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    kisaragiOPfu

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    kisaragiOPfu

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    #夏の右ドフホラー祭り

    【??×ドフ】闇に棲む※原作程度の暴力表現あり
    ※なんでも許せる人向け




    噂話:D
    ねぇ、“くらやみさま”って知ってる?
    くらやみさまはね、子どもの味方をしてくれる神さまなんだよ。
    たすけてくれるのは本当に危ない時や、本当に叶えたい願い事の時だけだし、それにね。
    くらやみさまにお願いをすると、必ず誰か死んじゃうから、お願いしちゃだめなの。
    片思いの男の子と両想いになれますように、ってお願いをしたら、その男の子が死んじゃったりとか。
    いじめっ子をこらしめてほしい、って言ったら、そのいじめっ子が死んじゃったりとか。
    絶対に、誰か死んじゃうんだって。
    だから、くらやみさまにお願いをしちゃダメなの。
    それでもお願いしたい時にはね、こう言うの。
    くらやみさまお願いします、●●をしてくださいって。
    必ずひとりの部屋で、夜の11時ぴったりに言うの。
    そうすれば、次の日にはその通りになって、でも、かわりに誰かが死んでるの。
    だから、”くらやみさま”にお願いしたら、ダメなんだよ。
    次はあなたの番かもしれないから。





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    通信記録
    XX/YY/ZZ 01:10

    くらやみさまが来る?……そのようなことでお電話を頂きましても、本官としても対応しかねるところがあります。……はぁ。なるほど、その部下の方が呪ったに違いない、と。どちらかといえば、そういったことは神社とかに頼んだ方がよろしいかと思います。少なくとも、人的被害もなければ、実際に何かをされた訳でもないですし。お話だけ伺うと、そんな呪いなんかかけられるような、そちらさんが悪いような気がしますがね。いずれにしても、実際にその、なんでしたっけ?くら、くらやみさま?が来てからお電話ください。では。





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    ●●大学学生の覚書

    ●●市内で“くらやみさま”の怪談が伝わるようになったのは、ここ十数年のことだ。
    “くらやみさま”の怪談には大別して三つのパターンがある。
    ひとつは、“くらやみさま”は子どもの味方をしてくれる、という類のものだ。
    帰り道で道案内をしてくれる、といった無邪気なものから、いじめられたらくらやみさまに願えば相手は死ぬ、といった呪いに類するようなものまで幅が広い。
    ふたつ目は、“くらやみさま”に願うと恋が叶うというものだ。
    これにもバリエーションが非常に多く、両想いになれる、というものから、相手の悪事が露呈するというもの、必ず幸せな恋がやってくる、というものもある。
    願い方にもバリエーションがあり、共通しているのは、ひとりでいる時、夜間に、“くらやみさま”に願うというものだ。
    最後は、“くらやみさま”は願いを叶えてくれるが、確実に誰かが死ぬ、というものだ。
    これは概して前述の二つのパターンに結びついており、誰かが死ぬことを覚悟で願わなければならない、と結ばれる例が多い。
    実際に“くらやみさま”を目にして逃げたという怪談話というよりは、“叶ったが誰かに何かがあった”という語り口で語られることが多い点は怪談というよりは怪異譚というべきかもしれない。
    筆者が小学生の頃には既にその怪談はあったし、それに類する経験をした、という報告は複数あった。
    だが、実際に“くらやみさま”と邂逅したという報告は非常に少なく、怪談の起源も不詳である。
    ただ、ある一定の時期に●●市▲▲町周辺で“くらやみさま”の名前が聞かれるようになり、その怪談は十年以上にわたって、●●市の小学生の間で語り継がれている。
    (以後の記載はない。某研究室の没ファイルの中で発見された記載である)





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    投稿:G
    XX/YY/ZZ 17:30

    バイクで事故って死にかけたけど無事です。プロテクターとヘルメットとバイクは全部ダメになったけど、すぐに通りかかったひとが救急要請してくれたみたいで、骨折だけで済んだ感じです。噂の”くらやみさま”のおかげかも!ありがとう。





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    証言:●●市小児誘拐事件容疑者

    あの時のことは……思い出したくもない。
    そうだ、地元で有名な医者の息子だって聞いて、誘拐した、ただそれだけだ。
    金さえもらえれば、あの子どもは返してやるつもりだった、本当だ。
    ……思い出せっていうのか。あぁ……最悪だ。あの時のことは、いまも夢に見る。
    あれは仲間割れなんかじゃねぇ、誓ってもいい。気が狂ってるって言われようが、なんだってかまわない。
    仲間割れなんかじゃ……ないんだ。
    ……そう、ガキを攫って、山小屋に隠れて、明日から交渉だって思ってた晩のことだ。
    仲間と交代で寝ようってんで、おれが横になってすぐ、見張りをしてた奴が急に倒れたんだ。
    人間てのは倒れると、すげぇ音がするだろう?だから何だ?と思ったけど、他の寝てた奴が起きて騒いでるみてぇだったから、おれはもう毛布をひっかぶって寝てたんだ。
    そうしたら、その起き上がった奴の絶叫が、次に聞こえて。
    その瞬間、ぞくぞくと背筋が震えて、“起きたらヤバい”って、思った。
    おれぁ、自慢じゃないが、少しその、霊感ってのがあって、“感じちゃいけないもの”がわかるんだ、実家が神社のせいだろうな。まぁ、とっくに勘当されてるけどよ。
    あの時は、もう、全身の毛が総毛立つってのがわかったね。
    なんだか知らないが、“生易しい”もんじゃないやつが、そこに、明らかな意思を持って“在る”。
    そう理解した瞬間から、もう、おれは動くことができなかった。
    気が付けば、どんどん断末魔の声は増えていって。
    やけに毛布が湿ってるな、と思った時には、鼻に血の匂いがして。
    ずり、ずり、って音を立てて死体が引きずられていく音が、した。
    明らかに悪意を持った何か人ではないものが、死体を引きずってこちらに近付いて来る。
    そう気づいたところで、何もできなくて。
    生温かい血の沁みた毛布の中で、おれは震えることしかできなかった。
    震えるおれの近くで、その“気配”は止まって。
    ぬ、とおれの顔を覗き込んだ。
    そこにあるのは、真っ暗な闇で。
    でも、そこに“いる”ことがわかって、震えるおれに、そいつは。
    【お前が、他の二人を殺したと証言すれば、命は取らないでいてやる】
    そう、言った。
    冷たい声だった。
    ここに来て、何人もの人殺しと会ったし、死刑囚とも会ったが。
    あの声に比べたら、比じゃねぇよ。
    とにかく冷たくて、おれを殺すことに何の迷いもない、声だった。
    そんな声で脅されて、おれに選択肢がある訳もない。
    わかったから、命を助けてくれ、と言ったら、その影は消えて。
    気が付いたら、朝だった。
    誘拐したガキはいなくて、小屋の中は……血の海だったよ。
    おれの手には、銃が握らされていて。
    ひとりは眉間にズドンと一発。もうひとりは、心臓のど真ん中に一発。
    間違いなく、おれじゃない。銃なんて使ったこともねぇやつが、あんな芸当できる訳もない。
    しかも、二人とも、腹に殴られたような痕があって。
    そこについた拳の大きさが、おれとぴたりと一致するようになっていた。
    ……信じられねぇだろう?でも、後悔してない。
    豚箱の中で暮らすことにはなったが、それでも、外にいてあんな化け物に付け狙われるよりはマシだ。
    あれは、生易しいもんじゃない。
    悪霊だとか、呪いだとか、そういう言葉で片づけられるようなもんじゃ、ないんだ。





