憂いの天使と神仕いの天使※さとしくんの前世が天使という設定です。
※原作エピ0ネタバレ注意
※死ネタ
大昔、ブラックがまだBと呼ばれた天使だった頃のお話。
天界は常に平和だ。大人も子供も関係なく幸せそうな笑顔を浮かべながら一日を過ごしていた。時に魔界から魔獣が入り込むこともあるが、それをたった一撃で倒すある天使がいた。そう、Bだ。Bは神に仕えている天使で、市民や部下もBの事を次代の神ではないかと口々に唱えていた。しかし、Bはこれ以上の階級はいらないと話していた。その様子を見ていた青い髪色の少年の天使がBをじっと見つめていた。
「Bさま…」
少年はBに近づきたかった。だがそれは叶わない、少年は顔を俯かせながらその場を去った。その時だった。
「S、『時間』だ」
Sと呼ばれた少年天使は自分より年上の天使に呼び出され神の謁見の間まで連れてこられる。Sには生まれつき持っているという『予見』と呼ばれる力が備わっていた。今後の天界にとって最も必要な力と言われたSは幼い頃から神の側に仕えていた。そのおかげで天界は常に平和であったが、同年代の子供達と遊ぶ事がないSにとっては窮屈な生活だった。そのためかSは笑顔どころか微笑みを浮かべる事すら出来なかった。いや、出来なかったというより『忘れた』といった方がいいだろう。毎日毎日、神に会い、天界の為の予見をし、娯楽も何もない退屈な日々。Sは憂いの瞳で世の中を見ていた。そんなある日、SがBを見つめていると。
「どうしました?」
BがSに話しかけてきた。Sにとってはまたもない機会だ。Sは宝石のような瞳をBに向ける一方、Bは無垢な瞳を持つ少年を見つめる。
「あ…あの…俺…貴方に…憧れてて…」
「わたしに?」
「はい…その…こ、この後お暇なら…」
「B様!また魔獣の群れが!」
「わかりました。すみません、仕事が入ったのでまたお会いしましょう」
バビュン!とBは音速でその場から去ってしまった。Sは呆気にとられ落ち込んでしまう。それもそうだ、Bは神様の右腕で仕事も迅速に行い尚且つ強い。自分なんかよりよっぽど地位も力も差がある。しかし、Sはある言葉を思い出した。
『またお会いしましょう』
そうだ、Sは自分にまた会おうと言ったのだ。Bは嘘をつくような非道な天使ではない。Sはその言葉を胸に、顔を上げて神の謁見の間へと足を運んだ。
***
「Sさん」
Sは突然名前を呼ばれ振り向くとBが笑顔で手を振っていた。どうやら今日は非番らしい。だが、Sは自分の名前を教えたのだろうかと疑問に思う。Sは天界四天王ですら知られていない、いわゆる影の立役者だ。何故名前を、とSは聞く。
「わたし、天界の住人のデータは把握しているんです。もちろん、貴方の事も」
「Bさま…」
「この後お暇ならわたしとお茶にしませんか?」
Sは持っていた書類を床に落としてしまう。今のは明らかに自分を誘ってくれたのだ。Bは大丈夫ですか?と書類を拾いSに渡す。Sは彼にありがとうございます、と返す。当然ながらしどろもどろに話していたが、Sは気づいていない。そんなSをBは愛おしく思っていた。
「ふふ、お顔が真っ赤ですよ?耳まで赤くなって…可愛いですね」
「か、揶揄わないでください…!///」
BはSの頬、耳たぶを触り優しく微笑む。他の天使から見ればセクハラに見えるだろうが、誰も見ているわけがなかった。人気のない所で会話が始まったのだから。
「それで?返事の方は?」
「あ…///あの…ご、午前中で終わりなので……」
「わかりました!お待ちしてます!D地区にカフェが出来たらしいのでそこに行きましょう!」
BはSに頑張ってくださいね、と頭を撫でその場から去っていく。Sは触れられた箇所を触り口角を上げていった。Sは無意識のうちに笑みを浮かべていたようだが、本人は気づいていなかった。
それから数日後。SはBと親しい仲になった。もう陰からコソコソ見る必要もなかった。しかし、それを良く思えない面子もいた。Sに嫌がらせが始まったのはその頃からだった。歩くSに足を引っ掛けたり、わざとぶつかり書類を踏みつけたり、仕舞いには水をかけたりと続いていた。Bはそんな彼を心配した。
「大丈夫ですよ…数日経ったら収まるんで…」
Sは薄く笑いBに失礼します、と告げ仕事に戻る。BはSを無表情で見つめ拳に爪を立てた。肉が食い込むように。
翌日、Sは自分に嫌がらせをしてきた天使達がいないのに気付く。他の天使に聞くが昨夜からいないとの事らしい。何があったのだろうか。その心配をよそに上司から呼ばれたSは謁見の間へと足を運ぶ。
しかし、今回の予見はいつもとは違った。
「Bさまが…悪魔と…?」
その言葉を聞いた神はニヤリと笑う。Sはその事に気づいていない。神はSに下がれと言いあるものを準備した。
数日後、Bは。
***
Sは一人、鍵のついた部屋に足枷をつけられ三角座りをしていた。あの予見をした数日後、Bは小さな悪魔を助けたのだがそれを見た神とその軍により天使の羽根を失い悪魔と共に魔界に堕ちた。それが話題となり人々は一瞬にしてBに対する信用を失ってしまった。しかしSだけはBがそんなことをする天使ではないと説き伏せていたが、その様子を見た兵士に取り押さえられ神に幽閉されてしまったのだ。自分が予見さえしなければ…Bは魔界に堕ちる事はなかった。もしかしたらBは既に…。嫌な考えばかりが頭に過ぎる。気づかぬ内に涙を流していた。涙を流すのなどいつ振りだろう。思い届かず、Sはただただ泣くことしか出来なかった。
(Bさまのいない世界なんて嫌だ…Bさま…今お側にいきます…)
Sは懐からナイフを取り出した。天使を殺せる唯一の呪器、『ケルトのナイフ』。いつ如何なる時に備えてSが探し求めたナイフだ。
「さよなら…」
グサ
この数時間後、冷たくなったSを兵士が見つけ、名実ともに彼はこの世から去ってしまった。
***
Bは魔界に堕ちながらも生きていた。彼は小悪魔と共に天界に舞い戻り、神の悪行を晒した後御殿を訪れていた。そう、Sを探しに、共に魔界に行く為に。様々な部屋を探すもSは見つからない。ようやく探し終えた時、
ガラスの棺の中で眠るSがいた。
Bは呆然とし、膝から崩れ落ちた?
自分が生涯愛すると誓った少年天使が。
棺の中で手を組み、冷めた体になっていた。
彼の側には『ケルトのナイフ』が鎮座されていた。
そうか、Sはこのナイフで息を引き取ったのか。
自分もすぐさま側に行きたかったが、『ケルトのナイフ』にはもう一つの効果があったのを思い出す。
『ケルトのナイフで刺された者は前世の記憶を無くしたまま、輪廻転生する』
Bはその期待に一縷の望みを持った。
もしかしたら自分の今後の人生の中にSの生まれ変わりがいるのではないかと。
「待っててくださいね、Sさん」
立ち上がったBは誓う。
いつか君と巡り合う時が来るのを。
願わくば、わたしの愛を受け止めてほしいと。
数千年後、B基ブラックはSに似た少年と出会うのだがそれはまた別のお話。