相変わらず眠れないミスラは、明け方になってオーエンが来た時と同じようにふらふらと出ていくのに気付いていたが、放っておいた。追いかける必要もないし、かける言葉もない。
昨夜は乞われるままに散々抱いた。オーエンは性欲が特別強いというわけではないのに、声がかすれるくらいまで喘いでいた。泣き喚かれるよりはすんなりと事が進むので都合が良かった。
やがて力尽きたようにオーエンは眠って、ミスラはそれを眺めていた。普段なら、眠れないという苦痛を抱えている自分の隣ですやすやと寝息を立てるオーエンを見ると殺してやりたくなるが、昨夜はそういう気も起きなかった。性欲が満たされていた所為だろうか。
ともあれ、悪くはない夜だった。気分が良いから、双子が言うように少しくらいなら服を貸してやってもいいとさえ思った。
ミスラはベッドから起き上がり、クローゼットに向かった。奥の方からあまり着ていない服を二着程引っ張り出す。
「アルシム」
欠伸をしながらオーエンの部屋に繋がる扉を作り出した。開く。ケルベロスが飛びかかってきた。紙一重で躱すと、獣はクローゼットにぶつかって頭から服を引っ被っていた。服が好きなのは飼い主だけではないのか。
「激しい挨拶ですね」
魔道具を取り出し、小さな骸骨を生成しケルベロスを押さえさせた。視線をオーエンの部屋へと向けると、細い身体に黒いシャツだけ纏った格好のオーエンがこちらを睨みつけてきた。服の隙間から、白い身体のあちこちに赤い痕があるのが見えて、消してなかったのかと意外に思う。
「何の用?」
「あなたが俺の服を持っていたがるので、貸してやろうと思ったんですけど」
いいことをしてやろうとしたのに、攻撃してくるとは何事かと言外に含めてやると、オーエンは器用に片眉を上げた。
「……服?」
「はい」
「要らない」
あっさりとオーエンは言った。勝手に人の部屋から服を持って行ったし、双子までもが彼を擁護していたわりには随分と執着のないものだ。
「どうしてもって言うなら、ケルベロスの餌にしてあげるよ。おまえごとね」
つい数時間前まではひんひん泣いていたというのに、随分な変わりようだ。むらっとした。殺そう。そう決めて、そうした。
オーエンの死体を尻に敷きながら、なぜこんな気まぐれを起こしたのだろうかとぼんやりと考えていた。何か、自分の中の深いところに大きな変化が起きた気がする。
「……まぁ、気の所為でしょう」
小さな違和感を無視して部屋に戻った。扉を閉めてから持って行ったはずの服を持っていないことに気付いた。戦闘中に手から離れたのだろう。そうであればあの部屋の惨状の一部になったに違いない。まぁいいかと思ってベッドにごろりと横になった。