ここは異世界?「金田一さん、ちょっと、金田一さん」
森の中に隠れていた黙太郎は、先ほど手に入れたひのきの棒を握りしめながら、同じく木の影に隠れている金田一にそっと呼びかけた。
「アレ、あれは、何なんですか」
「んん…よく分かりませんが…ぶよぶよしてますねえ…」
二人は、遠くの野原でぴょこぴょこ跳ねるスライムをじっと見ていた。金田一はひのきの杖をギュッと握って、目を凝らしてスライムを見つめている。
「肉片…」
金田一の言葉に、黙太郎はギョッとした。
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ金田一さん、あれ…アレは、何かの肉なんですか」
「まだ、分かりませんが…この近くでたった今、殺人が行われて…バラバラの身体がまだ、回収されていない…その可能性があれば、あれは被害者の身体の一部、ではないでしょうか…」
「そ、そんな…そんな事があるっちゅうんですか」
「いえ、どうか…分かりません…」
陽気そうに跳ねるスライムを見ながら、黙太郎と金田一はじりじりと様子を観察していた。すると金田一は、決意したように立ち上がった。
「僕…ちょっと、叩いてみます」
「えッ!や、止めた方がいいすよ金田一さん!ありゃあ、ドウモおかしいですよ、この世のモノじゃないちゅうかね、さっき会ったですねエ、王様ですか、あの人を訴えるべきだと思うんですよ、僕は」
「でも…」
迷っている金田一を手で制して、黙太郎はまた地面へ坐らせた。そして手帳を取り出すと、ぺらぺらとページを捲った。今までの出来事を丁寧にメモしていたのだった。
「イヤ、あの王様って奴がですね、僕たちにですねえ、何だか大きいバケモンを倒せっちゅうてですね、頼んだ。マア、そこまではいいんですが、ホラお金。必要経費がですねえ、これだけしか渡されてない。しかも、この木の棒で戦えっちゅうんですよ。こりゃあね、なにか裏で仕組まれとるんですよ、裏で」
「ううん…事件だと、思ったんですがねえ…」
「…金田一さん、やっぱり。探偵する気が、あったですか?」
「う…う、はい…」
この世界でも、自然と猟奇殺人を求めてしまう金田一に、黙太郎はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
二人は森を後にして街に戻り、普段とは違う街並みを感じながら、楽しいひと時を過ごした。そして、スライムは完全に誤解されたままであった――
この後、二人は王様の城で本当に殺人事件に遭遇して、素晴らしい推理力で解決し、すぐに元の世界に戻ったそうな。
(おわり)