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    特選受賞者のコメント:J

    この風景は、わたしの転機になった頃の記憶を元に描いたものです。画業を志すも芽が出ず、小学生向けの画塾の教師をしていた頃、生徒さんのひとりとよく芸術家の話をしました。その時に、わたしは絵を売ることに躍起になっていたことに気が付かされました。わたしが表現したかったのは、わたしの目を通じて見る世界だということに気が付いて最初に描いたのが、暗闇でした。今は失われつつある、漆黒の、異形の棲む世界を描いた絵は、お世辞にも一般向けのものではないと思いますが、その絵が画壇に評価され、今こうして特選にまで選ばれたことを嬉しく思います。





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    証言:S

    わたし、“くらやみさま”に会ったことあるわ。ほんとよ。
    そうね、あれはわたしがまだ小学校4年生の頃の話。
    わたしには8コ上のお姉ちゃんがいるんだけど、お姉ちゃんが高3だった時に、お姉ちゃんをストーカーしてる男がいたの。
    お姉ちゃんはその頃、ファミレスでバイトしてて、めちゃくちゃ美人だから目立ったのよね。えぇそうよ、わたしの自慢のお姉ちゃんですもの。美人なことには間違いないわ。
    まぁ、ただのストーカーなら警察に相談で終わるといえば終わるんだけど、その相手がよりによって地元の市議会だかなんかの議員の息子とかで、しかも割と目立つやつで取り巻きもいっぱい、みたいな奴だったのよね。
    そんな感じだから、お姉ちゃんも親も強く言えなくて、でも明らかにお姉ちゃんはそいつのこと嫌いだし、バイト先に居座るし、付き合ってもないのに家に押しかけてくるし、デートを断ったら家の周りを暴走族がぐるぐる走り回るし、もう、最悪だった。
    だから、“くらやみさま“にお願いしたの。
    誰かが死ぬって知ってたけど、別にあいつが死んだってかまわない、と思った。
    あいつが死ななきゃ、お姉ちゃんが苦しむのなら。
    あいつがどうにかなって、逆にわたしが死ぬとしてもかまわない、と思ったの。
    ……ばかよね。生きるとか死ぬとか、そんな簡単なことじゃないのに。
    どっちにしても、夜11時にベッドの中でひとりで、唱えたの。
    くらやみさま、お願いします、あいつを殺してください、って。
    そうしたら、ぬっ、と部屋の片隅で真っ暗な影が蠢いて。
    じっ、と見られているような気がしたから、見つめ返したの。
    怖かった……のかしら。全然、覚えてないわ。
    でも、どうしてかひどく、“懐かしい“ような気がした。それだけは、覚えてる。
    あとは、“くらやみさま“に、【幸せか?】って聞かれたの。
    その前にも……何か話したような気もするけど。
    覚えてるのは、その問いかけに、【今は幸せじゃないわ】って答えた、ってことだけ。
    気がついたら朝になってて、夢だったのね、ってがっかりした。
    でも、その日の夕方、お姉ちゃんが複雑だけど、少し嬉しそう、みたいな顔で帰って来たから、何かあったのって聞いたら。
    例のストーカーが、車の事故で死んだ、って。
    取り巻きのひとりが運転してる車で、電柱に突っ込んで死んだみたい。
    免許を取り立てで、スピードを出しすぎての事故で、取り巻きもストーカーも全員即死だったって聞いたわ。
    その死亡時刻はね、ちょうど、その日の0時頃。
    わたしが“くらやみさま“にお願いをした1時間後、だったんですって。





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    報道

    ●●市▲▲町に住むRさんが町内に住むツキノワグマを空手で退治したとして表彰を受けた。
    退治した個体は体重150kgのオスで、死亡が確認されている。Rさんはたまたま山で山菜を採取していた際に、地元の児童がツキノワグマに追われているところを発見し、「無我夢中で応戦しました」とのこと。児童は小学校の課外活動中であった。





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    投稿者:ニコラシカ

    今日は酔っているんで、誰かに話を聞いてもらいたくて書き込む。
    おれは金融関係の会社員なんだが、もう十年以上も前、某支店の営業部にいた時の話だ。
    その支店に出向してすぐに、ある上司に目をつけられた。
    よくあるパワハラを受けて、毎日残業ばかりで、数字を出してもパワハラ上司の手柄にされて、元々は仕事が好きだったし、この会社で勤め上げたいとまで思ってたのに、毎日毎日おれとは無関係のことで怒鳴りつけられて、なのに周りは仕事をおれに頼ってくるし、そうなると余計に上司の機嫌が悪くなるし、仕事がすっかり嫌になりそうだった。
    そんな時、息子が学校の友達に聞いたって言ってたおまじないを思い出した。
    夜中にベッドの中で、“くらやみさま”にお願いをすると叶うってやつだ。
    いやニュアンスは詳しくは覚えていないが……とにかく、その日も当然のように日付が変わるまで残業してたおれは、残業しながら、そのくらやみさまとやらを呼んだ。
    くらやみさま、お願いです、とっとと楽にしてください。
    そう言った瞬間に。
    【お前がそう思う必要はない】
    って、誰かに耳元で囁かれて、慌てて振り返ったんだが、そこには誰もいなかった。
    あれは、きっと残業のしすぎて幻聴が聞こえたんだと思うんだが……
    パワハラ上司が死ぬ?そんなんてことはなかったが、普通におれは翌年本社に呼び戻されて、それから二度とその支社に戻ってはいない。
    今日書き込んだのは、そのパワハラ上司が横領と支店内の不倫で破滅したから。
    その、“くらやみさま”ってやつのおかげっていうよりは因果応報なのかもしれんが。






