夕暮れ「金田一さん、もう止めましょう、こんな事は」
衰弱して床に倒れていた金田一に突っ伏して、膝をついて等々力はそう言った。
「もう、私は耐えられない。こんなこと望んじゃいなかったんです。あなたがただ、傍にいてくれればいいと、それだけを思っていたんです。だがこれは、もう、犯罪と同じでしょう。警官として、自分が許せないんです。あなたを縛り付けるつもりではなかった。これじゃあ、何もかも許されないんです」
普段から想像もつかない程に、等々力も精神的に衰弱していた。表向きでは凛々しく胆力のある男でいたが、家に帰ると、もう自分が情けなくて堪らなかった。その目で金田一を見ると、愛情と劣情と哀しみが同時に湧き上がり、何もできなくなってしまった。
「いいえ、等々力さん。これは僕が望んだことでもあるのです。僕は、自分でも気づかぬうちに、どこか別の場所に消えてしまうんです。自分でも抵抗できないまま、いきたくもない方へいってしまうんです。あなたが縛ってくれれば、僕は安心なのですよ」
「金田一さん。あなたは私が支配していいような人ではない。もっと、様々な人に必要とされているんです」
「僕はあなただからいいのです。望んで、こうしているのです。それではいけませんか?」
等々力は弱々しく笑う金田一を抱きしめた。そして、震えるほど掠れた声で、ありがとう、と言った。その声は紛れもなく、本物の、真実の声色であった。
「いいんです、等々力さん。時が許すまで、ずっとこうしていましょうね」
等々力と金田一は、夕暮れ時の窓から差し込む光に包まれて、ただジッと、離れることなく抱きしめ合っていた。