日吉にある石川道場の奥には、垣根に囲われた庵がある。
その庵の中には、義助という女の牢人が一人、酒をあおっていた。ちゃぽん、という酒の音が日吉の静かな夜によく響いて、なんとも心地よい。風で笹が揺れる音に包まれながら、無遠慮にごろりと横たわる。
知らぬ者が見れば、勝手に他人の庵に入った挙句、酒を盗みあろうことか堂々と部屋の真ん中で呑む命知らずの女牢人に見えるだろう。
おおよそは当たっている。しかし、他人ではない。彼女は待っているのだ。この庵の持ち主を。

「盗人を家に招いた覚えはない。」

ふと、静寂を破る声がひとつ。しゃがれてはいるが、空気がぴんと張りつめる鋭い声。
義助は気だるげに起き上がり、声のした方を向く。

「ひとつくらいいいだろ。どうせ飲んでいなかったじゃねぇか。」
「せめて一言言わんか。」
「言ったらくれんのかよ？」
「それは儂の酒だ。」

石川は呆れながら義助の右手にあった瓢箪を取り上げる。ある程度酔いが回ってしまっているため瞬時に反応ができず、気づいた時にはすでに懐にしまわれていた。

「なにすんだよ！俺の酒！！」
「儂のだと言うておろう。」

酔っ払いをまともに相手にするだけ無駄であるがゆえ、返せと抗議する義助を適当にあしらう。全く、次来る時までに隠しておかねば、と頭の隅で思案しながら。
ふと義助がなにやらごそごそと自分の懐を探す動作をしている。すると新たな瓢箪が現れ、親指で器用に栓を開けて飲み始めた。

「…手癖の悪さは、卯麦谷の連中といい勝負だな」
「あんなやつと、いっしょに、すんなぁ」

完全に出来上がった彼女を見て、石川はこれ以上文句を言うのも馬鹿らしいと深いため息をつく。
どうやら義助は分かっていないようだ。星の齢に想い人を庵に招き入れるということを。今まで幾度となく逢瀬を重ねてきたというのに、全くもって色気がない。
義助は船を漕ぎながらも酒を煽る。案の定口から酒が零れ、着物の襟に大きな染みを作った。

「あーあ、もったいね…」

慌てて酒を拭おうと着物を割開く。ほんのりと紅く色付いた双丘があらわになり、あわいを透明な液体が伝っていくさまが月明かりに照らされる。なんとも扇情的な光景だ。もっとも、義助が酔いどれでなければ…。
ふと石川は気づく。慌てていたわりには、一向に拭う気配がない。それどころか前をはだけさせた義助が石川に近寄って。

「なぁ、舐めとってくれよ。」

あろうことか、擦り寄って誘ってきたではないか。酔いどれだったはずの彼女の顔は、一変して雄を誘う表情になっている。石川がいつも、ここで義助を抱く時と同じ表情。そう、最初から彼女は。

「…酔ってなどおらんな？」
「あれしきで酔うかよ。俺はそんなにやわじゃねぇ。」

最初から彼女は抱かれるつもりだったのだ。つまりこれは、義助なりの不器用な誘いで。

「素直になればよいものを…」
「…るせぇ。」

石川に体を預ける義助の肩をするりと撫でると、背中がぴくりと跳ねる。胸板に顔を埋める彼女の耳は、ほんのりと紅く染まっていた。あれしきでは酔わないと言っていた彼女の言葉から、酒のせいではないことは明白だった。
幾度抱いても、義助という女は不器用で初々しい。口には決して出さないが、石川は彼女のそこにたまらなくそそられるのだ。
肩を撫でてあげただけで期待に染まる義助の体に、表情に、石川は静かに目を細める。

「義助。」
「な、なに……んっ」

名を呼ばれ素直に顔を上げた義助を慈しむように石川は口付ける。つう、と舌で上唇をなぞれば、義助はおずおずと口を開け、石川を受け入れた。舌を吸われ、歯と粘膜の間、上顎、舌の裏とどんどん口付けが深くなっていく。酒の匂いに混じり、昂る熱と石川の匂いに包まれ、義助は別の意味で酔いそうだった。
無意識に突き出した義助の舌を唾液ごと嬲られる。柔らかくて熱い感覚と、深くなりすぎて顔に刺さる髭のちくちくとした刺激。相反する感触がより一層義助を昂らせた。もっと、と石川を求めるように、義助は右脚を太ももに絡ませる。
それに応えるように、肩を抱いていた手を下に滑らせ、義助の柔らかな乳房をたふたふと揺らした。たったそれだけで義助は悦び、身体をくねらせる。
いたずらに揺らした次は、たっぷりと実った片乳房を無遠慮に、しかし優しく手で包む。絹のように滑らかな肌は吸い付くようで、指先を少し曲げただけで沈んでゆく。石川は、これほどまでに大きな乳房を持つ女に出会ったことがない。

「んぁ、…っ…あっ」

手で揉みしだきながら、親指の腹で少々大きめな乳首を刺激すると、未だに繋がる義助の口から上擦った声が漏れる。まだ隠れている頂の場所を指先でかりかりと弄ると、義助の背が大きく跳ねた。

「あんっ……ぁ、やぁっ」

焦れったくも明確な刺激に、義助はたまらず口を離して喘ぐ。いつの間にかはだけていない方の乳首も、着物の上から同じように弄られる。もっとはっきりとした刺激が欲しいのか、義助の喘ぐ声はどこか切なげだ。