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    報道
    XX/YY/ZZ 17:25

    本日14時頃、●●市内でつむじ風が突然発生し、屋根瓦やテントが飛ばされるなどの事故が発生しました。●●小学校では運動会が開かれており、校庭のテントが飛ばされたため、児童15人が病院に搬送されましたが、全員軽症で命に別状はありませんでした。気象台によれば、さまざまな気象条件が重なったため偶発的に突風が発生したと考えられるとのことです。学校は今後事故状況の検証を行い、今後このような事故が発生しないように注意したいと話しています。






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    投稿者:牛

    この前ちょっと不思議なことがあったんで、聞いて欲しい。
    その日は学校が試験期間で、午前だけで試験が終わって、午後に塾に行って、帰るところだったんだ。
    ちょっと塾は家から遠いんだけど、おれの幼馴染(男)がそこに通ってて、成績がいいって知ってから、親がそこに行かせててさ。
    とにかく、そこで勉強して、帰るのは夕方頃だったかな。時計を見たら16時過ぎてて、早く帰らないと18時までに家に帰れない、って思ったんだ。
    そっから家までは歩きなんだけど、その途中に結構見通しが悪いところがあってさ。
    一応信号機もついてるけど、まぁ滅多に車が通らなくて、地元の連中は信号無視して通る、そんなところ。
    そこに通りかかった時に、路地でサッカーしてる小学生がいて。当然、そういうところだから、流れたボールを取りに、小学生が横断歩道に飛び出すのが見えた。
    で、それと同時に、多分地元のやつじゃない車が、めちゃくちゃスピードを出して突っ込んでくるのが見えて。
    その瞬間に、体が動いてさ、小学生を横断歩道の向こう側に突き飛ばしてた。
    でもまぁ当然、おれにはスピード出してくる車が突っ込んでくる訳で。
    あぁもう無理だな、とおれは思った。
    いやほんと、死ぬときに全部がスローモーションに見えるって本当なんだな。もう、運転手が絶叫してるのが見えたし、横断歩道の向こう側にボールが転がってくのも見えて。
    あぁ、こりゃもう死ぬなって思った時に。
    誰かに、ものすごい力で背中を引っ張られて。
    気がついたら、おれは横断歩道の手前側にすっころんでて。
    呆然としながら後ろを振り返ったけど、そこには誰もいなくて。
    少し後で、車が近所の家の塀に衝突する音がして。
    そんでおれはその小学生の親に感謝されたり、警察に呼ばれたりなんだりして、翌日のテストは散々だったんだけど。
    でも、背中を引っ張られたのが不思議で、幼馴染にその話をしたんだ。そうしたら。
    【あぁ、“くらやみさま”だろ】
    って言われたんだ。
    なんでも、幼馴染も、同じように危ないところを“誰か”に助けてもらったことがあるらしい。
    それの名前を、例の塾の先生に聞いたんだけど、“どうしても覚えていられなくて”、くらやみさまって呼んでるんだってさ。
    そいつも、塾の先生も、“くらやみさま”に助けてもらったことがあって、だから知ってるって。
    みんなが“くらやみさま”に助けてもらってることも、“くらやみさま”の名前を、覚えていられないことも。
    なんか、不思議な話だろ?





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    宿直記録
    XX/YY/ZZ 19:30

    用水路に児童が突き落とされたとして通報あり、現場へ急行。
    突き落とされた児童は意識不明であったため救急要請を行った。
    突き落とされてから通報までは約10分、救助までに要した時間は5分程であった。
    水底に沈んでおり、救命は困難と予想されたが、心肺蘇生には成功したと病院から当署へ連絡あり。
    突き落とした児童については、口論の末とのことであった。
    被害児童の両親は児童が救命されたため被害届の提出は望まず、本件は終了した。





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    噂話:B

    おまじないを、知ってる?
    彼氏が浮気してたりしないか、確かめるおまじない。
    くらやみさま、お願い、彼を紹介していいか教えて。
    そう、夜の23時にひとりきりの部屋で唱えるの。
    そうするとね、彼氏が浮気してたら、翌日絶対にその現場に巡り合うの。
    でもこのおまじない、浮気だけじゃないのよ。
    彼氏がヤバい悪徳商法の業者だったら、翌日には消えてるし。
    彼氏が借金を作ってたら、翌日あたしのところにその業者が来たりするの。
    なんで“くらやみさま”かって?
    わからないわ。でも、いつからか、そう言うようになったの。
    確か最初は、そう、あの、医学部にいった幼馴染の子。
    あの子に、そんなに悪い男にひっかかるなら、くらやみさまに言えって言われて。
    くらやみさま、ってね、わたしと幼馴染についてる守護霊みたいなひとのこと。
    みんな見たことないんだけど、でも、必ず何かあったら守ってくれるの。
    別の幼馴染が車にひかれかけた時も助けてくれたし、医学部に行った幼馴染が誘拐された時も助けてくれたし、二人が自転車で遠くに行って帰り道がわからなくなった時も先導して帰してくれたんだって。
    あたしはそんな危ないことはしなかったけど、高校生になって初めて彼氏ができた時も二股かけられたし、その次の彼氏はバイク事故起こすし、ほんとに男運ない!って言ってたら、幼馴染が“くらやみさま”に聞いてみろ、って言って。
    それから、彼氏ができて一か月たったら、絶対におまじないを唱えるようになったの。
    なんか、本当はあたしの幼馴染の塾の先生の守護霊?らしいんだけど、なんかあたしたちのことも守ってくれるのよ。
    その塾の先生も、何かいまは医者になってて、幼馴染と一緒に仕事してるみたい。
    ほんとよ!この前のあの彼氏も、“くらやみさま”にお願いしたら、翌日には夜逃げしてたんだから!
    それって呪いなんじゃないかって?
    まぁそうかもしれないけど、でも、結果的にあたしにはプラスになってるし……なんか悪いひとじゃない気がするの。あれ?ひと?なのかな?わからないけど。
    でも、このおまじないは本当に効くから。試してみて。






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    報道
    XX/YY/ZZ 10:25

    昨日の大雨の際に、●●市▲▲町に住む男子中学生(14)が「川の様子を見に行く」と行って家を出たまま、連絡が取れないとの通報が家族からあり、警察は行方を追っています。雨は上がっていますが、川の水量は多くなっているため、川には近づかず、土砂崩れにはくれぐれも注意してお過ごしください。






