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    首謀者T

    @renshunmi

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    首謀者T

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    ヤクザです。cpはないはずだけど匂いしかない

    空桑ヤクザ騒動暗く冷たい床に、私は転がされている。
    暗い、というのは目を布か何かで塞がれているからで、体は縛られて身動きが取れない。それどころか動けば動くほど締め付けられている気がする。
    「ん!んんっ!」
    直前まで私は、食魂たちと一緒に漫画を読んでたっけ。えーとそれから……

    すると突然ぱあっと光が入る。私は眩しさのあまり目を細めてそれから数度、瞬きをした。
    「姉ちゃん、気がついたか」
    大きめなサングラスに柄物のシャツを着た男がニヤリとこちらを見下ろす。
    周りを見渡せば、似たような服装の男たちが私を囲んでいる。
    私は口を塞がれてるため、喋ることも許されず、ただただ呻くことしか出来なかった。
    「まあまあ落ち着いて。ほんの少しお話をするだけですよお嬢さん。この方の服に料理を零してしまったことについて、いくつか話し合わなければなりませんからね」
    中にいた優男風の男が介助している若い男を見ながら言う。
    その男は容姿端麗、誰もが羨むような黒髪を持ち、どこか風情のある美男子と言ったところだろう。残念なのはその服装が柄物シャツにスーツのジャケット、そして車椅子という点だ。
    私は冷静に分析した。
    「そんなに睨まないでください。時間はたくさんありますから、ゆっくり、楽しみましょう」
    そう言ってどこからか取りだしたペンチを握り、カチリ、カチリと鳴らす。瞬時に私はこれから拷問にかけられるのだと察した。まぁまぁ痛みには耐えられる方だけれど、こういうシチュエーションの怪我はしたことがないから未知数だ。
    私はこれから起こることに耐える為に様々な策を考えを巡らせる。
    すると……

    パリーン!
    部屋の窓が割れて、砕けたガラスが男たちに降り注ぐ。そしてワンテンポ遅れて茶髪の利発そうな少年が、まるで唐辛子のような真っ赤なマントを背負って入ってきた。
    開口一番にこういう
    「じゃじゃーん!パンダマン参上!彼女を返せっ!!」
    「…………」
    私はもちろん、私を囲んでた男たちも皆無言で彼を見つめた。
    その表情は一様にこう語っている。えーと、どういうこと?

    「あれ、なんかタイミング間違えたか?」
    少年の間の抜けた声で1人、またひとりと肩が震えていく。


    「せ、川くん、なんで、ヤクザもので、パンダマンなんや、そこは対抗組織の若頭とか、やりようはあるやろ」
    そういったのは私が目覚めた時に最初に声をかけた男……もういいや、麻婆豆腐だ。彼はどこから引っ張り出したのか、私の父のアロハシャツを羽織り、人間界で買ったというサングラスをかけている。さっき颯爽と現れたパンダマン……四川火鍋にそうつっこんだあと、プッと吹き出して「あかん、無理」そう言って執務室の床に突っ伏してそのまま笑った。
    「そんなこと言ったって、正義のヒーローってパンダマンしかいないだろ……」
    「そうだとしても、自分で『パリーン』という効果音を付けて入ってくるのは少々驚きますよ」
    ノリノリで私を虐めようとしていた郭執事も続ける。
    「そ、そうか……?やっぱ大事だろ、効果音ってさ」
    火鍋も困惑気味だ。
    「……で、俺は何のためにこんなことをさせられてるんだ?」
    その郭執事の前で、屠蘇は愛用の木の車椅子に鎮座していた。その細く筋張った指は、つまらなそうに椅子の肘掛けをトントンを叩いている。
    「それは若が、『ヤクザごっこがしたい!』と言い出したからです。たまの若のわがままですから、叶えてやりたいと」
    郭執事は朗々と語るが、それでいきなり目隠しと猿轡はけっこうびっくりしたけれど。その通りだ。
    「んーんー!」
    「おや若さま、まだ猿轡を外さないのですか。」
    見事な腕前だよ、郭執事。あなたならホンモノのヤクザとしてもやってけるんじゃないかな。外してくれと目で訴えると、火鍋が「悪かったな若さま、痛かっただろ?」とあの悪魔のようなスパルタ執事とは逆の態度で丁寧に外してくれた。
    「はあ、やっと外れた」
    私は大きく伸びをして、ガムテープが貼られた頬を撫でる。少しひりつくから、あとで入念に手入れしなくちゃ。
    ひとしきり笑いが収まった頃、麻婆豆腐が私に聞いてきた
    「で、若。こんなもんでええかや?」
    こんなもんとはあの茶番だ。皆これだけの為に変な格好までして悪い顔をしてくれた。……のだが
    「あなたたちいつもそうだけど人の話は最後まで聞いて欲しいよ。話終える前にこんな、気絶させちゃうんだから」
    そう言うと、私はニヤリと笑いながら集まった食魂たちに私の案を伝えた。


    数分後
    鵠羹はバタバタと空桑の廊下を走っていた。こんなに走るのは滅多なことではない。後ろからは他の仕事に就いていた食魂たちもいる。
    『空桑執務室』
    若が普段詰めていて、鵠羹が彼女の世話をする部屋だ。そこからはなんの声も紙をめくる音も聞こえない
    「若!若が縛られて部屋に監禁されてると桂くんから聞きつけて鵠羹は参りました!」
    若……?そう言ってそっと執務室の扉を開ける。
    と、大勢の男……いや派手な出で立ちをした食魂に囲まれた若が、これまたロングスカートに竹刀を片手にこちらにガンを飛ばしていた。これは麻婆豆腐直伝の舐められない目つきだ。そして呆然とする鵠羹を見て一言

    「何見てんだコラ」

    これを見た鵠羹はかわいそうにひっくり返って気絶してしまった。
    そしてそんなつもりはなかった若は首謀者として捕まり、周りにいた食魂と一緒に警備部で懇々と説教をされたのでした。
    そんな事件があったあと、その中にいたエビチリは思った。
    (若がしたかったのって、ヤクザじゃなくてヤンキーじゃないかな)
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