置いてきたもの私は道を歩いていた。
頭は雑念もなくまっさらで、心は限りなく晴れやかだ。
私は前だけを見詰めていた。
真っ赤な路を駆け抜けていく。
狂気が足を速めさせる。
願いが背中を押す。
だって、もう目の前にある。
私の欲しかったものが。
求め、焦がれてやまなかったものが!
─ふと、私を呼び止める声が、聞こえた?
立ち止まり、耳を澄ましても何も聞こえない。
声の、反響すらも残っていない。
名前が呼ばれているように思ったのだけれど。
聞きなれた声のように聞こえた。
けれど私に、名前を呼んでくれる人などいただろうか?
少しの風に吹かれ、赤い花弁が背後へ流れていく。
それは異様に私の目を引いた。
思わず追いかけようとした。
けれど、前からあんなに光が煌々と照らしているのに、私の背後は真っ暗闇に包まれていた。
まるでそこまでが、私には不要なのだと言わんばかりに。
無意識に、その中に影を探した。
暗闇は何もかもを呑み込んで、何も見えやしなかった。
でも、頭のどこかで理解した。
また捨てたのかと。
また無くしたのかと。
また、私は置いてきたのかと。
孤独感が体にのしかかる。
手が少し震えて、胸元のネクタイをぎゅっと握った。
どこか酷く虚しい気持ちが胸を襲っている。
けれど私は歩み始めた。進み続けた。
置いてきたものも、戻る道も。
私にはもう見えないのだから。
孤独と期待、虚無感と成就感を胸に、走り続けた。
宿願が果たされるまで、あと少しだ。
星は、私を歓迎するかのように、煌々と光っていた。