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    雑誌記者Mの覚え書き

    ある日、とある小さな暴力団が“消えた”というのがマルボウで話題になったことがある。
    そこは金貸しをメインでやっている事務所で、ある日忽然と、組長以下数十人が全員姿を消した。
    当然、その組は大きな組の傘下だったから、本家は血眼になって、連中を探したし、連中を始末した犯人を捜した。
    けれど、何も、誰も見つからなくて、記者連中の間でも怪談だなんて言われたりしていた頃に。
    ●●市のとある湾内で、その暴力団全員の死体が上がった。
    その死体は、ことごとく、酷い有様だったらしい。
    食い荒らされたようなもの。蛆に喰われたようなもの。石を投げられたようなもの。生きながら焼かれたもの。
    しかも、その死体すべて、心臓がきれいにくり抜かれていたらしい。
    その時点で、本庁も巻き込んだ大騒ぎになった。
    そんなのは国内の連中の流儀じゃねぇし、こりゃあ下手人は確実に殺しに慣れてる奴だろうって話になって、なら大陸のマフィアだとか、いや南米のカルテルだとか、色んな見方があったし、本家も含めて、大捜査網が敷かれた。
    けれど、何の証拠も出なかった。
    鑑定した連中が言うには、証拠もなにも、まず、“人間じゃありえない”殺し方だって話だったな。
    科学捜査の世界じゃ、傷跡についた獣の唾液だとか、化学繊維だとか、そういう小さなものからでも犯人の証拠ってのはつかめるものらしいが……とにかく、証拠となるようなものは”なにも”出なかったらしい。
    海中に沈められてたせいもあるだろうが、それにしたってあまりにも“なにも”見つからなかったもんだから、いつからか……冗談半分で言われるようになった。
    あの組は、“呪われた”んだってな。
    そんなある日、突然、本家の組長が、この件からは手を引くって言いだした。
    普通、そんなことを言いだすことはありえない話だ。“親”の面子に関わるからな。
    だが、組長が突然そう言い出した上に、それに反対意見を唱えた奴らも、続々と“手を引く”って言い出した。
    そうこうしてるうちに、その話はうやむやになって、話題に出す奴も、覚えてる奴もいなくなった。
    ヤクザの世界ってのも生き馬の目を抜く世界だからな。たかが末端がひとつ潰れたところで、気にする奴なんてそんなにいない。しかも、”親”がそれを許容し、組内も組外も右に倣え、なら何か文句をつける奴もいない。
    だけど、なんとなく据わりが悪いだろう?こういうのは記者の悪い癖なのかもしれないが。
    なんだかそのことが、ずっと頭のどこかに引っかかっていて……この前、たまたま刑務所で、その組の関係者で、手を引くことに反対した若頭と面会する機会があったから、聞いてみたんだよ。
    結局あれはなんだったんだ、って。
    そうしたら。
    奴らは、“取り立てちゃいけない相手から取り立てた”って、その若頭は言っていた。
    どうも……人ではない何かに金を貸して、取り立ててしまったんだと。
    どうしてそれがわかったんだ、って尋ねたら。
    本家の組長の枕元に、下手人の“ソレ”が立って、手を引けって脅されたんだそうだ。
    手を引かないって言った連中の枕元にも必ず、“ソレ”は立って、その警告を無視した翌日、必ず配下のひとりが陰惨な死体で見つかったらしい。
    必ず“心臓を抜かれた”状態で。
    はは、なんだか三流紙みたいな話だろ?






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    救急隊記録
    XX/YY/ZZ
    07:35入電。●●市内の住居より、息子が首を吊っているとのこと。サイレンを鳴らさずに来て欲しいとの要請あり。08:00現着。現着時点で心肺停止状態であり、心肺蘇生を開始し、搬送先の選定を開始した。同乗者はなし。通報者(傷病者の父)に同乗を依頼したが、勘当しており自分の子ではないからと同乗を拒否。同じく現場にいた母親にも依頼したが、このような子どもは自分の子ではないと同乗を拒否したため、心肺蘇生継続し搬送しつつ、妻に連絡。妻も絶縁しているとして病院へ向かうことを拒否。身寄りなしとして搬送することとした。





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    証言:D
    怪談なぁ。そんな洒落たこと知らねぇよ。
    怪談じゃなくて、ちょっと不思議な話、ってのならあるぜ。
    うちの小学校にめちゃくちゃドジなやつがいてさ。
    いやもうドジの具合ってのがひどいんだって。
    何もないところで転ぶなんてのはかわいい方で、階段落ちなんてしょっちゅうだし、給食係してたら絶対にひっくり返すから給食は食べる専門だし、掃除をしたら教室を破壊するからいつも座らされる、って具合。いやぁ、あれを見てから、おれはドジな女ってのは大体フェイクだってわかるようになったな。本物のドジってのは次元が違う。
    まぁ、つまり、破壊的にどんくさいやつでさ。
    で、どんくさい奴って、大体教師に目をつけられるだろ。
    そいつも案の定目をつけられて、それがよりによって体育の教師だったりするわけだ。
    よく罰走みたいなのさせられてたよ。あれ、田舎だったから許されたんだろうな。
    それで、教師が目の敵にすると、なんとなく小学生ってバカだから、段々いじめられるようになって……しかも家が貧乏で、借金で夜逃げしてきた、とかでかわいそうだったな。
    まぁ、これだけなら、ただのどんくさいやつの話なんだけど。
    ある日の通学路で、そいつが用水路を覗き込んでるのに出くわしてさ。
    おれはもう、何も考えずに、そいつの襟首引っ掴んで、用水路からひっぺがしたね。
    そんなドジ野郎と用水路なんて相性最悪だろ。しかも田舎の用水路ってのは大体深くて流れが速いんだよ。子どもが落ちたらまず助からない。だから、襟首を掴んだってワケ。
    おれはそいつを怒って襟首掴んだまま家に送り届けたけど、そいつに泣かれるし、そいつの父親にはペコペコ謝られるし、散々だったけどな。
    それで、ここからが不思議な話、なんだけどさ。
    その夜、おれが自分の部屋で寝てたら、暗闇の中から誰かが話しかけて来るんだよ。
    助けてくれてありがとう、って。
    何言ってんだこいつ、って思ったら、あのドジを助けてくれてありがとう、って言われて。
    いや別に大したことしてないし、って返したら。
    代わりに願いを叶えてやる、ってその暗闇の中の誰かが言うんだよな。
    その頃のおれはガキだったから、なら野球を上手くしてほしい、って言ったんだ。
    なんかこう……今にして思えば、その暗闇の中の奴も、困っただろうな。そういうのって、こう、五穀豊穣とか商売繁盛とか恋愛成就とか、そういうのを願うもんだろ?でも、なんせおれもガキだったから、それ以外に願いが思いつかなかったんだ。
    けど、その後から、本当にどんどん野球は上手くなった。
    バッティングもコツを掴んだし、ボールもうまく取れるようになった……気がする。
    まぁ実際には指導者が変わったのが良いんだろうけどな。
    そのどんくさい奴を目の敵にしてた体育教師が売春でお縄になって、大学野球をやってた先生が来て、その人のおかげだとは思う。あとは、中学の時にいい塾に通えたから、野球強い高校に入れたから、かなぁ。
    え?十分ホラーだって?んなこたぁないと思うんだがなぁ……






