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    8miyoon

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    仙鳳組 with 梵マ 〜シルコに捧げる愛の調べ〜

    フラワーじゃないからドライにしてもなにも起きない笑った顔を初めて見た。いや、そんなに親しい関係ではないし、組と反社の犯罪組織という、とてもビジネス的関係の人間でしかないから、それが当然ちゃ当然なんだけど。しかもそんなに長い時間にわたって関係を結んでいるわけでもない。うちはほら、あくまで日本のなかでも外れの外れ、土着の極道でしかないからさ。
    仕事相手の笑顔なんて、商談がうまく行ったときの作り笑顔くらいしか見ないのが普通だって思うよ。俺もそういうスタンスだし、実際人生はそんな感じでときを刻むようになっている。身ひとつで幼馴染とここまで来れたのだって、もはや奇跡と時の運だ。
    「葬式に、来れなくて悪かった。ボスからの言付けだ」
    「………いえ、むしろ、こうして来ていただけていることに、上も、下も、驚いています……九井さんも、その、首領も」
    「気丈に振る舞って御苦労なこった。泣ける時に泣いとけよ」
    わかなと、梵天の幹部の九井くんが、儀礼的な話をしている。首領はずいぶんと呆然とした顔をしたまま、なにも言葉を発さずにいた。見覚えはある。あれは失声症か、緘黙ってところだろう。衝撃的な現場に出くわした時の部下が、アレになったことがある。結局あいつは飛んだっけ。
    梵天の幹部の情報を共有されるたびに思うけれど、連中はずいぶんと若いのだ。どいつもこいつも。組織に下地があったわけでもなく、そういう運命のもとに生まれた人間たちでもなく。ただ、集まっただけ。それにしても、若すぎる。そして、あまりにも熟れすぎている。
    「ボスが、尾岱さんと、話したいって言ってまして」
    「……話せんの?」
    「ええ、多分。できれば……ちょっと、別室とかあったりすると」
    「あの、九井さん。こんなんでもうちの尾岱は、この小さな組の幹部を勤めていて」
    「あーちゃん、……だめなら、いい」
    ようやく口を開いたと思ったら、この場で一番最悪な呼び名が飛び出してきた。いや、流石に四十九日の法要も過ぎているし、組だって少しずつ、いつも通りに動き出している。けれど、オレには、その呼び方は、刺激が強すぎる。
    髪の毛はどうしてそんなに白いんだ?最近のオシャレはそういうものなのか?タトゥー、うなじに入れてるけど、痛くないのか?ずいぶん細かい模様が入ってるよな、完成するまでどれくらいかかった?痛みにも苦痛にも弱そうなのに、我慢耐性だってなさそうなのに。
    渢みたいに、痛みを感じないってことはないだろうに。どうしてそんなことしたんだよ。どうして、そんなことしなきゃいけなかったんだよ。どうして、オマエの周りは、そんなになるまで放っておくんだよ。

    言いたいことが溢れ出すまえに、無理やり別室を確保した。何かあった場合のために、という名目で、わかながふすまの向こうで息をひそめている。うちは和風の部屋が多い。巨悪の犯罪組織の首領なんかを20代で勤め上げる男だ、それくらいの気配、とっくに察しているだろう。
    それでもいい。それでもいいから、この、マイキーという男は。誰かに縋らずにいられなくて、誰かに助けを求めずにはいられなかったのだ。そう思うと、あまりに苦しくて涙が出る。
    渢を見送ったときに、もう泣かないと決めたのに。男の決意は固いんだぞと、あの墓標に誓ったというのに。どうしてこの未完全で不成熟なおとこは、こんなに渢を思い出させるんだろう。
    「……まえ、ケンチンの話、したよな」
    「小学校から一緒に族やってた仲間だったか。10年くらい会えてねーんだろ」
    「……おれね、ころしちゃうんだって。未来、見てきたやつが。おれが、みんな友達、仲間、殺しちゃうんだって。どうしても殺したくないから、10年会わないようにしてんだ。会いたいなあ」
    「誰がそんなことお前に言ったんだよ。教えてみろ。仙鳳組の幹部、尾岱逢がケジメつけてやる」
    そんなのいらないよ。ひそやかに言葉を吐き出して、梵天の首領、もとい、マイキーは笑った。渢の遺影に手を伸ばし、ひょろりとした頬を撫で、まるで旧知の仲であったかのように、愛おしむ。
    初めて笑った。ただの反社組織同士の横のつながりでしかなかった男の遺影を見て、ろくに会話だってしたことすらなかったろうに。まるで、友人に語りかけるようにして、ふんわりと笑った。

    似ている。似ているようで、正反対だ。わかながこの場にいなくてよかった。こんな、渢の生写しのような笑顔を無意識で浮かべるような青年が、渢よりもずっと世界の時間の進行を拒んでいるだなんて。こんな顔をして笑ういきものがいると知ったら、わかながどんな行動をするのかわからない。
    線香をあげ、滞りなくお鈴を鳴らし、当たり前のように手を合わせる。俺は、マイキーのことを、書類に記載された個人情報程度でしか知らない。それにしても、この男にはあまりにも、葬式や仏事のちょっとした仕草に、慣れていた。
    二十七歳の俺は、こんなふうにスムーズにできていただろうか。愛おしむように触れる、渢の遺影。不躾な手つきではなく、必要以上に写真をベタ触りすることもなく。それでいて、反社らしく、遺影縁に残る指紋のことだけは、気にかけてみせる。
    「マイキー、おまえ、しにたいのか?」
    「……ううん。わかんない。でも、ケンチンみたいなあーちゃんに会えて、オレ、幸せだったよ」

    どんなに小さな極道組織でも、付き合いのあった反社組織の解体事情だとか、頭の世代交代なんかはそれなりに、耳に入ってくる。
    北海道の片隅に根を下ろすような俺たちが必要とするニュースなんて、本当に北海道の動静と情勢くらいのものだ。それが、突然、全国ネットのニュースがぶち込まれる。
    「どうしました?また著名人でも逝去しましたか」
    わかなは渢が旅立ってから、訃報に触れる前に、少し身構えるようになった。
    「いや……」
    日本の犯罪組織、梵天の首領、飛び降りか。
    そこから先の俺の記憶は、少し先まで飛んでいる。
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