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    mrmr1126

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    mrmr1126

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    ひだまりみたいな毎日を、「ほんとに美味いの?」

    「ほんとだって!あつあつでさぁ、チーズがトロトロでさぁ………」

    当時の味を思い出したのか、ふにゃ、とした笑顔を見せる浩国は可愛い。可愛いからこそ、意地悪したくなる。ガキの頃から成長してなさすぎてやばい。

    「俺のメシより?」

    途端、分かりやすく慌てた浩国が俺のパーカーの裾を掴んだ。あざとすぎんだろ。可愛い。

    「ち、ちがうって!ただほら、まだお前がいなかった時さ、もうストレスで死ぬ!って時に、会社抜け出してここのハンバーガー買いに来るのが俺の癒しだったんだ。ほら、ここなら会社からもちょっと離れてるだろ?だから、その、お前にも食って欲しくて、それで、」

    「ふふ、チョロ国。ガキじゃねーんだから、そんなんで気ィ悪くする訳ないでしょ。ほら、並ぼ。」

    からかったな!という浩国の声を背中に受けて、さっさとキッチンカーの最後尾に並んでしまう。浩国、公園でランチとかしてたんだ。ひとりぼっちで?くそ、もっと早く来ればよかった。しょんぼりと肩を落とした浩国を想像しただけでしぬ。

    「相変わらず並んでるなぁ。売り切れないかな。」

    「大丈夫でしょ。ほら、ドリンクどうする?」

    あっさり機嫌を治しているらしい浩国が、ドリンクメニューを覗き込むつむじを愛おしく眺めた。

    「………んー、俺レモネードかな……でも炭酸欲しくなるか……ハンバーガーだしな……」

    「じゃあ俺ジンジャエールにするよ。」

    「えっ、優しいな、お前。」

    「恋人だし、一応。」

    「一応ってなんだ!失礼な!」

    そっちなんだ、怒るの。
    こんな真っ昼間の公園で恋人だなんて言うなと怒るかと思ったら。嬉しくて、飲み物ラージサイズにしなよなんて提案しかけた瞬間、商品を受け取ったらしい中年男性が俺たちの真横で足を止めた。

    「…………渡?」

    その声に、俺の横できゃいきゃいと吠えていた浩国の動きがぴたり止まる。そして、知り合いだろうか、と身体を避けかけた俺のパーカーの裾がぎゅ、と握られた。大した力ではないのに、俺には分かった。分かってしまった。この少し神経質そうな男性は、浩国にとって良くない人物なんだろう。どうしよう、列を抜けてしまおうか?

    「渡、だよな?なんだこんなところで。」

    「っ、はい、あの、すみません。」

    浩国、大丈夫?
    必死に目で訴えかけても、浩国はちっとも気付かない。

    「今は金子の会社にいるんだって?こんな平日にどうした。クビにでもなったのか?」

    「いえ、あの……………有給、で………すみません。」

    何がすみませんなの、浩国。
    最近見る事のなかった、浩国の表情。
    もしかして、これがあの上司だろうか。浩国が全然帰って来なかったあの夜たちを思い出す。寂しいのは勿論だけど、素直に驚いた。いままでこんな生活をしてたのかって。それで、栄養のない食事を胃に流し込んで、ボロボロの身体引きずって会社へ向かってたのかって。感謝すらされないまま——

