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    misaka_mh

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    misaka_mh

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    ミス(α)オエ(α→Ω)の続き。

     ミスラが妙なことを言い出した日から、オーエンは徹底的にミスラを避けた。
     ミスラがいそうな場所には近寄らず、腹が空いたらネロを直接襲撃して食べ物を強奪した。訓練や任務などで招集された時も、双子に近い場所にいればミスラも寄ってくることはなかった。なぜか双子がそんなオーエンを気に入ってやたらべたべたと構ってくるのには、「うぜぇ」と直接口にしたブラッドリーと同じく辟易したが、現状、ミスラと双子を天秤にかければ後者に傾くので仕方がない。
     ミスラのことだから、オーエンがΩであることなど数日もすれば忘れるだろう。あれはオーエンにそこまで興味がない。最近は奇妙な傷の所為で不眠だと聞くので、一度寝て起きたなら忘れている可能性もある。
     そうであってくれと願うしかないのが情けなくて腹立たしい。
     双子に詰め寄ってはみたが、彼らにオーエンの体を元に戻す策はないらしい。突然Ωになったのだから、また同じようにαに戻れるかもしれないと楽観的なことも言われたが、とてもそんな風には考えられない。そうだというのに、今のオーエンにできることはといえば、自分の体に念入りに魔法を重ねがけしてΩであることを隠すくらいだった。
     答えの見えない問題に取り組む前に、目前に迫るものの対応策を考えなければならない。つまり、ヒートだ。
     ヒートは個人差もあるがだいたい一月に一度起きると聞いている。Ωは独特のフェロモンを出し、αを惹き付ける。前回の思い出したくない醜態からして、ヒート中に魔法を使うことは困難だ。心が乱れすぎる。Ωであることを隠すこともできなければ、ヒートの対策を打つことも難しい。
     業腹ではあるが、自分の力でどうにもできないのなら、自分自身を隔離するしかない。ヒート発生前には兆候がある。前回は己の身体がΩのそれになっている自覚などなかったから、ヒートを事前に把握することはできなかったが、今回は身体の発する異常を検知したらすぐさま行動を起こせばいい。
     場所は夢の森がいいだろう。あそこは好んで人が近づく場所ではないし、Ωのフェロモンも瘴気と混ざればいくらかごまかせるだろう。
     オーエンが突然姿を消せば、お人好しの賢者辺りが騒ぐ可能性もある。しかし、スノウとホワイトも理由に察しがつくだろうから、捜索に乗り出すこともあるまい。わざわざ忠告してくるくらいだから、その辺りは信頼が置ける。
     あの双子に信頼などという言葉を使うのは、己の弱さを自覚するようで矜持がひどく傷つけられる思いがする。

    「やっぱり、どうにかしないと」

     西の国で人間用のヒートを抑える薬が開発されたと聞いたことがある。はたして魔法使いの身体にも効くのか試してみる価値はあるだろう。人体に害があったとしても、一度死ねばリセットされるだろうから、未知の薬物に対する恐怖はない。
     そうと決まれば早速西の国へ行こうかと、魔法舎の外へと転移した。
     魔の悪いことに、中庭には地面に寝転がっているミスラの姿があった。

    「うわ」

     今一番会いたくない相手だったこともあり、うっかり声がもれた。すると、ミスラは鬱陶しそうに閉じていた目を開けて、ぼんやりとした瞳にオーエンの姿を映す。
     少しの間があった。ミスラのくせに何かを考えているようだと、興味を持ってしまったのが間違いだった。
     オーエンがすべきだったのは、すぐさまミスラの目の前から消えることだった。

    「アルシム」

     突然放たれた魔法が直撃する。それは身体を直接傷つけるものではなかったが、防御魔法を吹き飛ばした。

    「ああ、やっぱり」

     身体を起こしたミスラがぬっと手を伸ばしてくる。辛うじて避けたが、突如地面から伸びてきた蔦が足に絡みつき、オーエンの動きを封じた。

    「クアーレ――」

     魔法を紡ぐ直前、ミスラの手がオーエンの腕を掴んだ。

    「夢を見ていたのかと思ったんですけど、あなたやっぱり俺のΩですね」
    「何? 寝言?」

     Ωであることは事実だが、ミスラのものになった覚えはない。
     αがΩを自分のものと認識するなど、まるで番になったかのようだ。そんなことはあり得ない。ミスラがオーエンの項を噛みでもしない限り、番の関係は築かれない。オーエンはミスラにそれを許したことはない。
     本当に、という疑念が浮かんだ。ヒートで訳が分からなくなったあの日、オーエンはミスラに抱かれた。あの時、ミスラが項を噛まなかったという確証はない。
     嫌な汗が背中を流れ落ちる。
     番を得たことがないオーエンに、番という感覚は分からない。もしも、α側に自分の番を見分ける術があるのだとしたら。それ故に、鈍いミスラでも自覚し得たのだとしたら。

