瞳の呪縛 乙骨憂太が生活する寮に、了承どころかノックも無しに入ってくる人なんて、五条悟ぐらいだ。
任務を終えたばかりなのか、制服姿のまま、いつも以上に呪力を全身から放つ男は、部屋に入ってくるなり憂太の唇を塞いだ。
「んんっ、……っは、ぁ……っん」
言葉も呼吸さえも奪われるキスと迸る呪力にぞくぞくと下肢が震える。おそらく、それなりに強い呪霊と戦ったのだろう。
戦いの後、持て余すほどの力にどうしようもなく身体が昂る感覚は、憂太にも理解できる。特級は、等級で測れないほどの例外的な力を持つ者に与えられる等級だ。そんな力を全力でぶつけられる相手なんて、そうそう存在しない。
だからこそ、いつも熱を持て余す。
特級の熱を受け止められる者は、同じ特級だけだ。
「せんせっ……んっ、っは、あっ」
口腔を熱い舌で思うままに貪りながら、大きな手は服の中に侵入してきて、素肌を撫で回し爪を立てられる。
抵抗しない憂太の身体をベッドに押し倒した五条は、そのまま憂太の上に跨り、上半身の服を脱ぎ捨てた。
すでに憂太の服は胸元が顕になるほど捲りあげられ、熱に浮かされた瞳で夜闇に浮かぶ獣のような男を見上げる。五条がその両目を隠す白い布を取りさろうとした時、憂太は声をかけた。
「目隠し、外さないでください」
「なんで」
「全部、見られてる気がするから」
呪術師で五条の六眼に畏怖を抱かない者は居ないだろう。呪術師にとって術式は最大の武器だ。それを五条の六眼は容赦なく暴く。
でも、憂太が目隠しを外さないことを望むのは畏怖よるものではない。あの宝石のような瞳に見つめられると、心の奥底まで暴かれるような気持ちになるのだ。
すでに身体のことは自分自身でさえ知らない奥の奥まで知られているのだ。心の内ぐらいは隠していたい。
「残念だけど、そのお願いは聞いてあげられないな」
「なんで」
「僕は憂太の全部が見たいからね」
願いは叶わず、五条は剥ぎ取った布をベッドの下へと投げ捨てた。そのままのしかかってきた五条に、優太も服を剥ぎ取られる。
「隠してても、見えるじゃないですか」
「でも、見られた方が興奮するだろ?」
「っ、んんっ」
口元を吊り上げて笑みを作った五条に、また唇を塞がれる。
暴かれたくない。そう思うのに、いつもこの熱にのぼせてなにも考えられなくなる。
五条とは、いわゆる身体だけの関係だ。
はじめての時も、こんな風に戦いの後の冷めない熱をぶつけられた。もちろん抵抗もしたし恥ずかしかったし痛みもあった。それでも、理解ができた。
こんな剥き出しの呪力を受け止められるのは自分だけ。その一心で、五条の熱を受け入れた。
それから繰り返し、もう何度目か分からないほど身体を重ねている。
最初の時、全力で拒めば五条は止めてくれただろう。でも、憂太はそれをしなかった。
その選択を、今では少し後悔している。
(僕だけが、先生を好きだ)
五条と対等に立てるという自負は、いつの間にか誰にも譲りたくない立ち位置になり、求められるだけだった身体が、自ら五条の熱を求めはじめた時には、もう手遅れなほど想いが膨らんでいた。でも、分かっている。守る側の立場である事を決めた五条は、きっと誰のものにもならない。
「んっ、は……っ、あ、あっ」
貪られるようなキスをしながら、五条の硬い指先が胸の頂を痛いほど抓って転がす。その刺激にじんっと下肢が痺れ、下着の中が窮屈になる。
「ほんと、感じやすくなったよね」
「だ、誰のせいだと……っ」
「僕に決まってるでしょ」
他に相手がいるなら、殺すよ。
眇められた碧の瞳には嘘は無い。こんな凶悪な独占欲を心地いいと思っている自分は、とっくに狂ってる。
「居るわけ、ないですよ。先生以外、誰が僕を抱けるんですか」
「ははっ。わかってるじゃない」
大きな手が頬から首筋をなぞるように動き、心臓の上で止まる。
「憂太は、僕のものだからね」
それでいい。この瞳の呪縛に自ら囚われたのだからーー