君を抱き留めた代償/刑唯 スタンドライトに照らし出された最後の一文を目で追う。最近話題のミステリー小説は確かに満足のいく内容で、登場人物の言葉の中に隠された思惑や事件のトリックも、最後にカチリとピースが嵌まる心地の良いものだった。
だが。無心になりたくて手に取った一冊を読み終えてなお、心のざわつきが収まる気配はない。もういっそのこと外でも走ってこようか。その程度の疲労で意識を手放せるとはとても思えないが。
一時五分。とっくに日付は変わってしまった。明日は朝からオケの全体練習がある。パフォーマンスを落とさないためにも睡眠はしっかりと取っておきたい。何か体を温めるものでも飲んで、さっさと横になってしまおう。これ以上起きていても良いことなどない。
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