キス・キス「君の紙巻をください」
明智がそう言って強請るので、私は懐から朝日を取り出すと、わざわざ明智の口に持っていって一本咥えさせた。
「火もください」
明智は目を光らせて、ワザとそう言った。私は令嬢に仕える執事のような気分になって、恭しくマッチで火をつけてやった。
「如何ですか、お嬢様」
「フフ、ご機嫌麗しゅう。大変、美味しゅうございますわ。私、紙巻が大好きですのよ。口寂しいと、貴方が下さるものですから、助かっていますのよ。本当に、感謝してるんですのよ。だって紙巻がなければね、貴方とこうして抱き合った後に、名残を感じる事もできませんし…アラ、お嬢様らしからぬことを言いました。僕は令嬢になれそうもありませんね」
明智は高貴なお嬢様から、あっという間に只の書生に戻っていた。私はずっとこの遊びをしたい気持ちであったので、少々残念だった。
「口寂しい時は、紙巻がいらない方法があるんだよ」
私はどことなく自信気な顔でそう言った。
「オヤ、知りませんでした」
明智は素知らぬ振りをした。
「本当かい?」
「どうでしょう。実際にしてみない事には、分かりませんよ。言葉だけでは、物足りません」
「君は恋に貪欲なんだね」
「フフ、君もですよ」
私と明智は、二人で紙巻を灰皿に置くと、そっと静かに口付けを交わした。そして深く、深く、浸透した世界に入り込んでいった。