トレーナーザワと格闘家💥の小ネタ(相爆すごろくより スポーツ選手パロ)子供の頃から優勝しまくってた有名ジム所属の才能マンキックボクサー💥、デビュー後すぐは話題を掻っ攫うも、数年で鳴かず飛ばずに。ジム退団のニュースでさえほとんど話題にならなかった。
実はこれは💥の実力がなかったからではなく、良い試合を組んでもらえなかったから。八百長に絶対に応じないため、嫌がらせをされていた。自分から退団した💥だけど、根回しされてて移籍先が見つからない。
けど諦める気はさらさらなく、粘り強くあちこちのジムを当たりながら、自主トレに励んでいた。
ある日、いつものようにランニング後公園で素振りしていると、
「軸がブレてるぞ」
と声が飛んでくる。振り返ると、ホームレスみたいな草臥れた男が、ベンチで新聞を読んでいる。無精髭に長い前髪。髪が顔に掛かっていて表情はよくわからない。おっさんの戯言かと思って初めは無視したけれど、時々その男が零す言葉に従って見たら、指導が的確でびっくりする💥。
「あんたどっかでコーチでもやってんのか」
男はそれには答えずに立ち上がる。
「事情は知らんが、あの業界が陰湿なのは知ってる。大方嫌がらせで移籍先がないんだろ。諦める気がないなら総合格闘技にでも転向しろ。お前は実力もネームバリューもある、拾ってくれるところはあるはずだ」
「やっぱり関係者じゃねーか!」
そういう💥の静止を振り切って立ち去っていく男の後ろ姿を見て初めて、左右のバランスが微妙に悪い、と気づく💥。
それからしばらくの間、💥は悩んでいた。確かに💥に興味を示す競技団体はあった。けれど総合格闘技はよりエンタメ性が強い競技だ。また八百長しろと言われて揉めたら、きっと今度こそ後がない。せめて信頼できるジム、一緒に戦ってくれるコーチの下につきたい。けれど心当たりがあるはずもなく。脳裏に浮かぶのは数日前に出会ったあの男くらいのものだった。
方向性が決まらないとはいえ、いい加減一人での練習は限界だった。ミット打ちなりスパーリングがしたい。一般人のふりをしてジムに行こうか、けれど業界の知り合いに会ったら面倒だ。
そういえば、駅前のビルにボロボロの「〇〇ボクシングジム」って看板が掛かっていたと思い出す。人の出入りを見た試しがない。あそこならバレないだろう。そう考えて古びて軋む鉄階段を登った。
汚れて曇ったガラス扉の向こうは薄暗くて、人気は無さそうだった。ダメもとで扉を押すと、鍵がかかっていない。恐る恐る中に入った。床には分厚い埃が積もり、鏡は曇り、チラシは黄ばんでいる。潰れてんのか、と舌打ちして去ろうと扉に向き直ると、背後から声がした。
「悪いな、ここはもうやってないんだ」
いかにも寝起きでシャワーを浴びました、という感じで長髪から水を滴らせ、首にはタオルをかけ便所サンダルを引っ掛けている姿に見覚えがあった。
💥「あの時の、」
ザワ「…………。何の話だ。鍵を開けていた俺も悪いが、不法侵入だぞ。帰ってくれ」
💥「しらばっくれんなよ。あんたここでトレーナーやってんのか」
ザワ「見ての通り営業してないし、俺はトレーナーじゃない」
💥「じゃあなんでそこ、サンドバッグとその周りだけ綺麗なんだ? それにリングも。埃が積もってはいるが長いこと手入れしてなかったらもっとボロボロのはずだぜ?」
ザワ「……サンドバッグはたまたま気晴らしに使っただけだ。お前の勘ぐりすぎだろ。さぁ帰った」
💥「なぁ、オッサン、俺を利用しろよ」
ザワ「あ?」
