オリオン主 青き祝福 休暇は海の中で過ごすことが殆どだが、今日は珍しく隠れ家で過ごしている。
隠れ家が建てられることを聞いた時、海底国を選択するのもよかったが人間が足を運ぶことはできない。
姫の執事の厚意なのだから、海底国では執事が訪れることすらままならない。それならアンキュラならば便利だろうと姫と相談してアンキュラの孤島を選んだ。
姫との二人きりの空間を用意してくれた執事には感謝しなくてはならない。今度海底国の装飾品でも送っておくか。
今日は俺の誕生日ではあるが、いつもとは違っているのは陸にいること。そして姫が傍にいることだ。
年を数えるなんてことは俺達海底人はしない。なぜなら人間のように短い寿命ではなく、あまりに長すぎて人生そのものに退屈すら覚えるほどだ。
だが退屈に感じるのは愛する者が傍にいるからなのだろうな。
この隠れ家は城のように広くはないし、最低限必要な物しかない。勿論給仕もいない。
いや、いるか。俺の為にキッチンに立って料理をするお前が。
「オリオンさんの年齢がわからないので、蝋燭はなしにしました。ケーキは食事の後の楽しみにするとして……メインディッシュはフィレステーキです。お肉がいいって言ってましたよね?」
俺が海底人であるが故にお前は食事にも気を遣わなければならない。俺の前で魚は食せないし、海藻類も一切受け付けない。
料理なんてしたこともない俺からすれば理解の外だが、それでも姫は毎回違う料理を出してくれる。実に有り難いことだ。
「オリオンさん、本当は後から渡したかったんですけど、受け取ってもらえますか?」
姫から光の方向によって色を変える不思議な色をした紙袋を受け取ると、俺はいてもたってもいられず袋を開封する。
中にはベルベットの巾着が入っており、その中にはストライプの模様が入った青い石が入っていた。
「オリオンさんの誕生石はカイヤナイトって言うんですって。綺麗な青だなと思ったら手にとっていたんです」
「ああ、美しい色だな。海の青とはまた別の美しさがある……大切にしよう」
じゃあ乾杯をしましょう、と姫が青ワインをグラスに注いでくれる。
ワインと言えば赤か白だが、赤以外でこんなに色鮮やかなものまであるとは驚くばかりだ。
「オリオンさん、お誕生日おめでとうございます。オリオンさんにとっては特に意味の感じられない誕生日かもしれませんが、私はオリオンさんと今日という日を祝うことができてとても嬉しいです」
それはお前と出会うまでの話だ。今はユメクイによって眠らされ、お前に目覚めさせられたことに感謝しているんだ。
お前と俺を引き合わせたものがなければ、今こうして言葉を交わしていることもなかったのだから。
長い時を生きてきた俺からすれば、お前など赤子同然の子供だ。それなのに俺を置いて年老いていく──それが人間だ。
それでも限られた時間の中で共に過ごしたいと願ってしまう。
長い時の間で知ることのなかった想いを教えてくれたのは、人であるお前だ。もうお前以上に愛情を注げる娘との出会いなどないだろうな。
姫のワイングラスと俺のものを重ねる。
口にした青ワインは俺には少し甘すぎるくらいだが、食事の後を予見するような甘さだった。