ゆるゆると重い瞼を悲鳴嶼は開けた。カーテンの隙間からこぼれ入る光を助けに壁にかかった時計を見ればもう朝と言う時間には充分だった。
今日は三連休の初日で仕事はもちろん休みである。だからこうして朝寝坊をしてもなんの問題もない。
だが、と悲鳴嶼は壁から胸元に視線を戻す。
そこには悲鳴嶼に後ろからすっぽりと抱え込まれた実弥の頭があった。
寝起きの悪い自分と違って大家族の親代わりとしてきた実弥は朝に強い。いつもぐずぐずと布団の中にいる自分を余所にぱきっと目を覚ますとすぐにベッドから降りて朝の支度を始める。
その実弥が、だ。
悲鳴嶼が目を覚ますような時間になってもぴくりとも起き出さない。
確かにここのところ、ちょっとしたトラブル続きで仕事が忙しかった。やっとそれも一段落しての連休なのだ。珍しいことではあるがそれほど疲れていたのだろう。悲鳴嶼としては休みの日くらいゆっくり休んでほしいところだ。
それに。
朝起きて同じベッドにまだ実弥がいると言うのが嬉しい。寝坊助な自分が悪いのだけれど、目が覚めるとたいてい隣は空っぽだ。それが今はこうして同じ布団の中にいる。
起こさないように慎重に胸に深く抱き込んだ。ふわふわな頭に顔を埋める。
幸せだな、と端的に思う。
暖かな布団の中で懐には恋人がいる。柔らかな髪はまるで子猫の毛並みのようで手触りがいい。起こさないようにとは思うが、誘惑には抗えず実弥の髪の毛をすくように撫でてしまう。
二人ともここのところ仕事が忙しくて触れ合う時間はまったく取れなかった。それはいわゆる夜のことでも、だ。
そんな不埒なことを考えていたせいか、腕の中の実弥がわずかにみじろいだ。ううんと小さく唸ってそれからふわっとあくびを一つ。
「お、はよう、ございます……」
「おはよう」
寝起きの少し掠れた声が朝の挨拶を告げる。
さらに珍しいこともある。
実弥は寝起きがすこぶる良い。まるでスイッチが入ったようにぱきりと起き出すのに、今日に限ってはくるりと悲鳴嶼の方に身体を向き直してそして胸元に顔を埋めてきた。
「実弥?」
「ん、もうちょっと……」
そう言って悲鳴嶼の胸に頭をぐりぐりと押し付けてくる。
正直、かわいすぎて困るのだが。しかし、いつもと違う行動を取る実弥に心配もする。何かあったのだろうか。
「どうした?具合でも悪いのか?」
顔を覗き込むようにして尋ねたがあいにく実弥の顔は悲鳴嶼の胸に埋まっていて顔色すら窺えない。
「悲鳴嶼さん不足だったから補充です」
少し笑いを含んだ声で実弥はさらにぐりぐりと胸に頭を押し付ける。
まいったな。
「それを言うなら私だって実弥不足だ」
悲鳴嶼は嬉しさを隠さない声で告げて、そして実弥の身体を先程よりも強く抱き締めた。
連休はまだ始まったばかりだ。
たまにはこうして二人朝寝を堪能してもばちは当たらないだろう。