💥「俺もアンタの事情は知らねぇ。けどこのジムを諦められないんだろ? 俺が有名にしてやンよ。俺は八百長しろとか言ってこねぇ優秀なコーチと、場所が欲しい。アンタはこのジムを立て直せる。win-winじゃねぇか」
ザワ「確かに俺はお前に将来性があると言ったな。だかそれはまともなジムで、まともなコーチに付いた場合の話だ」
💥「アンタは俺が出会った中で一番優秀なコーチだわ」
ザワ「あの一回で買い被りすぎだ。あの時は気づかなかったかもしれんが、今は目に入ってんだろ」
男はそう言って短パンから突き出している右足を軽く持ち上げて見せた。義足だった。
「あとこれも」
そう言って書き上げた前髪からは、眼帯に覆われた右目が現れる。
ザワ「俺は随分昔に選手として使い物にならなくなった。コーチとしても、片輪じゃお前みたいなプロには不足だろ」
💥「それがなんか問題なんか?」
ザワ「は?」
💥「アンタの指導は他の誰より良かった。それは変わらねぇ。それに見たとこトレーニングやめてねぇんだから、スパーリングだってミットだってできんだろ。何の問題もねぇな」
ザワ「いや、しかし……」
💥「俺の試合を一回でも見たことあんなら、知ってんだろ。勝負は完璧に、完膚なきまでに、だ。俺は引かねぇぞ。腹括れや」
諦めたくない理由があるんだろ、俺も同じだ。そう💥言われて、ザワは大きくため息をついた。
ザワ「……わかったよ。後悔するなよ。俺は昔から容赦がないって後輩に嫌われてたんだ。指導者向きの性格じゃねぇぞ」
💥「ハッ。上等」
ザワ「よしそれじゃあ掃除……は明日でいいな。適当な退けるからアップしてフォーム見せてみろ」
💥「急なやる気じゃねぇか」
ザワ「俺は合理的じゃないのは嫌いなんでね」
から始まる💥とザワの二人三脚成り上がりストーリーが!!見たい!!
💥の試合でセコンドをするザワがとてもとても見たいんです!!!だんだん言葉を荒げてリングの外から叫ぶザワとか、タイムアウトでザワの手中のボトルから水飲む💥とか……見たい……
いれられなかったんですけど、このザワには
「いいか💥、この世界は理不尽に満ちてる。八百長だって不正だって罷り通ってる。だからこそ、完膚なきまでに勝て。誰よりも強く。誰よりも客を楽しませろ。そうすれば誰もお前に文句をつけなくなる」
的なことをぜひ言ってほしい。
それから、ザワの過去は、
駅前のジムが人の良いおじいちゃんコーチによって経営されていた頃、若いザワはそのジムからでたはじめてのプロ選手で、期待の星だった。
運動したい一般の人相手に細々とやってたジムが、ザワのお陰で繁盛しはじめて、ザワも順調に活躍してた矢先、事故に巻き込まれて片足切断、右目失明。一時生死の境を彷徨い、リハビリも含めて長期の入院に。当然選手への復帰は不可能。絶望するもなんとか退院したザワだったが、入院中におじいちゃんコーチが急逝していた。広告塔だったザワが再起不能な状況下では、なかなか後継も見つからず、もともと経営状態もあまり良くなかったのでジムはそのまま倒産。
おじいちゃんコーチはザワの身を案じて、ジムの売却を阻止してくれていた。悲嘆に暮れるザワ。それでもお世話になったおじいちゃんコーチのジムを諦められず、かと言って出来ることもなく、ジムの一角を住処にして数年をアルバイトで細々稼ぎながら無為に過ごしていた。
そんなある日、公園で💥を見かける。小さい頃から将来有望だと言われていたのに、最近ジムを退団したと週刊誌の片隅に乗っていたやつだ。ストイックに練習する姿を見て、きっと訳ありだな、と思った。昔の自分と重ねたのか、つい口を出してしまう……。
という感じ。