一緒にお昼を食べる話昼下がりのランチ時。
お馴染みのファミレス、日当たりの良い窓側の席で、私たちは食事を取ろうとしていた。
「カイコは何にする?」
目の前に座る赤髪の男性は、そう言って私に微笑んだ。
「うーん……どうしよう?お兄ちゃんが先に決めて」
見ていたメニュー表を手渡す。
そっかと呟いて、私の兄、アカイトはメニュー表に目を落とした。
嘘だった。本当は何を頼むか、ずっと前から決めていた。ただ、私の決意が固まっていないだけ。まだ……ほんの少し、迷っている。
メニュー表を前に、真剣に悩む兄の顔を盗み見る。
パッと顔をあげたアカイトと、目が合った。
少し驚いたように、パチクリと瞬きする。
太陽みたいな、暖かな赤色の瞳。
――ずっと見つめていたいって思った。
「オレはカレーにするよ、カイコはどうする?」
アカイトの声でハッと我に返る。
今日こそは、あれを頼んでみよう。
渡されたメニュー表を片しながら、いたずらっぽく笑った。
「私も、何にするか決めたよ」
店員さんを呼び止める。
「すみません〜、激辛カレーを2つ、お願いします!」
「え、はぁ」
アカイトは驚いたように私を見た。
そうしている間にも、店員さんは「かしこまりました」とオーダーを受け、奥に消えていった。
「カイコ、いいのか?辛いぞ?辛いの苦手だろ?」
アカイトは心配そうにこちらを見る。
「うん、いいの。1度食べて見たかったんだ〜」
一緒に。大好きな人が好きなものを、私も共有したいって思った。毎回、食事を共にする度に思っていた。
私はAKAIKOじゃない。ただのKAIKOだから、辛いものは苦手。
それでも、一緒に食べたかった。
「お待たせしました」と、注文したカレーが運ばれてきた。普通のカレーよりもだいぶ赤い。
パクリと、1口食べてみる。
「〜ッ!か、辛ッ……!」
「あぁ……ほらっ!水飲め!」
差し出された水をごくごくと飲む。
「〜ッ……ぷはぁッ!」
思っていたよりも、ずっと辛くてびっくりした。
本当は、美味しいねって言いたかった、言い合いたかっただけなのに。美味しさも、辛さも、分かち合えないのが悲しいと思った。
「ほら……だから辛いって言ったのに」
「だって……お兄ちゃんの好きなもの、一緒に食べたかったの」
迷惑、だったかな。心配かけてしまったかな。
じっと目の前の食べかけのカレーを見つめる。
そのまま顔を上げられないでいると、クスクスと笑い声が聞こえた。
「そんなことなら、言ってくれれば1口やったのに……代わりに食べてやろうか?」
食べかけを……?それって関節キス――。
「だ、大丈夫だからッ!全部食べるもん!」
慌ててかき込むようにカレーを食べる。
そんな私の様子を、アカイトはニヤニヤと見つめていた。
相変わらず、このカレーは私には辛すぎるけど、先程までの暗い気持ちは消えていた。
たまには、こんな食事もいいよね。
誰ともなしに目が合った。
2人で顔を見合わせて笑う。穏やかな午後だった。