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    misaka_mh

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    misaka_mh

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    イベ衣装で暗殺会社パロというフォロワーの発案に便乗した話。かイン視点です

    闇夜の烏 北の城を中心に、街は三つの区画に分かれている。貴族街、平民街、そしてスラム街。身分によって住居は振り分けられ、その境界を超えられるものはほんの一握りと言われている。
     平民街とスラム街の境目、闇の濃い路地裏にカインはいた。傍らには同僚の少年の姿がある。身に纏うのは同じ仕事着だ。動きやすさを重視して作られたというそれには隠しポケットがいくつもあって、小型ナイフや爆薬、傷薬などを仕込んである。
    「おまえみたいな子供もう前線に出るんだな」
    「何?」
     少年は気分を害したように眉を上げた。闇の中、少年の赤い目がやけに目立って見えた。それは血の色に似ていた。
    「俺は十七だ。子供じゃない」
    「そ、そうだったのか。すまない」
     分かればいい、と少年は満足げに鼻を鳴らした。そういう仕草や見た目は実年齢より幼く見えるがカインは言葉を飲み込んだ。
    「おまえこそ、汚れ仕事を好むようには見えないけどな」
    「ああ、俺は……目玉を返してもらうために働いているんだ」
    「はあ?」
     少年は先程より大げさなリアクションをした。そういう反応にもなるだろうと頬をかいていると、借り物の左目が勝手にぎょろりと動いた。
    「惚けてるわけじゃないんだ……実際、俺の左目は借り物なんだ。それを返すためにも金が必要で、雇ってもらった」
     意図せずして少年の気分を害してしまった謝罪も込めて、カインは誠実に事実のみを口にした。少年は信じたのかどうなのか腕を組んで「ふぅん」と目玉を覗き込むようにじろじろ見てきた。
    「なんか、格好いいな。目玉を借りると強くなるのか? そうなら俺もやってみたい」
    「お勧めはしないな。他人の目玉がはめ込まれているって、思ったより気持ち悪い。俺だって必要がなければやらなかった」
    「必要ってどんな――」
     少年が言葉を切って振り返る。その手には支給品のナイフが握られていた。それは、カインも同様だった。
     僅かに放たれた殺気。それが二人の反応したものだった。
     闇の中からぬっと長身の男が現れる。顔の目立つ位置に傷を刻んだその男は、カインと少年を見てつまらなさそうに息を吐いた。
    「ぴぃぴぃ騒ぐな。遠足じゃねぇんだぞ」
     その男もまた、二人と同じ服を着ていた。つまり彼が今回の作戦における上役なのだろう。
     教えられたことは二つ。今回の作戦は三人で行うこと。そしてこの集合場所だ。
    「名前は?」
    「シノ」
    「カインだ」
     男は頷き、口角を上げた。
    「今回の作戦の指揮を執る、ブラッドリーだ。いいかお前ら、返事は『イエス、ボス』だけだ」
    「イエス、ボス」
     求められた言葉を紡ぎながら、横暴な男だなとカインはボスを評価する。勝ち気な少年――シノが大人しくブラッドリーの言葉に従ったのは、彼もまたカインと同じように彼我の実力差を理解してのことだろう。ブラッドリーは年齢こそはカインと然程変わらないように見えるが、比べ物にならないほどの修羅場を潜ってきたように見える。顔の傷もその証左だろう。
    「今回の目標はゲオルグ・ローズウッド。貴族だ」
     つらつらとブラッドリーは人殺しの仕事の作戦を説明した。
     カインは腰に差した剣に触れる。支給品の暗器とは別に持ち込んだ、自前の剣だ。これを捧げたのは唯一人だから、作戦に使うつもりはなかった。それでも身体から離したくなかった。
    「行くぞ」
    「イエス、ボス」
     ブラッドリーの掛け声に応じて、ナイフを手に取った。