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    記録
    XX/YY/ZZ 21:00

    本校の生徒が踏切内に入り、お互いにふざけていたところ電車事故に遭った旨の連絡あり、対応。
    生徒は2年X組の●●であり、側には■■と▲▲がいた。保護者には連絡済みであった。
    警察対応となっており、■■および▲▲は煙草、酒を所持していた。
    二名は酒に酔っており、よく覚えていないと証言した。
    校長に報告、明日緊急の職員会議を開くこととなり、各教員に連絡を行った。
    なお、経緯については生徒には通知しないこととした。






    ・--・ ・・-・- ・--- ・--・ ・・・- ・・ ・-・ -・--- 





    証言者:C

    あぁ、“くらやみさま”。
    あいつの“守護霊”だかなんかだろ。
    おれが会ったことがあるのは一度だけだ。
    あれはおれとあの野郎が大学生で、まだ出会ったばかりの話だ。
    あれはもうその頃既に投資をやってて、手堅く稼いでて、おれとあれが会ったのも経済学部の講義でだった。確か経済論の授業だったな。……そうだ。あいつは医学部だってのに、経済学部の授業に潜り込んでた。それを言うなら、法学部で潜ってたおれも同罪だが。
    そんなこんなで、あれとは割合仲良くやってたし、まぁ今もそこそこ付き合いはある、って訳だ。
    おれと奴が会って、数か月経ったある夜に、突然夜半に目が覚めてな。
    ぼんやりと目をあけたら、枕元に大きな影が立って、おれの顔を覗き込んで来ていた。
    見間違いかと思ったが、明らかにそこには何かが“いて”、おれの顔をじっと見ていた。
    ……見るってのはおかしいか。そいつには顔も目もなくて、だが、“見られてる”ってのはなんとなくわかって。
    思わず、おれが息を呑んだ時、そいつは。
    【彼のことを、よろしくお願いします】
    そう、言った。
    どうして敬語なんだ、ってのが最初の印象だったな。
    こういう怪談ってのは大体脅す時は敬語じゃないだろう。
    声?そうだな、やたらイイ声の男だった。それもなんだか怪談にしちゃ不釣り合いだったな。
    小さい子どもだとか、あるいはおどろおどろしいしわがれ声ならまだしも、渋い男の声だったもんで、恐怖も薄れて。
    だから、つい。
    そんなもんはおれとあいつが決めることで、お前が決めることじゃねぇ、って言い返したんだよな。
    ……いや、自分でもばかげていることは百も承知だ。こういうのは刺激しないに限るんだ。部下には絶対に言うなよ。
    だが、まぁ、そんなことを言い返したおれに、“そいつ”はどこか動揺したように揺れた後。
    【なら、誰に頼めば?】
    そんなことを言うから、そんなもん自分で考えろ、っておれは言ってやったよ。
    そうしたら、また動揺したように“そいつ”は揺れた後で。
    【気が変わったら、いつでも言ってくれ】
    なんて言った後で、すっと消えて行った。
    そっから別に気が変わることもなく、あいつとおれとはまぁ、そこそこの付き合いを続けている訳だが。
    あ?気が変わってみるつもりは?
    ……口先だけで、納得するようなモンじゃねぇだろ、あれは。
    なんとなく、そう思う。
    悪いモンじゃないんだろうが、きっと良いモンでもない。
    だからきっと、下手な嘘や、下手な偽りは、あれを刺激する。
    あんなモンに偽りを立てて、せっかく軌道に乗った事業をフイにする気はおれには無いからな。あぁ……もう時間だ。何か追加で用があれば、秘書室に連絡をくれ。






    ・-・・ --- ・--- -・ ・・-- ・・-・- -・・- ---・- 





    音声記録:端末が水没していたため復元は不完全
    --/--/-- ::

    こ、ここ、どこだ?え?なんで、おれ……こんなところに?……(雑音で聞き取れない)……は?いや、だから、ここどこだ、って……(ひどいノイズ音)……おい誰だよ、そこにいるの。さっさと出て来いや!!くだんねぇいたずらしやがってよぉ!!ブッ殺してやる!!あぁ、それともあれか?なに、いま流行りの復讐系とかそういうやつ?あんなのガキの頃の話だし、あいつは無事だったじゃねぇか、なにを、……(ブツ、ブツ、と途切れるような音が続く)……ま、まて、ッおい!なぁ、これ、いたずらだよな?なぁ、おい!おい、なんだよ……なんで、誰も……いないんだ…!?なんで!(波の音が、遠くで聞こえる。その後、プツ、というノイズ音と共に録音は終了している)