    「有給ねえ。まだ転職して半年だろ?頼りにされてないんじゃないのか?」

    「っ、れ……は、わかりません、けど………」

    「まあいい。ちょっと聞きたい事があるんだ。今、いいか?」

    「え、でも、メシ……………」

    浩国の困りきった声にハッと我にかえる。
    男は何でもないように、ハンバーガーの入っている紙袋を掲げて見せた。いや、自分はあるからOKじゃねえんだよ。

    「時間がないんだ。そもそも、誰のせいで分からない部分が出てきていると思う?勝手に決めて、有給まで消化して辞めたお前のせいだろ?」

    「っ、でも、………………、わかり、ました。……ごめん 甲斐、先に食ってて。終わったら連絡するから。」

    一歩踏み出て、俺のそばから離れようとした浩国の細い手首を掴む。

    「意味、分かんないんスけど。」

    途端、一気に2人の目線が俺に集まるのが分かった。うわ、緊張してきた。

    「………浩国の幼馴染で、同居人の深谷といいます。口を挟んですみません。……あ、列進んでるんで、いいすか。」

    一歩、三人で前に進む。ちょっと面白いな。

    「……同居人、ねえ。……いや、すまない。少し渡をお借りするよ。」

    値踏みするような視線に吐き気がする。
    なんか文句あんの。

    「……… 甲斐?ごめん、あの、」

    「おかしくないですか。もうヒロはあんたの部下じゃない。100歩譲って、"渡さんすみません、私の不徳の致すところですが、どうしても渡さんのお力が必要です。ご教示ください。"くらい言うなら分かるけど、メシも食わさないでタダ働きさせる気?」

    やば、見ず知らずの他人に言い過ぎたかも。
    後悔と、少しの高揚感。年上の、いかにも立派な社会人然とした男に対峙するのは勇気がいったけれど、絶対に目は逸らさない。背は俺のが高い。

    やがて男は、ふっとわざとらしい含み笑いを洩らした。

    「………渡、そういうことか。」

    「え……………?」

    「流行りのLGBTだかなんだか知らないが、こんな男に入れ上げて、仕事も投げ出したのか。これだからお前みたいなのは頼りにならない。」

    ひゅ、と浩国が息を呑むのが分かった。
    もうこの手を引っ張って無理矢理帰ってしまおうか、と思った瞬間、浩国が一歩前に出る。

    「………頼りに、してもらわなくて、いいです。」

    「………ヒロ?」

    心配になってそう呼びかけたけれど、浩国の真っ直ぐな瞳は強い力を持って男を見つめていた。

    「確かに俺、迷惑をおかけしました。社会人失格かも知れません。だから、俺の事はどう罵って頂いても構いません。けど……けど、 甲斐……コイツの事だけはそんな風に言わないでください。"入れ上げた"なんて下品な事言わないでください。俺、コイツがいなかったら、本気でどうなってたか分かりません。でも、だからどうとか、ないです。もう、俺は、主任とは、無関係の人間です。」