     作戦は滞りなく進み、目標の暗殺に成功した。作戦後は各々指定されたルートで、『会社』へと戻った。表向きは貿易会社である本部は、地下に入ると本来の姿を表す。それは暗殺などの闇の仕事を生業とした『会社』だ。
    「おかえり。諜報部から作戦成功の報せを受けたよ。お疲れ様」
     カインたちを出迎えたのは事務員のフィガロだった。人の良さそうな笑みを浮かべた彼はシノが戦果を誇るのをうんうんと頷いて聞いている。その様子に鼻を鳴らしてブラッドリーが顔を背けた。
    「シノ、カイン、ブラッドリー。おかえり」
     どこからともなく現れた双子の少年がにこやかに声を揃えて出迎えの言葉を告げた。彼らはシノよりも幼く見えるし、実際年歴も見た目相応のようだが、この『会社』の『社員』だ。本人たちは自分のことを『マスコットキャラクター』と称していたが、何かの隠語なのかもしれない。二人とも人懐っこく、いつも楽しく出迎えてくれる。
     笑顔でハイタッチに応じるシノとカインに対して、やはりブラッドリーは一歩離れた場所で顔を背けていた。よくよく見てみると、そこには渋面が浮かんでいる。
    「ブラッドリーちゃんも!」
    「ハイ、ターッチ!」
     物怖じせず双子はブラッドリーに駆け寄っていくとハイタッチをねだった。
    「寄るな、気色悪い!」
    「えーっ」
     子供相手というのに、ブラッドリーは彼らをすげなくあしらう。先の作戦での冷静かつ大胆なボスとはかけ離れた姿に、カインは一人首を傾げた。
    「邪魔です」
    「おや、ミスラ。おかえり」
    「おかえり。オーエンも一緒じゃな?」
     階段を降りてきたのはミスラと呼ばれた赤髪の男と、オーエンと呼ばれた銀髪の女だった。はて、とカインは首を傾げる。ミスラに寄り添うたおやかな仕草の女は確かに女のようだが、カインの記憶ではオーエンは男だったはずだ。じっと見ていると色違いの目がこちらを見た。
    「オーエン、おまえ、女だったのか」
     半ば呆然とつぶやくと、場が湧いた。不機嫌な様子を崩さなかったブラッドリーなど、腹を抱えて笑っている。笑う人々の中、困惑したのはカインだけでなくシノも同じだったが、唯一オーエンだけが怒気を滲ませ、頭に手を当てたかと思うとウィッグを外しこちらに投げつけてきた。慌てて避けると、銀色のウィッグはフィガロの手の中に収まり、続けて投げつけられた胸の詰め物らしきものは床に散らばった。
    「チッ。だから嫌だって言ったのに」
    「あはは。似合ってましたよ」
    「……へぇ、よっぽど死にたいみたいだね」
    「あなたに俺が殺せるとでも?」
     突如一触触発となったミスラとオーエンにカインが顔を引きつらせていると、フィガロに安全地帯へと導かれた。
    「貴族のパーティに潜入することになってね。カードゲームで負けたオーエンが女役をすることになったんだ」
     フィガロに説明され、なるほどと頷く。再びオーエンの方を見れば、かつてカインの眼窩にハマっていた目玉がぎょろりとこちらを見た。
     かつて、カインは王家に忠誠を誓った騎士だった。しかし不幸に不幸が重なり、国を追われた。執拗な追撃を振り切ってこの国に辿り着いた頃には虫の息だったが、そんな時、この『会社』の人々に拾われた。
    『これは?』
    『うちのやつの情報によれば、某国の騎士様だよ。今は国を追われている』
    『それは不運よのう』
    『かわいそうにのう』
     何人もの男に取り囲まれて、品定めするように見下されていた。彼らの顔は覚えていない。血を流しすぎて、意識を保っているのに精一杯だった。
    『あそこの軍に追われてよくここまで逃げてきたもんだ。見どころはあるんじゃねぇか?』
    『もうすぐ死にそうですけどね』
    『まだ……死ねない……』
     この身は王家に捧げたものだ。主君のためならともかく冤罪の果てに死ぬなど、あってはならない。
    『どうして、死にたくないの?』
    『主君のために……』
    『ハッ。国に追われてるっていうのに忠義心の厚いもんだな』
    『あの国の騎士はそういうものだよ』
     このまま死ぬのだと思った。どうあがいても致命傷を負った事実は変わらない。知らぬ国で、知らぬ人々に無様な死に様を見られるのだ。悔しくて唇を噛んだ。
    『生きたいか?』
     誰かが言った。
    『生かしてやろうか?』
     誰かが問うた。
    『生き……たい……』
     答えはひとつしかなかった。
    『いいよ』
     誰かが笑った。
    『僕がやる』
     誰かが近付いてきて、カインの前に膝をついた。冷たい指が顔に触れる。それは左の目の上で動きを止めた。
    『僕の目玉を貸してあげる。そうすればおまえはまだ生きられる。これからどんな風に生きていくのか、僕に見せて。騎士様』
     誰か――オーエンはカインの目玉に爪を立てた。
    『《クアーレ・モリト》』
     そうして、カインはオーエンの目玉を借りて一命を取り留めた。どういう理屈かはわからないが、心臓は動いているし血も通っている。オーエンが言うには目玉を取り外すと適切な処置をしないと死ぬらしく、その処置を受けるにも莫大な金がかかるらしい。そのためにカインは『会社』に入ることを選んだ。命を助けてもらった恩もある。いずれ、目玉を取り返し国に戻り身の潔白が証明できなくても、後生は王家のために使うと決めている。
    「じゃあ、俺はこれで」
    「うん。お疲れ様」
     シノに挨拶し、フィガロに見送られ、カインは『会社』を後にした。
     『会社』に与えられた家は平民街のスラム街よりの場所にある。治安があまりよくないこともあり、夜になると人の姿は少ない。そんな中、カインはふと足を止めた。眼の前に、黒い長髪の男が立っていたのだ。月を背に負う男の両目はシノのそれよりも血の色に似ていた。
    「――おまえは『会社』のものか」
     咄嗟に手が剣の柄に伸びた。暗器などでは太刀打ちできない。それこそ今日『会社』にいた誰をも凌駕する力を、目の前の存在は秘めている。
    「その剣は……」
     男の視線が剣に向けられる。
     下手に動けば殺される。それが分かっていても、剣を問われたなら答えないわけにはいかなかった。
     カインは剣を抜き放ち、目の前で立てた。それは騎士が主君に忠誠を誓う構えだった。
    「この剣はアーサー・グランヴェルに捧げたものだ」
     脳裏に主君の姿がよぎる。それと同時に、このような場所にいる己を恥じた。
     男はじっと剣を見つめていたが、やがて小さく息を吐き出した。
    「……そうか」
     小さくこぼしたかと思えば身を翻し、あっという間にその姿は闇に溶けるように消えてしまった。
     脅威が去ったことを知ると、途端に身体から力が抜けた。ふらつく身体を剣を支えに保ち、男が消えた闇をにらみつけた。
    「なんだったんだ、あいつ……」




    「オズ」
     カインの問いに、応える声があった。それは部下からの報告を受け、人知れず現場に駆けつけた男のものだった。
     男はカインにもオズにも気付かれぬよう、二人の邂逅を見届け、帰路に着く。
    「オズが興味を持ちカインが仕えるアーサー・グランヴェル、か……調べてみるかな。場合によってはオズに対する切り札になるかもしれない」
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