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    風呂_huro

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    風呂_huro

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    等金

    呪いの井戸「こりゃあ、だいぶ深いですねえ」
     事件現場の村から離れた山中に、その井戸は忽然と存在していた。等々力がライトで下を照らし、金田一も同じく井戸を覗く。しかし、照らした先は暗く何も見えない。
    「ええ、十メートルはあるでしょうな。聞き込みでは干上がったと言っていましたが、これだけ深いと…村人も寄り付かない場所ですから、誰が使っても気づかないでしょう」
     金田一は試しに小さな石を投げてみたが、何も音はしなかった。
    「ここに被害者が突き落とされた可能性はありますね」
    「あとはあの広い泥沼…ですか。どちらにせよ、この暗闇では発見が遅れますな。人員を増やして、全力を尽くしますが」
    「うーん…そうですねえ…」
     金田一はしばらく目を閉じて考えると、うんと思いきって身体ごと井戸の下を覗いた。
    「ああ、危ないですよ金田一さん。そんなに身を乗り出しては…」
     微笑みながら止めようとした等々力は、金田一の肩に触れようとした。その瞬間、等々力は片手を開いて、金田一の背中に手を張り付けていた。このまま押せば、彼は井戸に落ちるんだろうな…そんな朴訥とした考えが、不意に頭を掠めた。
    「…等々力さん?」
     振り向いた声にハッとして、等々力は急いで手を元に戻した。様子には気付かず、不思議そうな金田一の表情に、等々力は思わず視線を反らせた。
    「あ、いや…何でも、ありません」
     自分の想像に吐き気がして、等々力はハンカチを取り出してグッと口元を押さえた。
    「等々力さん、ご気分が悪いのですか。僕はもう十分現場を見ましたから、宿に帰りましょう。無理なされてはいけません、ずっと駆け回ったんですもの」
    「いや、すみません…警官が気分が悪くなるなど…これでは、金田一先生に顔向けできません」
    「いいえ、等々力さん。誰しも殺人に耐性などないんですよ。今回の事件は酷く惨たらしいですから、気分が悪くなって当然なんです。さあ、帰りましょう」
     金田一は等々力を思いやって、優しく微笑むと場を離れた。金田一に付き添われるような形で、二人は山を下りていく。
    「(私は何を考えていたんだ。金田一さんを手で突き落とそうとした…犯罪者の真似をしたというのか。私もいよいよおかしい、事件の陰惨さに流されでもしたのか…どうかしている…)」
     等々力は自分の衝動にショックを受けていた。本気では無かった、するつもりも無かった…そう感じていても、考えが掠めただけでも金田一に申し訳がなかった。警官がこんな事ではどうする、周りの感情に流されるなど言語道断だ、しっかりしなければ、心に入れ替えなければ…そう強く喝を入れる。
     この衝動が再び襲ってきたら、私は警官を止めるべきだ、とすら等々力は思った。この衝動は一体何なのか、何故その矛先が金田一に向かったのか、自分で自分が把握できないのが不気味であった。
     等々力は、今の自分を支えようとする金田一の健気さを感じながら、強く自分を戒めた。そして二人は、仄暗い井戸を去っていった。
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