少しでも癒せたら夜遅く。今日もボロボロになるまでトレーニングをしていた彼。秘密の特訓場で大の字になり、地面の上で意識を手放している。
その頭をそっと両手でもたげて太ももの上に乗せ、地へ座る。
ゆっくりゆっくりと頭部を撫でながら、回復の魔法を掛けて行く。天使の羽根でくすぐるような手付き。
無理は出来るだけして欲しくはない。けれど――。
「貴方のそういうところが好きです」
聞こえて欲しいような、欲しくないような。そんな声量の囁きの後、上半身を折り、口吻による一瞬だけの口付けを交わす。
土まみれの中からでも、彼のバラの香水が標のように鼻を通り抜けて行った。
(おわり)