    ・--・ ・・-・- ・--- ・--・ ・・・- ・・ ・-・ -・--- 




    証言:P

    “くらやみさま”の話か。おれも知っている。
    というか、なんといえばいいのか……おれも世話になった。
    “くらやみさま”と話したことはないんだ。
    おれはドフィと違って霊感もないし、ロシナンテほどドジじゃないからな。
    ドフィとは小学校の途中から一緒だ。
    あそこのオヤジさんが借金作って夜逃げしてきた後、通学路が一緒だったから、自然と仲良くなった。
    あの集落に住んでる子どもはおれだけで、その集落のさらに向こうにドフィたちの家はあったからな。
    田舎者だったし、おれはこの声だし、ドフィは敵を作りやすいしで、まぁ……いじめられたよ。
    石投げられたりもしたし、おれとドフィのランドセル隠されたりとか……色々あった。
    でも、つらくはなかったな、ドフィが一緒だったからだろうな。
    “くらやみさま”とも多分一緒に遊んだ。
    鎮守の森って言われてるところで、ドフィと一緒に秘密基地を作ったりしたんだけど、そこはドフィと一緒じゃないと絶対にたどりつけなくて。
    どうして?って聞いたら、“くらやみさま”が教えてくれる道じゃないといけない、って言われたな。
    いまにしてみれば、そりゃ神隠しってやつのはじまりじゃないか?とか思うけど、あの頃は友達ができたのがすごくうれしくて、あんまり深く考えなかった。
    “くらやみさま”のことで覚えていることといえば……そうだな。
    ドフィを用水路に突き落とした奴らの、ことだ。
    あの時は本当に、大騒ぎになった。それこそ県警本部から人が来るかもって騒ぎになって、でも騒ぎを大きくしないでくれってドフィのオヤジさんが言って……それから、おれもドフィもロシナンテもいじめられなくなった。
    まぁ、ドフィは県の大きな病院に運ばれて、一か月くらい集中治療室にいて、学校は半年も来られなかったから、命が助かったのが奇跡みたいなもんらしいけど。
    まぁ、そのドフィを殺しかけた奴らのことなんだが。
    一人目は確か川を見に行って流された。中学2年生の時だったかな。
    そいつの葬式に行った時、ドフィが怖い顔をしていたから、どうしたのか聞いたら。
    【アイツを叱らないといけない】
    なんて言っていた。
    それが……どういう意味だったのかは、よくわからない。
    もしかしたら、ドフィを守るために“くらやみさま”が何かした、っていう話なのかもしれない。
    確かに、ロシナンテを転ばせた連中が校庭に発生したつむじ風に巻き込まれただとか、ドフィがかわいがってる後輩が事故りそうになって何かに助けてもらったとか、そういう話があったから。
    今にして思えば……何か、あったのかもしれない、と思うよ。
    その他のドフィを用水路に落とした連中の話か?
    一人目は川に流された。中学2年生の時に、大雨の後で“川の様子を見に行って来る”って言って戻ってこなかった。
    二人目は電車にはねられた。それが高校2年生の時。飲酒と喫煙もあったけど、地元じゃ名士の家の奴だったから、不問になった。
    三人目はゼミ合宿で海に行って溺れたって噂だ。おれは高校卒業と同時に地元出たからわからないけど、同窓会で聞いた。
    四人目が、この前死んだ。
    いわゆる“名士”の息子で、地方銀行に就職した奴だったんだが……この前首を吊ったって話だ。
    噂じゃ、家の外に愛人を作ってて、その女に貢ぐんで借金して、地銀の金を使い込んで……それが父親にバレて、勘当される騒ぎになって。結果として、首を吊った。
    どれも、よくある話だから、どこまで“くらやみさま”が絡んでるのかは知らない。
    ただの陳腐なホラーで憶測に過ぎないし、そんなところに繋がりはないかもしれない。
    だから、この話は、話半分に聞いてくれ。
    ……え?“くらやみさま”が怖くないのかって?
    どうして……だろうな。
    きっと、あいつは呆れるだろうけど、おれを見放さない。そんな気がするんだ。
    確証なんてないのに、ずっと、“知っている”、そんな気がする。
    ただ、それだけだ。





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    当直日誌
    XX/YY/ZZ 23:00
    10歳、小児。当院事務員の子。8歳の弟と共に来院。
    頭部打撲しており、3針縫合。頭部CT奨めたが、金銭的な理由で実施を拒否された。
    複数の打撲痕あり、児に聴取したところ、いじめを受けているとのこと。
    教育委員会への通告を母にすすめた。抜糸は1週間後、打撲痕含めて再診予定とし、小児科の予約を取得した。





    ・・-・・ ・・ --・・ ・・-- -・ -・・・- -・ ・・ 




    証言:R

    “くらやみさま”?
    あーーー!あれだ、兄貴の“トモダチ”だ。ローに言わせると、“イマジナリー・フレンド”ってやつ。
    なんていったっけな……昔は名前を知ってた気がするけど、忘れちまったよ。
    そうそう、昔はおれも一緒に遊んだよ。
    なんか、ままごとしたり、鬼ごっこしたりとかしたなぁ、“三人”で。冷静に考えると、どうやって遊んだんだって話だけど、なんか“三人“で遊んだんだよなぁ……ピーカが兄貴とつるむようになってからは、四人で遊んだこともあったっけ。
    その“トモダチ“ができたのは、⚫︎⚫︎市に引っ越した後だな。うちの両親ってどうしようもないお人よしで、お人よしすぎてヤクザに借金してさ、それで夜逃げしたんだけど、それから父親も母親も働くようになって、結果としておれと兄貴の二人で過ごす時間が長くなって。その時にできた、“トモダチ”だった。
    いじめられたか?まぁ、そりゃ、なぁ。夜逃げなんてしてきた訳だし、小学校の頃は物がなくなるとか、階段から落ちるとかはしょっちゅうだった。おれはもともとドジだからそんなに被害も何もなかったけど、兄貴は大変そうだったなぁ。放課後に教科書一緒に探したり、兄貴のことを待ち伏せしてるいじめっ子がいるからって山の中を通って帰ったり。おれもピーカも学年が別だったから、修学旅行とか課外活動とかの時は本当に大変だったみたいだ。中学に入ってからはそんなこともなくなったし、何より兄貴はとびっきり勉強ができたからな。学校始まって以来の神童だって言って、教師たちが兄貴を構うようになったから、それが良かったのかもしれない。
    “くらやみさま”に何かしてもらったこと?あぁ……なんか、守ってくれてんのかな、とは思ってた。
    あの頃はいまに輪をかけたドジだったから、本当にいま思うと、毎日死の危険と隣り合わせだったな。
    兄貴が毎日おれにガチギレしてたのもわかる。
    何度用水路に落ちかけたかわかんないし、田植えしたばっかりの田んぼにハマったり、山の中で迷子になったり……でも、用水路覗いてたらたまたま通りかかったディアマンテが助けてくれたし、3階から落下した時もなんか打ちどころがよくて助かったし、山の中で迷子になった時にはたまたま通りかかった山菜取りのお爺さんが助けてくれたし……それも全部“くらやみさま“のおかげだったのかもしれない。ラッキーがたまたま続いただけかもしれないけどな。
    そう思うと、おれたちが通ってたトレーボルの塾はなんかチェーンになって繁盛してるって言うし、何個か上で兄貴がその塾で勉強教えてやってたディアマンテは野球選手やってるし、ピーカもなんか地元の土建屋に就職して今は副社長だろ?そう思うと、“くらやみさま”って福の神かなんかだったのかな?よくわからんけど。ならおれが買った宝くじ当ててくれよって、いまは思うけど、そういうことじゃないんだろうな。
    あぁ……そういえば。
    高校生の頃に、兄貴が独り言を言ってるのを見かけたことがある。
    もうやめてくれ、とか。もうおれたちは大丈夫だから、とか。他にも何か言ってたような、気がするけど、年頃の兄弟だから、立ち聞きしてるのも悪いなと思って、それ以上は聞かなかった。兄貴が家庭教師のバイトしまくってたおかげで、その頃にはおれの部屋がちゃんと別にある家に住んでたしな。その時兄貴が話してる相手が、多分“くらやみさま”だろうな、と思ったのが、おれと“くらやみさま”の会った最後だな。
    役に立ったか?それなら良かった。また何かあったら、いつでも連絡くれよ。






