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    96910iiy

    まいるまの二次創作小説を書いてます。
    雑食ですが、よく書くのはシチカル、イルアズ、兄叔父です。

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    8/5シチカルオンリーで全文公開したい
    前半のみ
    if魔フィア 年齢操作あり

    天使と悪魔(仮) 骸骨のようにやせ細った神父は震える指先で、部屋の隅の子どもを指さすと声を絞り出した。
    「貴方がたにお渡しできるものは、もう、あの子のほかにはありません、私にはもう何もないのです。どうぞあの子をお金に替えてください」
     指をさされた痩せた男の子は、黙って神父を見返していた。今まさに自分自身を売り払おうとしている神父を。
    「おい、ふざけるな! お前の借金がいくらになるか分かってんのか! あんなガキで足りるか!」
     椅子に座った神父にカルエゴが詰め寄ると、神父は力なく首を左右に振った。
    「本当に、もう何もないのです、何も。私は……全てを手離しました、最後まで守りたかった、信仰心……までも」
     神父は苦しそうに顔を歪めると、胸から下げた十字架を両手で握りしめた。すでにまっすぐに姿勢を保つことすら難しいのか、両肘を机について倒れ込むようにしながら、必死に言葉を繋ぐ。
    「主よ……この世、から……あなたのもとにお呼びになったわたくし、を……お約束のとおり、あなたの、くに、に……すべての罪……から、かいほう、され……」
     一言一言の間に苦し気に息をしながら、神父は自分自身に向かって最後の祈りを捧げ始めた。
    「勝手に綺麗に死のうとしてるんじゃねえよ!! クソ野郎!」
     カルエゴは神父の襟を後ろから掴んで引き起こそうとしたが、その手に感じたのは死者の重みだった。ぐったりした神父はもう息をしていない。苦悶に満ちた表情のまま、もう何も映さなくなった瞳を見開いている。
    「クソっ!」
     カルエゴが無慈悲に手を離すと、神父の頭はゴトリと音を立ててテーブルの上に崩れ落ちた。
     多額の債権回収に失敗した、とんだ失態だ。せめて何か金目のものがないかとカルエゴは室内を見回したが、生きるための最低限の質素な家具と痩せた子供以外、本当に何もなさそうだった。試しにライティングデスクの引き出しを開けると、空の薬包が溢れるほど詰め込まれている。カルエゴはうんざりした。それがここ最近バビルの縄張りに広がる違法な薬物であると一目で分かったからだ。
    「おい、お前、俺と来い」
     男の子にそう言うと、その子は表情を変えずに、カルエゴをまじまじと見つめた。
    「神父様が、僕を貴方に渡すと言ったから?」
    「ああ、そうだな。何とかお前を金に変える方法を考えるぞ、あと、少し聞きたいことがある。来い」
     教会に通う信者には見つからないようにと、わざわざ車も使わずに歩いてきてやったのが馬鹿馬鹿しかった。あいつは元から金を返す気なんて無かったんだろう。真面目で優しく誠実な神父なんて顔をしながら、とんでもない大嘘つきだ。町外れの教会から自宅へと向かう石畳を踏みつけ、カルエゴは腹立たしげに煙草をふかしながら舌打ちした。
     早足で歩くその後ろを、痩せた小さな男の子が必死に付いてくる。
     何度か神父の元に通う間にその姿を見た覚えはあるし、噂話も聞いていた。

     ーーお優しい神父様は、孤児をお引き取りになったそうだよ。顔に大きな傷の残った醜い男の子で、神様からも見放されたような子だから、神父様が哀れに思って手を差し伸べられたんだ。なんてお優しい神父様ーー