    「甘い匂いがします」

     もしもの可能性に足が竦む。番なんて要らないと思っていたのに、よりにもよってミスラが相手なんて信じたくない。

    「……僕はΩじゃないし、おまえの相手でもない」

     虚勢を張ってみても、ミスラは笑うだけだった。オーエンの言葉をまるで信じていない。

    「なら、試してみますか?」
    「は?」
    「アルシム」

     耳元で囁くように唱えられた魔法。何をしたのかと問う間もなく、答えは身体に現れた。
     身体が、熱い。ひどく、渇く。これは知っている感覚だ。足元から崩れ落ちそうになるのを、咄嗟に目の前の男にしがみつくことで堪えた。その選択が間違いだったと、気付いたのはすぐのことだ。
     頭がくらくらする。Ωとしての嗅覚か、ミスラの匂いに堪らなくなる。今すぐ脚を開いてみっともなくねだりたいと思ってしまう。

    「強制的にヒートを誘発しました。昔チレッタに教わった魔法ですが、役に立つとは思わなかったな」

     あの大魔女は弟子に何を教えているのかと、頭の片隅で散々罵った。

    「これであなたがΩであることは証明されましたよね?」
    「っ、ミスラの、くせに……!」
    「なので次は、他のαの前に連れて行きます。オズとかブラッドリーとか。番のいるΩのフェロモンは番以外のαには効果がないそうです。彼らがあなたに反応しなければ、あなたは番がいることになる」
    「……誰の入れ知恵?」
    「スノウとホワイト」

     あの老害めとチレッタ以上に口汚く罵った。彼らがオーエンの味方であると信じたわけではなかった。だが、まさかこんな手に出るとは思いもよらなかった。
     彼らがこういう手段をミスラに提案したということは、確信があったのだろう。ミスラがオーエンの番であると。

    「オズは……部屋かな」

     ミスラがオズの気配を探している。双子に言われた通り、実験するために。確証を得られた時に、ミスラがどうするのか分からない。その瞬間に番という事実に興味を失う可能性だってあるだろう。ミスラとはそういう男だ。
     ミスラが興味を失ってくれるのならそれに越したことはないけれど、これ以上、こんな姿を誰かの前に晒したくない。オズだけならまだしも他の誰かの目に留まるのはごめんだ。
     決めなければ。頭がおかしくなって何もかも分からなくなる前に。最早心が乱れて魔法を紡ぐことも難しい。オーエンが自身の矜持を守るために取れる選択肢は少ない。
     唇を噛んだ。口の中に血の味が広がる。痛みで理性を取り戻すのは無理だった。何しろ、ミスラとのセックスは痛みと快楽が入り混じる。そんなこと、嫌ほど知っている。

    「僕がΩで、おまえの番、だとして。他のαに入れ込まないとは限らないよ」
    「はぁ。つまり?」
    「おまえの前でオズに抱かれてやるって言ってる」
    「なんでそうなるんです」

     不愉快そうにミスラがオーエンの身体を引き剥がした。かかった、とオーエンは顔を歪めて笑う。

    「おまえが連れてこうとするからだろ? ヒートのΩをさ。確かにフェロモンは番にしか効かないかもしれないけど、セックスの相手はそうじゃない。より強いαに抱かれたいと思うのは当然のことだよ」

     Ωの生態などαであったオーエンの知るところではない。デマカセでもミスラには効果的だった。同じくΩに対して無知で、オズに劣ると挑発されたミスラがどう動くかなど、手に取るように分かる。

    「あなたは俺の番でしょう」

     自分のものを他人に盗られることを決して許さない。北の魔法使いらしい思考。

    「アルシム」

     見慣れた扉が隣に現れる。ミスラが開いたそれは、彼の部屋へと通じていた。
     あの部屋に入ればどうなるか分かっている。けれどこれが一番マシな選択のはずだった。

    「早くして、ミスラ」

     背伸びしてミスラの唇に噛み付く。計算半分、本音半分だった。
     足を拘束していた蔦が解ける。ミスラはオーエンの腕を引っ張って自室へと連れ込んだ。
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