雨雫 喫茶店を出たら、もう夕暮れに近かった。
私と彼は二時間ほど、この喫茶店でクイズ・ゲームをして楽しんでいた。クイズは簡単だ。“僕が次に狙う宝は何か?”私は答えた。ダイヤモンド。プラチナ。目も眩いばかりの黄金のティアラ。それかひょっとしたら、僕の日記帳かも知れないね。彼は笑った。見事正解、と言わんばかりに。
私と彼は駅に向かって歩いていた。しばらくすると、空からパラパラと小雨が降り始めた。夕立だろう。二人とも傘を持っていなかったので、雨足が強まればずぶ濡れになってしまう。
予想通り、雨はざあざあと降ってきた。すると、彼は着ていたジャケットを自然に脱いで、私の頭に被せた。そして私の手を引っ張って、煙草屋の軒下に連れていった。
私はジャケットを被ったまま、そっと彼を横目で見た。彼は髪から雫を滴らせて、濡れてしまった白いシャツの襟を捲って、空を眺めていた。
「まだ降るようだね」
彼は自分が濡れた事を、全く気にしていないようだった。私は何だか顔を赤くしながら、彼のジャケットを肩にかけた。そしてポケットからハンケチを取り出して、濡れた彼の頬を優しく撫でた。
「君は優しいね」
私の言葉を聞いて、彼は意外そうな顔をした。そしてゆったりと微笑むと、欲しい宝が手に入ったよ、と言って、私を静かに抱き寄せた。