800字小説練習(SB69)『もしもどこ指×ましゅましゅが二人きりでホラー映画を見たら』
【ヤスほわ】
画面の中で蠢く魑魅魍魎が嘆きにも似た獰猛な鳴き声と共に突然どアップで現れ、登場人物たちは喉を絞り上げて絶叫する。ほわんも尻尾をビンッと立てて叫び声を上げた。思わず隣のヤスの腕に縋り付く。
その場では怖がっていたものの、すぐに花が頭からほわほわ出そうな空気感で小さく拍手をするほわん。
「幽霊さんすごいね! 人の感情をこんなに上げられるんだもん。うちも負けてらんないね!」
「お、おう」
戸惑ったのは彼女の天然めいたズレた感想にではない。腕が絡んだ拍子に彼女の胸の柔らかい感触が伝わってしまったから。
その後、またそんな瞬間が来るのではないかとどぎまぎして映画に集中出来ないヤス。
【ジョウヒメ】
「こんなの作りものなんだから、怖くないわよ」
と、言いつつさっきから目をぎゅっと瞑ったり身を縮こませたりするヒメコ。『やっぱ他の見るか?』と彼女の事を思って別の作品を勧めても『最後まで見る』と言って聞かない。
はっ、はっ、という興奮した息遣い共に自然と握られる手。ちょっと汗ばんでいる。普段はこんな事して来ないのに。
「俺が居るから大丈夫だ」
「う、うっさい」
恐怖から来る涙目の向こうから『ありがと』という声が聞こえた。
【ハチデル】
驚きポイントの度にファー! ファー! 絶叫するハッチン。デルミンは少しむっとして『うるさいです』と注意する。
「だだだだってよー」
ガクガク震えながら涙目で画面から顔を背ける。
「ではおにぎりクママンをどうぞ。気休めにはなると思います」
受け取ってぎゅーっと抱き締めると、彼女の匂いが漂って少し落ち着く。
【双ルフ】
「ふむ、ワシならあやつから襲って戦力を削ぐがのう」
顎に手を置いて、冷静に状況を分析する双循。
「主人公が此処でドババッーって秘められた力に覚醒しちゃうのもアリだね」
万歳のようなオーバーアクションで口をぐわっと開け、ルフユも意見を出す。
「そういった場合、魑魅魍魎にも奥の手が用意されとるのがセオリーじゃ。その戦いも見物じゃのう」
とんでもなく脇道に逸れる映画談義。結局、内容そっちのけでトークに花が咲いた。