お題「愛が歪んだ」「どうしたの鉄虎くん」
学食を前に眉間に皺を寄せるその人に話しかける。すると彼は腕を組んで唸りながら天を仰いだ。
「……悩んでるッス」
「何を?……ていうか、そんなこと自分から言うなんて珍しいね?」
俺は自分の分の食事の載ったトレイをコト、と置いて、鉄虎くんの前の席に座った。
「……聞かれたから答えたまでッスけど」
「ああ、うん……そうだよね、うん、そうだ、そうだ」
口元がにやけそうになるのを、手で覆うようにして誤魔化す。胸の底の、何かが混み上がってくるような気持ちを、ごほんごほん、と二度咳をして追いやった。
俺はスプーンを手に取り、目の前のシチューを掬い上げる。とろりとした温かなクリームからオレンジ色のそれが顔を出したところで、ひとつの仮説に突き当たる。
「もしかして、これ?」
掬い上げたそれを鉄虎くんの顔の前に突き出せば、わ、と小さな声を上げて勢いよく両目を瞑った。
「み、見たくないッス……」
「悩んでるってこれかぁ……」
先程まで胸に込み上げていた高揚感が、しゅるしゅると音を立てて萎んでいくのがわかる。人参の鮮やかなオレンジが霞んで見えるようだった。
「……残すの?」
「それじゃ行儀が悪いから悩んでるんスよ」
「食べてあげようか、俺が」
うんうん唸っていた鉄虎くんが弾かれたように俺の方に顔を向ける。彼の期待の全てを載せた視線を浴びるのは、正直言って悪い気はしない。
「い、いいんスか!?」
「うん、いいよ」
「わ、ありがとう翠くん!」
光の粒が弾けるような笑顔で礼を言う彼が俺の皿に人参を運ぶその姿は、何だか生き生きとして見える程だった。クリーム色の中のアンバランスな量のオレンジと、それを見た彼のバツの悪そうな笑顔に、俺の中の優越感が膨れ上がる。
「助かったッス」
「いいよ、これぐらい」
俺はまた、口元に手をやってやりすごす。
どうか願わくは、彼にこの想いが届きませんように。