「お前俺のどこがいいんだよ」
僕の部屋でソファの肘掛けに上半身を預け、半ば寝転がりながらウイスキーのグラスを傾けるヘルメッポさんのその言葉に振り向いた。ソファに寄りかかり床に座って本を読んでいたところでこの突拍子もない質問だ。僕は読んでいた本を閉じて目の前のローテーブルに置き、眼鏡を額にずり上げた。
ヘルメッポさんの顔を見ると白い肌がほんのり染まっていて、なかなか酔っ払っているようだった。でた…酔っ払ったときの絡みモードだ。
「はいはい、飲み過ぎだよヘルメッポさん。水飲んで」
「誤魔化すつもりかぁ?」
グラスをとりあげて本の隣に置くとヘルメッポさんベシベシと僕の頭を叩いてくる。もう…厄介な酔い方するんだから…。
「お?言えねぇのか?いいところ」
「そりゃ言えるけど…」
「じゃあ言ってみろよ〜」
頭を鷲掴みにされてぐわんぐわんと回されるように撫でられて催促される。こうなったら引くような人ではないので指を折りながらヘルメッポさんの好きなところをつらつらとあげることにした。
「すねた横顔でしょ。髪の匂い、長い下まつ毛、耳の形、笑った時にハの字になる眉でしょ…それと顎の形」
ヘルメッポさんは最初はうんうんと聞いていたものの段々照れてきたのかじわじわとむず痒い顔になっていっている。頭を撫でていた手の速度もだんだん落ちてゆっくりになる。
「照れた顔、あと皮肉やなのに意外と人情ものに弱いところ。動物系弱いよね。特に犬の話。それと…」
「もういい!もういい!!」
耐えられなくなってしまったのか、大きな声でついにストップをかけてきた。まだ全然言えてないのに!僕は後ろを勢いよく振り返って目元を手で覆って恥ずかしがっているヘルメッポさんに抗議した。
「まだ序の口にもなってないのに!言えって言ったのヘルメッポさんなのに!」
「俺が悪かった。俺が悪かった。もういい」
ひらひらと手を振りもう言うなと態度でも示してくる。これ以上やると機嫌を損ねそうなのでやめた。素直に喜んでくれたらいいのに。ヘルメッポさんが寝転がっているソファの端に肘をついて目だけで不満を言っても、彼は意に介さず平気な顔をしている。
「そんなすらすら言われるといっそ怖いな。逆に嫌なところはねぇのかよ」
「……まあそりゃ」
「言ってみろよ」
「……お腹がすくと機嫌が悪くなって黙り込むところでしょ。酔うとすぐ寝むたくなるくせに帰りたくないってごねるところでしょ」
特に二つめは今現在の状況をさしている。
「あと、気に入らない上官に不敬で軍法会議かけられそうでかけられないギリギリをせめて僕をハラハラさせるところ。これが一番なおしてほしい」
「それは俺のタチだからなぁ」
ひぇっひぇっひぇっと笑いながら改善要望を流されてしまった。
「なおすつもりなんてないのになんで言わせたの」
「そりゃお前、俺が聞きたかっただけさ」
もともとそういう性質でなおかつ気分良く酔っ払いにこれ以上言っても無駄だろうと僕はため息をついて苦笑いした。
「もうヘルメッポさんったら…別になおさなくてもいいよ。そんなところも全部好きだから」
「ほんとに俺のこと好きだな」
「今さら?」
まだ自分の好意のありったけを受け入れてもらえていないことに驚きつつ、立ち上がってソファに寝転がったままのヘルメッポさんの上に覆い被さった。そしてするりと手の甲でその滑らかな頬を撫でる。
「あとじゃあ最後ね」
「まだ何があるってんだよ」
ヘルメッポさんの怪訝そうな顔に甘えるように頬を擦り寄せ、耳元に唇を近づける。
「ヘルメッポさんの朝の掠れた声」
そう耳たぶに唇を触れるか触れないかのところで囁くと、ヘルメッポさんは沸騰したように一気に真っ赤になった。その顔を見て僕は堪えきれずにくすくすと笑い声をあげながらそのままヘルメッポさんの唇にキスをした。
本当に全部かわいくってしょうがないんだよ。