置いてきたもの私は道を歩いていた。
頭は雑念もなくまっさらで、心は限りなく晴れやかだ。
私は前だけを見詰めていた。
真っ赤な路を駆け抜けていく。
狂気が足を速めさせる。
願いが背中を押す。
だって、もう目の前にある。
私の欲しかったものが。
求め、焦がれてやまなかったものが!
─ふと、私を呼び止める声が、聞こえた?
立ち止まり、耳を澄ましても何も聞こえない。
声の、反響すらも残っていない。
名前が呼ばれているように思ったのだけれど。
聞きなれた声のように聞こえた。
けれど私に、名前を呼んでくれる人などいただろうか?
少しの風に吹かれ、赤い花弁が背後へ流れていく。
それは異様に私の目を引いた。
思わず追いかけようとした。
けれど、前からあんなに光が煌々と照らしているのに、私の背後は真っ暗闇に包まれていた。
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