょぼベンジーと人を頼らないイーサン。暗くないよ!

    ##M:I
    ##イーベン

    これで最後だから‪ ああ痛え、帰ったら長めの休暇がもらえちゃうじゃねーかまったく。‬
    ‪ そんな悪態を吐くのも精一杯の強がりだ。現在ベンジーは、しこたま痛めつけられた上に手足を拘束されて冷たいコンクリートの上に転がされている。身体中が痛い上、通信不能で完全に孤立、身も心もボロボロでまあこれはそこそこ泣けちまう状況だなあ、などと自分自身をからかってなんとか折れずにいる状態だ。‬
    ‪ エージェントになってそこそこ経つ。核ミサイルをギリギリで無効化するなんていう、眠れなくなるようなことも経験した。それでも、自分が死ぬ瞬間を見せられるかもしれないと言う状況に陥ったのは、実は初めてだった。結束バンドで三重に括られた指と手首はビクともしないし、足も同様。この野郎、その辺のマーケットで売ってる日用品のくせに。‬
    ‪ どうするもこうするもどうしようもない、この部屋には壁とドアしかないのだ。ジャンプしても届かないくらいの天井にはダクトが付いていたが、何の装備もなく立ち上がれもしないので、知ってるけど関係を持ちようのない映画スターみたいなものだ。‬
    ‪ あーやべえ。やべえぞ、死んじゃうかも。そう考えては小さく頭を振って考えを吹き飛ばすが、徐々にその間隔は短くなってきている。もう先程からは、間に挟む仮の打開策すらなく数十秒おきだ。ふっと気を抜けば、すぐに恐怖は自分を飲み込みに来る。……いや、気を抜かなくても。‬
    ‪ ダメだ、言っちゃダメだ。喉元までせり上がった言葉を懸命に飲み込むが、頭が押さえつけるそれを心が押し上げる。‬
    ‪ ただの独り言だとしても、それを言ってしまったら俺は。そう思うのに、口は一生懸命に抗っているというのに、床の冷たさにぶるりと身震いをした瞬間、空間への恐怖が口をこじ開けてしまった。‬
    「助けて……イーサン」
     思わず呟いて即座に後悔したがすでに遅く、途端に心の奥底に抑えていた恐怖が音を立てて体中を駆け巡った。瞬時に関節は強張り背は丸くなって、ベンジーは折り畳まれるように小さくなる。
     俺ここで死んじゃうのかなあ。
     一つ出てきた弱音はどんどん膨らみ、強がりを蹴散らし隠してしまう。
     颯爽と自力で帰還したかったなあ、お前みたいに。
    〝心配してなかった、君なら出来ると思ってたから〟なあんて言われて。
     ブラントにも〝危なっかしいがよくやった〟とか言われてみたかった。今の所褒められたことないし。
     一緒に任務行きたかった、まだまだ一緒にいたかったなあ、イーサン。
     イーサン。
     ぼろぼろ溢れてしまう涙を拭うこともできない。ぼやけた視界のざらついたコンクリートの床は、まるで荒野のよう。ああ死ぬやつだ、映画とかでよく見る〝最期の光景〟だ。
     と、非常にゆるやかでネガティブに死を覚悟したベンジーの、溢れた涙で滲んだ視界に、突如靴が落ちてきた。
     自分でも履く見慣れた硬くて厚い靴底、その割に最小限な着地音。突然のことに止まった涙が落ちきり、はっきり見えるようになった目を上げると、そこにいたのはよく知ったヒーローだった。
    「もちろん」
     天から降ってきたスーパーエージェント様は、口元だけを僅かに吊り上げてキザな台詞を吐く。呆然としているベンジーの拘束を手際よく取り払っている間、彼の笑みは貼り付けられたままだ。
     やがて最後に残った指の結束バンドが外れると、自由になった両手はベンジーの情けなさと羞恥で真っ赤になった顔を覆い隠してしまった。
    「ベンジー、逃げるぞ。しっかりしろ」
     まるで先生だ。その声の響きは仲間へ向けたものではなく、庇護対象を労わるもの。
     顔が上げられない。みっともない。
     心の中の嵐がひどく頭の中まで掻き乱す。
     助けてじゃねえよ、自分でなんとかしろよ。何ともならなくても、何とかしようとしろよ。そこは〝待ってろ〟だろうが。
     ああ、イーサンが呆れてる。今の俺はこいつの生徒に成り下がっちまった実習生だ。
     くそ。こんなの。
     死んだほうがマシなくらい情けなくて恥ずかしくてみっともなくて許せなくてチキンな心臓を八つ裂きにしてやりたいし死んじまえってマジで思うこんなの。
    「……これで」
     やがて指の間から呻くような声が漏れる。
    「最後だから」
     覚悟を決めろベンジー・ダン。いやもう現場に出てからとか遅いっちゃ遅いけど今からでもいい、今しかないぞ。
     こんな思いは、二度とゴメンだ。
    「俺はもう二度と、お前に〝助けて〟なんて言わない!」
     自身を奮い立たせる意味もあって、大きい声を出してしまった。わん、と部屋に響いた声に、大きい音を出すんじゃないと自分で自分を叱り、またイーサンに叱られる数秒先の未来もありありと想像できる。
     ところが、予想に反してイーサンは何も言わなかった。何も言わずに、口元に張り付いていた笑みを消して、……冷静な目もなぜか一緒に消えて。きょとんとした後、ややあってスーパーエージェント様は再度小さく笑った。
    「さっきのは聞かなかったことにしておくよ」
     ブラントには自分で口止めしてくれ。そう言って、ポケットから取り出したグローブをベンジーに放り投げる。
    「登れるか? ……アドレナリンいる?」
     いらなそうだな、自力で生産してるみたいだ。
    「いらない!」
     今度は声を抑えて叫んで、ベンジーはロープに取り付いた。ぷらぷら揺れて不安定なロープ登りはまだ苦手だったが、今はその苦手意識すら体を押し上げる。
     下からイーサンに見られていると思うと、羞恥心がガンガン心を燃やした。見るな、下を見るな。どんな顔されてるかなんてわかりきってんだろ。二度と見るな、イーサンのあんな顔。
     苦手だなんて思ってる暇ねえぞ、ベンジー。はっきりわかったんだ、進む道が、進み方が。
     お前は、助けてくれるヒーローに憧れるんじゃない。憧れのヒーローを助けられる、未来の自分に憧れろ。
     イーサン・ハントと並ぶって決めたんだ。泣き言言うのは今日まで。
     見てろよ、次にお前を助けに空から降ってくるのは俺だからな!
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