     石造りの細長い三階建の建物。階段を上がると、そこがカルエゴの自宅だ。魔フィア組織バビルの一員として、ボスであるサリバンの住む屋敷の一部屋を与えられたこともあったが、もとより他者との交わりを避けたかったカルエゴは小金を貯めると早々に屋敷を出てそこからバビルへ通うようになった。
     部屋のランプをつけて、あらためて「哀れな孤児」の姿を見る。
     子どもの年齢なぞよく分からないが、ひどく痩せて弱々しく、まだ学校にも上がらないくらいの幼さに見える。元は白かったのかもしれないシャツは薄茶色に汚れ、髪はクリーム色。これもよく洗えばもしかしたら白い髪かもしれない。重たそうな髪の毛はろくに櫛も通されていないのか、ごわついて束になっている。無造作に伸ばされた髪が目を覆うように垂れ下がり、その下にある口の横には、噂通り傷跡が残っている。口角を裂かれたような傷の跡。それはあまりにも存在感があって顔を見ると否が応でも目に入ってしまうものではあるが、カルエゴの目には特段醜くは見えなかった。重たい前髪の間からわずかに覗いている瞳が、傷跡なんて霞ませてしまうほどに強い光を放っているからかもしれない。
    「あんな酷い男に貰われてお前もついてないな」
    「神父様のこと?」
     カルエゴは新しい煙草を取り出すと、胸の中に膨れ上がる苛立ちを煙で抑え込もうとでもするようにライターで火をつけて深く吸い込んだ。
    「あいつ、慈悲深い神父様だなんて言われてすました顔しやがって。実際には俺たち魔フィアから借金を重ねて薬物をやってたんだろう? まあ、貸した金を何に使おうが俺の知ったことじゃないがな」
     カルエゴは腹立たしげに煙草をふかしながら「しかも金を返さず勝手に死にやがった、ろくでもないクズ野郎」と吐き捨てるように言う。
    「かわいそうな人だったよ」
     男の子は思わぬことを言った。
    「神父様、癌を患ってたんだ。酷い痛みで苦しそうにしてることも多かったけど、それでも町の人の前ではいつも優しい穏やかな神父の顔をしなくちゃならなくて。苦しいのに平気そうな顔をするのってすごく辛いと思うよ。少しでも痛みを和らげようとして薬に手を出したんだよ」
     ふん、とカルエゴは不快そうに鼻を鳴らした。
    「いつも穏やかな神父の顔をしたかったのは別に誰のためでもない、あのクソ野郎本人の自尊心だよ。理想の神父の仮面を手放せずに、仮面の裏では悪魔の顔をしてたんだからやっぱりろくでなしのクズだ」
     男の子は不満そうな顔をしたけれど何も言い返さなかった。  
     カルエゴは戸棚に向かうとブランデーの瓶を取り出して乱暴にグラスに注いだ。こんなに腹の立つ日は強い酒でもあおらないとやっていられない。
    「お前も何か飲むか?」
     そう言って男の子に近づいて、カルエゴは顔をしかめた。男の子からは何日も体を洗っていないであろう匂いがした。引き取った子になんの手もかけていなかった神父に向かって心の中で、クソ野郎が、と毒づいてから「まずシャワーを浴びて来い」と男の子に命じた。
     男の子はシャワーを浴びると一瞬で戻ってきた。ただ頭から湯をかぶっただけと言う印象で、顔も体も薄汚れたままだ。 
    「体の洗い方も知らないのか」
    「神父様がいつも、お湯がもったいないから早く出るようにって」
     もう神父に怒りをぶつけるのにもうんざりして、カルエゴは黙って男の子を洗ってやることにした。
     カルエご自身は腕まくりしてバスタブの外に立ち、バスタブの中に立たせた男の子を念入りに石鹸で洗ってやる。髪の毛は何箇所かゴワゴワした塊になっていて指も通らない。シャワーをかけると、白いバスタブの中を汚れた湯が川になって流れていく。
     一度では綺麗にならずに何度か洗ってやると、玉ねぎの皮が剥けるみたいに綺麗になっていった。
     顔を洗う時に、口元の傷に指先を当てて念のため「ここは痛いか」と聞くと、男の子は黙って首を横に振る。 
     全身骨と皮ばかりに痩せていてゴツゴツしているのに、頬だけは妙に柔らかくて手に馴染んだ。
     なんの抵抗もせずおとなしくされるがままに洗われている様子は、まだ物心もついていない赤子のように無力に見える。時間をかけて汚れを落とし、だいぶましな姿が現れた。
     髪のところどころは、固くもつれて解けそうもなく、面倒なのでナイフで適当に切り落とした。その時もこの子は何も言わず、されるがままだ。
     ついでに前髪も切ってやると、上目使いの意志の強そうな目が現れた。ずいぶん昔、自分がまだ裏の世界に足を踏み入れる前に信心深い母親に連れられて行った礼拝堂に、こんな気の強そうな上目使いの天使が描かれていたことがなんとはなしに思い出された。
     若い男の一人住まいに子供服なんてあるはずもないが、カルエゴが適当に渡したシャツは小さな体の膝下まで隠れて、寝るのにはちょうど良いだろう。
     テーブルに置きっぱなしにしていたブランデーを口に含むと、自分の手のひらから石鹸の香りがしてブランデーの香りが台無しだった。
     気付くと男の子は寒そうに体を震わせている。夜が更けて気温もさがり、湯上りにシャツ一枚。その上、この子には寒さを遮る脂肪が全くついていないのだから当然かもしれない。
     カルエゴは、小さな鍋にミルクを注いで火にかけながら言った。
    「お前にいくつか聞きたいことがある」
    「はい」
     男の子は姿勢を正して少しおびえたような目をした。
    「……名前は?」
    「シチロウ」
    「本名か? あまり聞かない名だ」
    「分からない、でもずっとそう呼ばれている」
    「あの神父について聞くが、あいつは薬をどこから手に入れていた?」 
     カルエゴが一番聞きたかったことはこれだ。少し前から、バビルの縄張りの中でも麻薬取引が広がっていることはカルエゴも把握している。バビルはありとあらゆる悪事に手を染めているが、ボスであるサリバンの意向で、薬物取引と児童売買だけは禁じられていた。詐欺・武器密輸・違法カジノ・誘拐から殺人まで手を広げている裏組織がいまさらなんの正義を振りかざしているのかと思わなくもないが、カルエゴ自身もあえてその方面に手を出したいとも思わなかった。
     ところがここ最近、町なかに違法薬物が出回っている。今日神父のライティングデスクで見つけた薬包も間違いなくそれだった。縄張りを荒らす小賢しい敵対組織の尻尾を掴もうとしていたところで、この子から情報を引き出せるかもしれないと、そう思った。
    「どこからかは…わかんない」
    「見慣れない奴が教会に出入りしたりは?」
    「教会にはたくさんの人が来るから、見慣れない人が来ても気付かないよ」
    「どこか、今までは行かなかったような場所に神父が出入りしたりは?」
    「街に出たら、みんなが神父様の顔を知っているから。みんながいるときはいつもと変わらないように過ごしていたと思う」
     カルエゴは失望した。
    「まあ、子どもに期待するだけ無駄だったな」
     そう独り言のように言って、カルエゴは温まったミルクを火からおろして、カップに注いだ。温まるようにブランデーを2,3滴たらしてやって、シチロウの目の前に置く。シチロウは、椅子に座ったままじっとカップを見つめている。のどがごくりと鳴るのが聴こえた。
    「なぜ飲まない?」
     不思議に思って聞くと、「飲んでいいの?」と嬉しそうな声が返ってきた。
    「お前以外に飲むやつはいないだろう、俺にはこれがある」
     カルエゴが掲げたグラスを見て、シチロウは安心したように両手でカップを取るとごくごくとそれを飲み干した。
    「……美味しい!」
     その時、初めてシチロウは笑顔を見せた。
    「別に単なるミルクだ」
    「でもとっても美味しいよ」
     神父の家でどんなものを食べさせられてきたのか聞くまでもないと思った。
    「腹が減っていないか? と言ってもパンとハムくらいしかないが」
    「もうミルクをもらったよ」
    「それは飯じゃない」
    「でも、神父様のところでは食事は一日一回だったし、今日はもう食べたから」