    ・・-・・ ・・ --・-・ ・・ ・--- ・-・ ・-・・・ ・---・ 






    “それ”は突然、現れた。
    暗闇の中から伸ばされた手を認識したのは、ほんの刹那。
    次に、意識を取り戻したのは。
    鼻をつく、悪臭に目を覚ました。
    目の前にあったのは、腐り落ちていく肉の塊で、それが“ヒト”の形をしていることに気が付いた瞬間。
    絶叫しようとして、喉に穴があいているのに気が付く。
    切り取られたそこからは、声を出そうとして、ひゅーひゅーと音が漏れるのみで。
    耳に、同じ音がいくつも聞こえるのがわかる。
    ひゅーひゅーと、音が聞こえる。
    いくつも、いくつも、音が聞こえる。
    肉の塊の中に、カシラの背中に掘られたスミの切れ端が見えた瞬間、また、ひゅーひゅーと音が漏れて。
    【そう喚くな】
    静かに、音もなく、何かがおれの前に立った。
    それは暗闇の中に立っている“なにか”で。
    【あまりにもうるさいから、喉を潰したが……正解だったな。“いま”の人間は、あまりにも痛みに弱い】
    それは、深く、深く、溜息を吐いて。
    【……お前たちは、海賊よりもタチが悪いな。海賊の“始末”は簡単なんだが】
    ずるり、と何かを引きずる音が聞こえる。
    それが、誰かの足だと気がついたところで、声は出ない。
    逃げようと、足を動かそうとして。
    足がないことに、気がつく。
    【お前たちの流儀で、手を出さないように警告するだけだ】
    それは、ひどく面倒そうに、言葉を紡ぐ。
    【あぁ、これがバレたらきっと、彼に叱られるな】
    ひゅーひゅーと、風が鳴る。
    幾重にも、幾重にも重なった風の音は。
    長く、長く、鳴り続けていた。





    ・- ・-・-・ ・-・・ ・・ ・-・・・ ・・- -・・ ・・- 




    証言:L

    あぁ、“くらやみさま”は、多分、ヴェルゴだ。
    どうしてあの形になったのかは……わからない。
    だが、ドフラミンゴとその周囲を守るためにあぁいう形態になった、というのは納得できるような気がしないでもねぇな。“前”は神やら龍やらが普通にいる世界だったし、その世界から“いま”に移る時に、そういう形になってしまった、というのでも説明がつく。
    “くらやみさま”って名前をつけたのはおれだ。
    おれの周り、というかドフラミンゴの周りには“前”のことを覚えていないやつが多いし、ドフラミンゴ本人も覚えてないから、そういう風に名前をつけた方がいい、って思ったんだ。そうすれば、共通のものを指しているってわかりやすくなる。
    あんたも知っての通り、“覚えてないやつ”は“前”のことを覚えていることができない仕組みになってるからな。
    あれがヴェルゴだって確証がないのは、おれもガキの頃に一回会ったきりだからだ。
    そう、あの誘拐事件の晩以来、あいつとの接触はない。
    あの時は……誘拐されて、昏倒して……気がついたら、誰かに背負われてたんだ。
    最初は、コラさんだと思った。
    やっぱり……助けに来てくれるならコラさんだろう、って確信してたんだよな。
    だから、コラさん、って名前を呼んだら。
    【ロシナンテじゃなくて悪かったな】
    って、あいつの声で言われて。
    がっかりするのと、驚いたので、うまく反応できない、おれに。
    【もう少しでロシナンテのいるところに着く。それまで辛抱しろ】
    そう、あいつが言ったのは、はっきりと覚えてる。
    その他にも、犯人はどうした、だとか、お前はどうしてそうなっちまったんだ、とか尋ねたんだが……ろくな答えが返ってこなかった。
    細かい会話は……あまり覚えてないな。直接“話す”っていうより、おれが思い浮かべることに、どこかから声が返ってくる、みたいな感じだったし、まだガキの頃だったからな。その頃にもセンゴクに調書を取られてるから、そっちを見た方が正確だろう。
    とにかく、おれが覚えているのは誰かに背負われて誘拐されてた山小屋からおりたってことと、おれを背負っていたのは、確実にヴェルゴの声と性格をした何かだった、ってことと。
    あとは。
    【ドフィを頼む】
    って言われたこと、だな。
    当然、そんなのはおれの知ったことじゃねぇ、おれはコラさんと元クルーで手一杯なんだ、って跳ねのけてやった。ヴェルゴの側は相当微妙な空気を醸し出してたけど、んなこと知るか。ドフラミンゴを守るだとか、幸せにするだとかは、おれよりヴェルゴの専門だろう。
    まぁ……そんなやりとりをした後で、ふと気が付いた時には、おれは学校の裏山の中に立っていた。
    ヴェルゴの気配は、その時には既に消えていて。
    とりあえず、灯りの見える方角を目指して、歩き出したら。
    おれを血眼で探してるコラさんが、山を登って来るのが見えて。
    それで、一応おれの誘拐事件は一件落着した、って訳だ。
    癪な話だが、ヴェルゴがおれを助けてくれたんだろうな。
    犯人たちが一発で殺されてたのも、確実にあいつの仕業だろう。腹を一発殴り飛ばしてるのも、いかにも“らしい”話だ。
    それ以外の件については……おれは詳しくは知らない。
    ドフラミンゴを溺れ死にさせかけた連中が、全部“事故”で死んでるのは、きっと偶然じゃないだろうし。
    コラさんとドフラミンゴの父親に借金を作らせたヤクザが全員海の底に沈んでたのも、確実にあいつの仕業だろう。
    コラさんがいじめられた相手が、全員一度は病院送りになってるのも、そうだろうな。
    なんというか……そういう事件が連続して起こらないで、それぞれがちゃんと時間を置いて、関連性がわからないように起こってるのも、いかにも、だと思わないか?
    G5基地長にして、ドフラミンゴがただひとり相棒と呼んだ男らしい、周到で、陰惨で、徹底したやり口だと……おれは思うが、な。
    だが……最近は、そういう話を聞かないな。
    前はよくベビー5の恋人が失踪しただとか、セニョールの上司が海外に飛ばされただとか、グラディウスがバイク事故で九死に一生だとか、モネのストーカーが刑務所で死んだとか、よく聞いたもんだが。
    おれたちが、もう大人になったからいい、と思ってるのか。
    それとも、“記憶”ごと、成仏しちまったのか。
    ドフラミンゴの家の暗闇にでも、棲みついてるのか。
    あんたは、どれだと思う?






