帰路3ヶ月前くらいですかね。少年に会ったんです。会ったというか、曲がり角を曲がった先の、遠いところに立っていました。歳は13、4くらいで、二次性徴が始まったあたりの独特の雰囲気ってあるじゃないですか。いや私正直そういうの好きで。ああ勘違いしないでください。そこまで短絡的な人間じゃないですよ。何もせずにそのまま家に帰ろうとしました。
ただその子の近くにはちょっと行きたくて、通り過ぎるくらいはしてもいいかな、と思ったんです。都合のいいことに周りに誰もいませんでしたし。そのまま歩を進めました。もしかしたら話しかけられたりするかもしれない。そんな淡い期待も手伝って、彼に近付きました。
近付くにつれて分かったんですけど、彼、泣きそうな顔してたんです。なので私は寧ろこれは大人として何か話を聞いてあげた方がいいんじゃないかと思いました。それで声をかけようと口を開いたら
顔がぐにゃって曲がったんです。
どう、と説明を求められても難しいんですけど、コーヒーにミルクシロップをゆっくり入れてスプーンで混ぜた時に出来るぐるぐるです。うわ、と思った時にはもう一目散に駆け出してました。後ろは振り返りませんでした。
何故かあの顔を見た時、目が合ったのが分かりました。はっきりと、こっちを見たんです。ぐるぐるの顔のどこに目があるんですかね。それで、急いで家に帰ってから、カーテン閉め切って鍵かけて、ビール浴びるほど飲みました。
それだけだったらまあまだ良かったんですけど。あれから何も考えずにボーっとしていると、たまに目が合うんです。それは部屋の壁を見てるだけだったり、スマホをいじってる時だったりまちまちなんですけど。視線を感じるとかそういった類ではなく、目が合った時のばちりとした感覚があって、驚いてもう一度さっきの場所を見ると何も無い。そんな感じがずっと続いてて。
あの子が悲しい顔をしていたのは、そういう事なのかなって、思うんです。