     ふざけんなよ。
     カルエゴは、死ぬ前のあいつの顔に拳の一つや二つお見舞いしてやっても良かったと後悔した。
     固いパンに、分厚く切ったハムを乗せてシチロウに渡すと、必死に噛り付く。よほど飢えていたのだろう。
     ガツガツと食べていると、口元の傷から時々頬の内側の肉がのぞいて、餌をねだる雛鳥がぴいぴい鳴きながら口を開けている様子に似て見える。
     どうしたものかとカルエゴはまたグラスを傾けた。薬の出所を知れるかと思ってこの子を連れ帰ってしまったが、その役には立たなかった。この子を売り払って金にすることも不可能ではないだろうが、サリバンが児童売買を禁じている以上そこに手を出すと面倒なことになりそうだ。 
     神父からの未収金は決して安くはない額だが、もう諦めて、この子はストリートチルドレンが集まっている界隈にでも放り出すか……
     あれこれ考えているうちに、シチロウは食事を終えたらしく、椅子に座ったままうつらうつらと船をこぎ始めている。
    「ここで寝るなよ」
     そう声をかけると、眠そうに目をこすりながらシチロウは椅子から降りて、部屋の隅までぽてぽてと歩いてその場にうずくまった。
    「床で寝る馬鹿がいるか」
     そう声をかけても、シチロウは「……うん」と言ったまま眠りに入ろうとしている。
     カルエゴは面倒くさそうに舌打ちすると、床に転がったシチロウを抱え上げて隣室に運んでやった。驚くほど軽い。
     ベッドに寝かせて毛布をかけると、シチロウは「ぼく、あした、死んじゃうかな……」と突然言った。
    「なんだって?」
    「マッチ売りの少女はね……」
    「だから、何の話だよ」 
     寝ぼけているのか、シチロウはベッドに横になって目を閉じたまま、うとうとと脈絡のない話を続けた。
    「マッチを自分で擦って、たくさんの幸せなまぼろしを見るんだよ……美味しいごはんとか、あたたかい部屋とか……でもね、ぜんぶまぼろしだったから、次の朝には冷たくなって死んでしまうの……」 
     その童話はカルエゴも聞いたことがある。最後にはマッチの燃えカスの中に冷たくなった女の子が横たわっている話だ。
    「僕もね、美味しいごはんとか…温かいシャワーとか、まぼろしだったから、明日の朝には……死んじゃうのかな……」
     そう言ってから、シチロウは静かに寝息を立て始めた。
    「別に……まぼろしじゃないだろう」
     カルエゴのつぶやきが、柔らかな毛布に吸い込まれていった。
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