    ・- ・--・ -・・- ・-・-- ・・ -・・-・ --・-- ・- --・-・ ・-・-- -・--・ 







    ぱちり、と音を立てて電気のスイッチを切れば。
    深い闇が、部屋の中を満たした。
    住宅用では最高級の遮光カーテンで窓を覆い、家電は極力排除した寝室は、扉を閉め、電気を消してしまえば、光の差し込む隙はなく。
    ただひとつの光源になり得るスマホを手さぐりで充電器につないでしまえば。
    あとは、闇とおれだけが、その部屋の中には存在していて。
    「ただいま、ヴェルゴ」
    声をかけると。
    ゆるりと形を作った闇が、おれの体を包んで、抱き上げる。
    『おかえり、ドフィ』
    耳朶を震わせる声と共に、唇に僅かに触れる感触があって。
    おれは、小さく笑う。
    「フッフッ、どうした?珍しいな」
    『……今日は帰って来ないかと』
    恭しく、体がベッドの上に下ろされ。
    暗闇を抱き寄せれば、仄かに”あの頃”と同じ匂いが香る。
    海と、淡いコロンと、汗の匂い。
    それは誰よりもおれに仕えた男の香りで。
    「スモーカーのことか」
    おれは、柔らかな闇に抱き寄せられながら、ひとつ息を吐く。
    「大丈夫だ、わからねぇよ」
    公には、おれは“記憶がない”ことになっている。
    そもそも当初はおれも記憶なんざ持っていなかった。
    あの日。
    用水路に突き落とされるまでは。
    誰にも見つけられず、溺れて、生死の境を彷徨うまでは。
    【ドフィ!そっちに行っちゃダメだ!】
    必死に、おれの名前を呼ぶ声に、“こちら側”に引き戻されるまで。
    おれは何も知らなかったし、なにも覚えちゃいなかった。
    けれど、こちらに呼び戻す声の正体を知った刹那から。
    おれには“記憶”が戻ったし、そのことを誰かに喧伝するべきではないと理解するだけの理性も備わっていた。
    『……ドフィ』
    おれを呼ぶ声に滲む、悔恨の気配に。
    おれは、闇の中、手を伸ばして輪郭をなぞる。
    「お前のせいじゃない」
    “あの頃”は光の下で触れることができた輪郭は、いまは、おれの手でなぞることでしか存在できない。
    その背後にいるのが、最期に会った時の男なのか。
    あるいは、そのずっと前、海軍に潜入する前の男なのか。
    それすらも、わからない。
    おれが触れることでようやく、“そこにいる”ことを、確認できる。
    “そういうモノ”にヴェルゴは、なってしまった。
    「お前のせいじゃない……ヴェルゴ」
    慈しむように、闇を撫でれば。
    ふ、と闇の中で何かが綻ぶ気配がして。
    僅かに顔を上げてキスを強請れば、唇に何かが触れる感触がする。
    それは、あまりにも“前”とは違う触れ合いで。
    『すまない……ドフィ』
    絞り出すような声で紡がれた言葉に、おれは静かに闇を撫でる。
    ヴェルゴは、“ヒト”になることを選ばなかった。
    代わりに、生まれ変わってもおれを守れることを、選んだらしい。
    どうして、と問うたおれに。
    【少しだけ地獄に行くのが早かったから、選ぶことができたんだ】
    ヴェルゴはそんなことを、答えたけれど。それは、まるきり答えになっていなかった。
    「すまない、ならこっちこそだ。お前には心配ばかりかける」
    『……そんなことはない』
    「スモーカーを殺さなかったのは偉かったぞ」
    子どもを褒める時のような口調で、笑いながら言えば。
    『……お前が望まないだろうと思ったから』
    そう、どこか不満そうに言うから、笑ってしまう。
    いつだって、この男の行動原理はおれが喜ぶか、そうでないか、だ。
    “あの頃”から、それは1ミリも変わらない。
    「あぁ、そうだ」
    当然、というように頷けば。
    どこか釈然としない、というように闇が揺れるから。
    「……あんな奴が死ぬことより……あいつらに目をつけられて、お前に何かある方が困る」
    本音が、口からこぼれ落ちていた。
    別に、構いはしない。
    ファミリーに手を出した連中が、何人行方不明になろうが。
    ロシナンテをいじめた連中が、つむじ風に煽られようが。
    “くらやみさま”を探ろうとした連中が、山で遭難しようが。
    ローを誘拐した犯人が、凄惨な死を迎えようが。
    お人好しにも限度があるクズに借金を負わせたヤクザが死体になろうが。
    おれを用水路に突き落とした連中が首を吊ろうが。
    幾ら死体が積み重なったところで、今更な話だ。
    けれど。
    ヴェルゴが、おれの側からいなくなることは、耐えがたかった。
    だから、止めた。
    だから、諫めた。
    だから、偽った。
    この男を、おれの寝室の闇の中に、留めるためだけに。
    『……ドフィ』
    闇の中、見えない輪郭をなぞって、体を寄せる。
    そこにもう、“あの頃”の体温はない。
    心臓の鼓動も、聞こえない。
    匂いでさえも、きっと、おれの作り出した幻覚で。
    それなのに。
    そこに、おれを誰よりも愛した男がいることだけは、わかって。
    その事実に、どうしようもなく安堵する。
    「お前がいなきゃ……」
    深く、深く息を吸って、吐く。
    もはや息をしていない、この男の代わりに。
    おれが、息を吸って、心臓を動かす。
    「……誰が、おれの心臓を守るんだ」
    この男は、おれを最初に人間として扱った。
    両親のいない家で、泣きわめく弟と二人、借金取りと向かい合う羽目になったおれを守った。
    地獄のようなゴミ溜めの中から這い出す術を、おれに与えた。
    おれのために生きると誓い、敵地に赴いて、死んだ。
    おれのために、“ヒト”の形すらも捨てた。
    そんな“愛”を与えておきながら。
    この男は、今も闇の中で、おれの記憶を取り戻してしまったことを悔やみ。
    おれを闇の中に繋ぎ止めていると、勘違いしている。
    「弟にすら見捨てられた“化け物”に愛を教えたのは、お前だろう」
    男を闇の中に縛る言葉を吐けば。
    僅かに、闇の中でヴェルゴは身じろぎをして。
    ひどく優しい手ざわりで、おれの背中を闇が撫でるから。
    おれはまた、深い、溜息を吐く。
    (繋ぎ止めているのは……おれだ)
    哀れな男だ。
    おれを思うあまり、形すらも無くして。
    ただただ寂しいから、ただただ愛されたいから、と縋るおれのために闇の中に棲んでいる。
    それを繋ぎ止めているおれが、きっと、一番罪深いモノに違いなく。
    「ヴェルゴ」
    名前を呼んで、するり、と手を滑らせれば。
    びく、と闇の中で何かが蠢き。
    おれは小さく笑う。
    「……抱いてくれ」
    固唾を呑むような気配に、また笑って。
    おれは、シャツのボタンへと手をかける。
    「優しくしてくれよ?」
    そう、誘えば。
    おれの愛しい愛しい男の気配を纏った闇は、おれを包み込んだ。
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