テニスの不死身様(仮) テニス部所属のヒュンケルくんは、男子ダブルスのときは同級生のラーハルトくんと組み、男女混合ダブルスのときは、後輩のエイミちゃんとペアを組みます。
ラーハルトくんとエイミちゃんは、とてもすぐれた選手ですが、何故かとっても仲が悪く、よく「自分の方がヒュンケルのペアにふさわしい」と喧嘩をしております。
しかしヒュンケルくんは、そんな二人を見て「とっても仲が良いんだな」と思っておりました。
◇◇◇
今日は男女混合ダブルスの試合の当日です。
ヒュンケルくんはいつも通り早めに家を出て会場へ向かいます。
横断歩道で立ち止まり、信号が青になるのを待っていると、一匹の猫がヒュンケルくんの横を通り、道路へ飛び出して行きました。
次の瞬間、右手から一台のトラックが猛スピードでやってきました!
びっくりした猫はその場で立ち止まってしまいました。
「危ない!」
思わず飛び出したヒュンケルくん。猫を抱き抱えると、そのままトラックに轢かれてしまいました。
◇◇◇
ここは試合会場。
選手の受付終了時間が迫っていますが、ヒュンケルくんが現れません。
一緒に試合に出る予定のエイミちゃんは勿論、応援に来ているラーハルトくんもとても心配しています。
顧問のアバン先生が自宅に電話をしようとしたちょうどその時…
「すまない」
上半身の服を失いHPが1になったヒュンケルくんが、猫を抱えて現れました。
「ヒュンケル!?」
「大丈夫なのか!?」
「一体何があったんですか!?」
その場が騒然となりました。
「アバン先生、遅れてしまってすみません。この猫をお願いします」
「エイミすまない。オレはもう戦えない」
「でしょうね!そんなことは気にしなくていいから、すぐに手当を…!」
「エイミそれよりも聞いて欲しいことがある。ラーハルトもだ」
「こんな時に一体なんだ?」
「ラーハルト、オレの代わりにエイミとペアを組んで試合に出てはもらえぬか?」
「は!?」
二人はびっくり仰天!
スポーツのペアとは、いきなり組んでうまく立ち回れるものではありません。
しかもラーハルトくんとエイミちゃんは、とても仲が悪いことで有名です。
「なんでオレがコイツと組まないとならないんだ!」
「なんで私がコイツと組まないとならないのよ!」
「頼む…お前たちにしか頼めないことだ…」
瞳を潤ませ、ヒュンケルくんは懇願します。
ヒュンケルくんには弱い二人は、「分かった!」「任せておいて!」とサムズアップで承諾すると、ヒュンケルくんは笑顔でサムズアップで答え、救護室に運ばれてゆきました。
◇◇◇
試合が始まるとすぐに、このペアは失敗だったと誰もが思いました。
無理もありません。今日初めて組む上に、お互いのことが大嫌いな二人です。
どちらも相手が自分の思い通りに動かないので、とてもイライラしっぱなしです。
「今すぐ棄権して帰りたい」
そんなことを思い始めた矢先のこと…
「ラーハルトォォォ!エイミィィィ!がんばれェェェ!!!」
聞き覚えのある声が二人の耳に届きました。
観客席を見ると、手当を受けたヒュンケルくんが、マネージャーに支えられて熱心に応援しておりました。
「そうだ!この試合は本来ヒュンケルが出るはずだったものだ!負けるわけには行かない!」
ラーハルトくんもエイミちゃんも口には出しませんでしたが、同じことを考えました。
そして深呼吸をして、お互いの動きを振り返りました。
「コイツは普段ヒュンケルと組んでいる…それでいて、この性格…ということは…次はこう動くはず…!」
お互い二人の動きを予測しあうと、絶妙なコンビネーションを発揮し、ついには逆転したのでした!
◇◇◇
ラーハルトくんとエイミちゃんのペアは、その後も全ての試合に勝ち進み、なんと優勝したのでした!
ヒュンケルくんはとても感動して、二人にこう言いました。
「君たちすごいな。いきなり組んだのに、こんなに強いなんて…。オレとではなく、君たち二人で組んだら良いんじゃないか?」
それを聞いた二人は、ぴったり揃った息でこう言いました。
「冗談じゃない!!!!」
おしまい