    浩国が深く深く、頭を下げる。
    チラチラと周りの視線を感じるけれど、今はそんな事どうでもいい。ぎゅ、とその肩を抱いて身を起こさせた。

    「………浩国、順番、次だから。」

    「ん、俺、チーズバーガーがいい。」

    「ポテト大盛りにしようね。」

    俺たちの会話に、"主任"の居場所はない。
    何かを言いたげにもごもごと口を動かしていた男は、やがて立ち去った。その背中を、浩国はもう追わない。



















    「………….かい、」

    「なぁに、ヒロ。」

    1日の終わり、就寝の準備を終えて戻ってきた俺に、ベットと中の浩国はまるで子どものような無防備さをもって声をかけた。

    「……ごめんな、今日。」

    「? なにが?」

    ごそごそと隣に潜り込むと、すぐさまぎゅっと抱き着かれる。あら珍しい。

    「…… 甲斐にやな思い、させた。せっかく休み合わせたのに。」

    「へ?何言ってんの。ハンバーガー美味かったよ。」

    縋るように俺の胸に顔を埋めた浩国が、" 甲斐のメシの方が美味いよ"なんて昼間の冗談を蒸し返して健気な事を言うから、俺もどうしようもない気持ちになってしまう。

    「……浩国の方が心配。ごめんね、状況飲み込めなくて、守ってあげられなかった。」

    「俺のこと、見損なった?」

    「ひろくにさーん、会話をしてくださーい。」

    わしゃわしゃとその髪を些か乱暴に撫でても、浩国はされるがまま。顔もあげてくれない。

    「責任感ない人間だ、って思った?でも俺、出来る限りの引き継ぎ資料は作ったし、それに——」

    「思う訳ないよ。」

    「………ほんと?」

    「ほんと。てか逆に自分にムカついてる。あんな非常識な上司のとこに浩国を預けてたなんて。」

    「ふふ、俺は幼稚園児か。……ありがと。」

    やっと笑った。
    柔らかな吐息が胸を掠めてどうしようもない気持ちになった。

    「どーいたしまして。……ヒロ、顔上げて。ちゅーしたい。」

    ん、と顔を上げた浩国の前髪をそっと撫でて額にキスを落とす。まるで祈りのように。


    浩国が二度と誰にも傷付けられませんように。

    俺のそばで笑ってくれていますように。

    口下手な俺に愛想を尽かしませんように。

    それから———


    「なんでそこなの。」

    「え?」

    「なに、やっぱ怒ってんの。」

    もそもそと布団を退けて、浩国の柔らかなそれが俺の唇に重なる。そのまま、二度三度と段々深くなるキスに夢中で応えた。ほんと、珍しい。

    「………ん、………かい、…………しよ………」

    「ふふ、お誘い?ダメだよ、明日仕事でしょ。」

    「キツい?」

    「ん?俺は平気だけど……ヒロの腰が終わります。」

    「へーきだよ。………なぁ、………っ、ふ、……ん、」

    可愛い。随分キスも上手くなった。
    俺が仕込んだんだけど。どうしよ、このまま流されてしまおうか。でも、

    「ヒロ、大丈夫だよ。」

    口の端に少し溢れた唾液を拭ってやってから、その背中をぽんぽんと叩く。

    「………?だから大丈夫だって、」

    「何があっても、浩国が好きだよ。」

    「なに、言って、」

    「俺、ちゃんと社会人とかやった事ないし。責任感がどうこうとか、分かんないよ。だから、ヒロが気に病んで、それでセックスしようみたいなの、思わなくていい。」

    「………. 甲斐。」

    「セックスはそりゃいつでも死ぬほどしたいけどね。今日は色々疲れただろうし。ヒロの全てを知り尽くした俺としては、明日に備えてゆっくり寝てほしいんですよ。」

    なんかムカつくな、と笑った浩国の身体から力が抜ける。そのまま一定のリズムで背中を叩いてやると、ほんとに子どもの寝かし付けしてるみたいだ。
    したことないけど。

    このまま俺も寝てしまおうと、目を閉じたところで、ヒロの小さく笑い声をたてた。

    「………ん?」

    「いや、ちょっと思い出し笑い。」

    「なによ。」

    「いや、ここに来てすぐの時は、無理矢理抜いてきたのにさ。 甲斐くんも成長したなあ、と思って。」

    「そりゃ………ねえ。」

    「なんだよ。」

    「今夜一晩シなかったくらいでびくともしないくらい、俺がいつも満足させてあげてるでしょ?」

    「はァ!!?!!!!」

    よかった、元気になったね。

    とは勿論口に出さずに、もがく身体を力任せに抱き締める。痛い、とか、苦しい、とか。文句を言いながらもどことなく楽しそうな浩国の声をずっと聞いていたいとか。








    すぅすぅと穏やかな寝息を立てて眠る恋人を見つめる。こうやって、沢山の夜と朝を2人で迎え入れて、今日のあの気味悪い男の記憶が過去へ過去へと追いやられていくのを待つ。そうやって、浩国と2人で生きたい。





    「…………浩国がずっと、幸せでありますように。願わくば、俺と。」


    「…………ぅ、………かい、そっちのがお肉おっきい………?食べたい、………んー、ポテトも、もっと………」


    あ、俺が作ったもの以外の夢見てるっぽい。浮気だ。







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