素描描かれた翼に狂わされ、羽ばたくことのない憐れで醜い雛鳥。このいきものは、なんてかわいいんだろう。存在は選ぶことのできぬ公理に囚われている。だからその業から救いだすのではなく、檻に閉じ込めて、その美しさを永遠にする。生き様すら芸術として咀嚼して、そのいびつな命の全てを、己の作品に昇華させてやる。
――マエストロとして、なんとも模範的なことだろう。
雛鳥を飼育するのは至難である。羽ばたけぬ矮小な精神、作り物とはいえひしめく心の欠片が煌びやかに絢爛に瞬く。決して飛ばぬ雛鳥は、芸術の為に飼いならされているにすぎないというのに、その指先、舌先に与えられるものは全て甘美な死とすら思っている。その浅ましさ、愚かしさがたまらなくいとおしい。
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