優しくしたかったのに、ほのかな良い香りが鼻孔を掠め、意識が浮上する。身体を起こそうとするがどこかだるく感じる。
それでも無理やり起こすとくぅ、と腹の虫が鳴った。早く朝食を食べたいという気持ちが勝り、ベッドから降りようとするが足に力が入らずどかりと座り込んでしまった。
そういえば、と昨日の夜の出来事を思い出した。真島も龍司もお互い負けず嫌いなのもあってかいつも以上にがっついてきた。お陰で最後の方は記憶が曖昧だった。
ふと着ているシャツを見るとほんの少しぶかぶかで恐らく龍司の物だろうか。下着も新しいものになっており気絶している間着替えさせてくれたのだろうと考える。
「お、桐生はん。起きたんか」
「龍司、あぁ…リビングに行きてぇんだが情け無いことに腰が抜けてな…」
「そうやろう思ったわ。ほれ、行くで」
「あ、おい!」
桐生に近づくと龍司は軽々と横抱きしリビングまで歩いていく。
恥ずかしいやら情けないやらでばたばた暴れていたが龍司は口元に笑みを浮かべ平然としていた。
キッチンでは真島が皿を運んでおり桐生に気付くとにこやかに笑みを浮かべた。
「桐生ちゃん、おはようさん。朝飯出来てるで。……おいボン、桐生ちゃん下ろせや」
「あん?何で降ろさんといかへんねや」
「桐生ちゃん困っとるやろ」
「桐生はん一人で歩けへん言うから運んできたんや。おっさんが無理させるからやろ」
「ボンも変わりないやろ!」
2人が口論を始めたが桐生は腹が減って叶わないとため息を吐くとこっそり龍司から降り一人で柔らかいソファに座りいただきますと手を合わせてからパンにかじりついた。
「あ!桐生ちゃん腰辛いやろ。兄さんの上に乗ってもええんやで」
「おっさんの椅子とか硬くて座りにくいやろ」
ハンッと龍司が鼻で笑うがそれを無視しキラキラとした視線を向ける。
桐生の方が根負けし仕方無く膝の上に乗るとスープの入ったスプーンが口元に寄ってきた。
「…一人で食えるんだが」
「ええやんたまには。甘えてもええんやで」
後には引けない事を分かっている為仕方無くと言った風に口を開ける。
それを龍司が面白くなさそうな顔で見ていたが何を思ったのかフォークを刺すとベーコンを桐生の口元へ持ってきた。
「やるで」
「龍司も突然どうしたんだ」
「おっさんばかりええ思いするのは不公平やろ」
「………」
龍司の言っていることがよく分からなかったが何となく食べたほうが良いだろうと察し、それも口に含む。すると、龍司も嬉しそうな笑みを浮かべた。
結局2人に食べさせられ気が付くとすべて完食していた。皿洗いするからとソファに座らされ腰にクッションが敷かれた。
いつも2人は自分に色々してくれるが今日はやけに高待遇だな、と感じた。
「コーヒー淹れたで」
「ん、すまないな」
龍司の淹れてくれたコーヒーを一口含む。少しづつ飲んでいると龍司の腕が肩へ回ってそのまま身体を密着させてきた。
「どうした」
「その格好寒いん思て。ワシの体温で温めたろ思たんや」
「いや、大丈夫だ」
家の中は暖房が効いているのか暖かくシャツ一枚でも普通に過ごせる温度だ。
龍司は少しさみしそうな顔をしていたがテレビに顔を向け直した。そしてさり気なくシャツから覗く太ももにするりと手を忍び込ませた。
突然の感触にビクッと身体を跳ねらせる。
「っ!おい!」
「おー悪かったのぉ。勝手に手が入り込んでしもたんや」
「おいボン!何勝手に桐生ちゃんに触っとんのや!」
キッチンから真島の抗議の声がするが龍司は気にも留めずさわさわと身体を弄った。
「おっさん、今日仕事あるんとちゃうんか」
「?今日は休みや。儂が出かけとる間にお前が桐生ちゃんに手出さんか見張っとんのや」
「おー、こわ。そない睨むなや」
手を広げ首を振る。その間にも桐生の身体を触るのを止めない。次第に声にも艶を帯びていき2人はごくりと喉を鳴らした。
「お、おい…待っ……ん、」
「ほらな、こないな桐生はん見ても手出すなっちゅうのは無理な話ですわ」
「…せ、せやな…。」
昨夜の情事で出来た噛み跡や所々赤く色づいている肌がシャツから見え欲情を煽った。
2人顔を見合わせると共に頷き桐生を抱きかかえると寝室へ向かい優しく下ろすとギラギラとした瞳を向けた。
「(ど、何処でこいつらのスイッチを入れちまったんだ…?)」
先程までとは打って変わった2人の雰囲気に戸惑いながらも2人から差し伸べられる手に抵抗できず受け入れたのだった。