「やぁっ……ち、くび、もっと、…っ」
「もっと？触っておろうに。」
「ちがっ…ん、んっ」

ふるふると首を振る。欲しいのはそうじゃない、と義助は必死に視線で訴えた。
それを悟ってか否か、石川は義助の素肌に顔を寄せる。
肩口ですう、と匂いを嗅ぐと、酒の匂いと共に微かな硫黄の香りがした。身を清めるために日吉の湯に入ったのだろう。庵に向かう前から準備をしていたのだと思うといい加減素直になればいいのに…と心の内でため息をつく。そうすれば、求められるまま与えられるのに。
だが石川は、そんな強情な義助の心をゆっくりと暴いていくのが嫌いではなかった。わずかなすき間を強引にこじ開けるのではなく、自分で割り開くまでぐずぐずに溶かすのだ。甘やかすように、ゆっくりと。そうすると、彼女の意地が決壊したように次々と求め、人が変わったように甘えてくる。それは恋人である石川の特権であった。
普段は絶対に呼ばぬ下の名を朦朧としながら呼ぶ姿を見ると、ようやく本当の姿が見られたなと年甲斐もなく胸が高鳴る自分がいる。
しばらくして顔をあげると、気を揉まれてたまらなくなった義助が切なげに目を細め、石川を見つめていた。早く抱いて、お願い。それは訴えるというより、もはや懇願だった。
少々意地悪をしすぎたか。誘い方に難があったとはいえ、これでは想い人を弄んでいるようなものである。鞭の次には、甘い飴を。
酒でしっとりと湿っている肌に舌を這わせ、双丘のあわい、ふくらみへと滑らせる。そして、先程の愛撫ですっかり顔を出した頂に辿り着くと、生暖かな舌で包みながら吸い付いた。

「ぁあっ！」

待ちに待った甘い刺激に、義助の身体がいっそう大きく跳ねる。舌と上唇で乳首を挟みながら、口内でちゅぱちゅぱとしゃぶれば、快感を受け入れるように腰をくねらせた。

「やぁあっ……あんっ…そこ、かかってなっ…」

豊満な胸をふるふると震わせながら、いやらしく腰を前後に揺らしている。その動きは、男を欲しがる動き以外の何物でもない。帯をほどき、何も履いていないそこを指でするりと撫でた。

「ひゃあ！あっ！」

肉のあわいをなぞるとそこはすでに濡れそぼっていた。周りより紅く色付いた筋を撫でるように優しく擦ると、義助は全身をわななかせ、たまらず足を閉じる。

「こら、動かせんだろう。」
「ふぁっ…や、だめっ…ああぁっ」

脚を開かせるため膝の裏を持ち上げると、必然的に割り開かれた秘部から熟れた桃のように蜜が滴っていた。猛烈に雄を誘う匂いを放つそこに、石川は思わず喉を鳴らしそうだった。割れ目に中指を埋め、こぼれる愛液を塗り広げるように動かせば、ぷちゅぷちゅといやらしい音が響く。もはや癖なのだろうか、石川は、こうしてギリギリまで焦らして、理性なんて形も残らぬほど義助をとろとろに蕩けさせるのが好きであった。
しかし、またされてしまってはいい加減耐えられないと、義助は腰をくねらせ、焦れったく動く指に陰核を擦り付ける。

「はぁっ、ぁ、あんっ…じらしちゃや……」
「全くお前は、相変わらず我慢がきかんな。」
「んんっ…きらい、か？」
「………ふん」

石川は誤魔化すように陰核を重点的にこね始めた。限界までぴんと勃ち上がり、皮が剥け丸裸になった尖りを突然容赦なく擦られ、義助の身体は快楽を逃そうと必死にのけ反る。先程まで決定的な場所を避けるようにわざとじわじわと熱を溜めるように焦らしていたのに、人が変わったように弱点を責め抜かれてしまってはもうたまらない。もはや苦痛に近いほどの激しい愛撫に、義助は苦しげに顔を歪ませる。普段は凛とした彼女の目元は、眉と一緒に可哀想なくらい下がっていた。

「やああぁあっ、やらっ、だ、めっ…きもちいっだめっ、あっ、あっ、あぁんんんっ」
「義助…こっちを向け。」
「んんぅっ、んっんっ」

はふはふと息を切らし、溺れそうになる彼女の口を石川が口付ける。その間も、義助の陰核を苛める手は止めない。

「んぁっ、ふ…んっんぅうっ、やっ…いくっ、いくっ、いくぅうっ…♡」

息継ぎの合間に絶頂が近いことを石川に訴える。止める理由など全くない。好きなだけ気をやれ、と言う代わりに石川はふたたび義助に口付けた。

「ふぅっ、んんっ、んっんんぅ〜〜〜〜〜〜〜っ」

石川にうながされるままに、義助はついに絶頂を迎えた。全身を貫くほどの激しい快感に、歓喜にも似た震えが止まらない。
石川はちゅぱちゅぱと義助の唇をついばみながら、達してもなお義助の陰核をちゅこちゅこと撫ぜていた。

「あぁんっ…もぉ…っ、んッ、いったのにぃっ……」



まだ前戯だというのに、着物の奥で隆々と勃ち上がっているであろう石川の怒張で貫かれてしまったら、どうなってしまうのだろうか。