「今日は2月14日バレンタインデーというわけで、今回は今からでも遅くない!?今年話題のチョコレート特集をお送りします!」
現在の時刻は午前9時、部屋のテレビからアナウンサーの明るいナレーションが流れ始めた。映像では赤やらピンクやらの可愛らしい色の広告で彩られたデパートや街中、今年話題らしいチョコレート菓子や専門店が流れている。
「くそ…もうバレンタインデーか…結局何も決まらなかった…」
picoは自室のソファに腰掛け1人頭を抱え悩んでいた。その悩みの種はまさに今テレビから流れているバレンタインのプレゼント。 picoは慎重な性格が災いし考えに考えすぎてBFに渡すバレンタインのプレゼントを決められずに当日を迎えてしまったのである。
『バレンタインなんて女のイベントだろ?』そう思って今まで気にも止めていなかったが、やはり好きな人にチョコを渡すというのは乙女チックなイベントであり、それに自分が関わらないという選択肢はなかったのだ。
しかし今更ながら後悔している。こんなことならもっと早く決めておけば良かった。
「はぁー……どうするかな…」
picoは悩んだ末にスマホを手に取りSNSを開く。何かいいアイデアは無いかと思ったのだが……。
「……無いよなぁ」
ネットサーフィンしても出てくるのはカップル同士の惚気話ばかり。
そもそもこの手の話は女性同士でするものであり、男友達しかいないpicoには無縁の世界であった。
そもそもバレンタインデー当日だというのに急にプレゼントを用意できるわけがない。しかも今日はpicoの家で曲の練習をする約束をしているため、あと数分もすればBFが家にやってくるのだ。
「何が今からでも遅くないバレンタインデーだ…せめて数日前に特集組めよ…」
もうどうしようもないpicoはテレビの中で美味しそうにチョコを頬張るアナウンサーを一瞥しテレビを消した。
「こうなったらしょうがねぇ…今日は飯でも奢るか…それか欲しいものを聞くか…?それかチョコミント…?」
picoはどうにか代案を考えようとするがいいものが思いつかない。食事は大抵picoが毎回奢っているし、誕生日や記念日ではないから欲しいものを聞くのも違う気がする。チョコミントはBFの好物ではあるが日常的に見つけたらBFにあげているのでプレゼント感は皆無だ。
そんなことを考えていた時、ピンポーンと家のチャイムが鳴る音が聞こえてきた。恐らくBFだろう。picoはBFを迎えるためソファから立ち上がり玄関に向かう。
扉を開けるとそこには予想通り、私服姿のBFがいた。
「Beep!」
「おう、おはようさん」
BFは満面の笑みで挨拶をしながら家の中に入ってくる。そして玄関の扉が閉まると同時くらいに何か花のような良い香りが picoの鼻を掠めた。
(なんだこれ……?)
不思議に思ったpicoはBFの方を見る。するとなにやらニヤニヤしているBFの顔と目が合った。視線を下にずらすと両手を後ろに隠している。背中に背負っているギターケースに隠れて全く見えないが何か持っているようだ。
「ん?お前なんか持ってるのか?」
「えへへ〜バレちゃったか〜」
BFは照れ臭そうに笑いながら答える。その様子はまるでいたずらが見つかった子供のようでとても可愛らしい。
(可愛いなこいつ……)
picoはつい微笑ましくなりBFのことを見つめてしまう。
「おいおい、一体何を持ってきたんだ?」
「それはな…じゃーん!」
BFは嬉しそうに声を上げながら手に持っていたものを勢いよく差し出す。見るとそれは綺麗にラッピングされた真っ赤な薔薇の花束だった。それも一本ではなく数十本はある。
突然の出来事にpicoは思わず固まってしまった。
「今日はバレンタインだからな!はい! picoにプレゼント!」
「あ、ああ……」
あまりに予想外の出来事過ぎてpicoの反応が一瞬遅れる。まさかBFがバレンタインデーのプレゼントを用意してくれるとは思わなかったし、先を越されるとも思わなかった。picoは差し出された薔薇の花束をおずおずと受け取る。
「へへ…愛してるよpico!」
「っ!?お、おま……」
「なんだよpico〜!顔赤いぞ!」
「い、いや……」
picoは顔が熱くなるのを感じて慌てて顔を逸らす。正直めちゃくちゃ嬉しい。好きな人からバレンタインのプレゼントを貰えるだけでも幸せなのに、それが大好きな恋人からの贈り物なのだから。
しかし先を越されたことだけは非常に悔しい。
普段から自分はあれやこれやと考えすぎてなかなか行動に移せない節があるのに対し、BFはこういう時さらっと行動に移せてしまう。しかも満面の笑みで。
(悔しいけどこういうところに惚れたんだよな…)
しかしpicoは今回自分からプレゼントを渡したかったのだ。今回は2人が付き合ってから初めてのバレンタインだったから。
「BF…俺何も用意してないんだけど…」
「いいよ別に〜俺が渡したかっただけだし!あっでももしお返しくれるんならホワイトデーになんかくれよ!」
「もちろんそれはちゃんと用意するけどよ…来年は俺から渡すからな」
「ん?別にpicoが先じゃなくても」
「いいやダメだ」
picoはキッパリと言い切る。
「俺はな、好きな奴には絶対に負けたくないんだ」
「ふーん?そういうもんなのか?」
「そうだよ。…来年だけじゃない、再来年もその次も用意するから」
「……そっか…なら楽しみにしてるぜ!」
そう言ってBFは満面の笑みを浮かべながらギュッとpicoに抱きついた。picoもつられてBFを抱きしめ、ミントグリーンの髪を優しく撫でる。
そんな2人のバレンタインデーを祝福するかのように、微かなはずの薔薇の香りがその場を包んだ気がした。
(おまけ)
「BF、そろそろ練習し始めようぜ。また新曲作ってきたんだろ?」
「おう!…そういや花買ってきたのはいいけどpicoの家って花瓶あるのか?ないよな?」
「…わかってるなら聞くんじゃねぇよ…てかわかってるくせに花だけ用意したのか!?そこは花瓶も用意しろよ!?」
「だって絶対花瓶じゃなきゃダメってこともないだろ〜?あっこことかちょうどいいじゃん〜」
「わーーーーっ!!やめろやめろそれ中にアルコール入ってる!!」