飯空/飛べない蝿 毎日は忙しく過ぎていくけれど、昼休みのあと、三限の講義室に流れる時間は一日の中で最も気だるく、生ぬるい泥に浸かっているような感覚に陥る。
教授の声は遠い。僕もそのうちああやって講義をする側になるのか。時々くだらないことをぼんやりと考えて、講義の内容が耳をすり抜ける。カチカチ、特に意味もなく、ペンをノックする。
ふと、気づく。
ノートを広げた講義室の机上を歩く、一匹の羽虫が居た。じっと観察すると、珍しくもないコバエの一種だとわかる。しかし目を引いたのは、その蝿の片方の羽が、もげて失われていたことだ。
カチカチ。
蝿はその細長い脚で机を渡り、白いノートの上を歩く。二度と飛ぶことができないのだから、そうして這い回るしかない。やはりそれでは餌にありつけず、飢えて死ぬだろうか。
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