カーテンコールの先で 特殊な方法とはいえ干渉できたのだ。こちらから通信を送ることだって無理ではないはず。
そしていつの日か、再びセツと言葉を交わす。それが何もなかった自分に生まれた夢だ。
そのためには知識をつけなければ……。
「あ……あの、ユーリさん」
「僕、お茶を淹れたので……よかったら」
「……あまり、根を詰めすぎないでくださいね。ユーリさん、無理をしたばかりなんですから」
「無事に帰ってきてくれて、本当に良かった……です。これからは、自分の身体を第一にしてください」
「それはっ……! ……ユーリさんの意志を、尊重できないのは、嫌……でしたから」
ありがとう、と感謝を伝えた。
技術的にも、それ以外でも、レムナンには助けられてばかりだ。
「いえ、そんな。…………」
右肩に重みを感じる……。
少し身を屈めてそちらを覗き込むと、レムナンの紫の瞳と目が合う。じっとこちらを見つめる様子からして、まだ言いたいことがあるのだろう。
視線を逸らさず、こちらもレムナンを見つめ返した……。
「…………」
そのまま見つめ合っていると、次第に彼の頬が赤くなってきた。物言いたげな雰囲気は変わらないが、これはこれで満足してくれたのだろうか。
それなら、と手元の端末に視線を戻した瞬間、雰囲気が険しくなったのを感じた。
不思議に思い彼の顔を再び覗き込むと……頰は赤く染めたまま眉を寄せ、怒りというか不満というか――とにかく、そういったものを孕んだ表情が目に映る。
レムナン? と、彼の名前を呼んだ。
「……はい」
応えてはくれるが、それだけだ。しかし、なんとなく理解できてきた。
情報端末を膝から下ろすと、やはりというかレムナンの表情が和らぐ。それに続けて彼の手を握ると、目を輝かせてくれた。
わかりやすい反応に確信を得る。こういうところは正直でかわいらしい。
手を握り、レムナンを見つめたまま……ひょっとしてヤキモチ? と質問した。
「…………はい」
「やっと、二人きりで過ごせるのに……ユーリさん、忙しそうで……もっと僕を、見てください」
合点がいくと同時に、新たな疑問が生まれる。
……昨夜は二人で過ごしたし、帰ってきてからは、ほとんどずっとレムナンの側にいると思うのだが。
それでも足りていないのだろうか、と尋ねる。
「はい、足りません。僕には、全然……」
……足りていなかったようだ。
「……ユーリさんのこと、自分勝手に、縛るような……そんな恋人には、なりたくないんです。……でも……」
レムナンが更に体重をかけてきたので、おとなしく一緒に倒れこむ。
……いろいろと言いたいことのありそうな彼を抱きしめた。
しばらくそのままでいると、レムナンが強い力でこちらを抱きしめ返してきた。
「意識の接続に問題が生じたら、とか、接続先の宇宙でユーリさんが消されてしまったら、とか……。本当に、心配したんですから……!」
それはごもっともなので、黙って彼の言葉を受け入れる。
そう、レムナンはあの時、自分よりよっぽど心配してくれていた。
ラキオが説明してくれたとはいえ、未知の技術で不安要素があったことは確かだ。それに、セツを助けたい、会いに行きたい……というのは、あくまで自分の気持ちでしかない。
それでもこちらを信じて見送ってくれた彼には、文句の一つや二つくらい言う権利があるだろう。
「だから……もっと、確かめさせてください。ユーリさんは、これからずっと、側にいるって……僕を、選んでくれたんだってこと……」
首筋に何か柔らかいものが触れて、そのままちくりと痛みを与えてきた。