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    やまもと(旧)

    @re4ecoh

    @re4ecoh👹滅の⚔️の🪨木主📿さん単推し雑食性昭和生まれオタクです。ちょっと前まで基本ROM専だったので出力にあたり修練していきたい…Twitterは雑多ジャンルのオタク趣味垢です

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    やまもと(旧)

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    📿さんオンリーで展示した小説です。
    名無しオリキャラ視点で📿さん釈放時のお話です。
    あの夜の件で、📿さんが一番不信になったのは自分自身と自分の感覚なのでは?という解釈に基づいています。
    モブ同士の会話と独自解釈と妄想で出来ています、ご注意下さい。『📿に何が起こったか』と繋がっています。

    ##なむねこ2
    ##鬼

    或る道行独り。
    暗い牢に座している男がいる。
    額と、膝に置かれた両の拳にぞんざいに巻かれた包帯に、少なくない血が滲んでいる。
    言葉もなく、動きもせず、ただ目を開いて格子の外を見ている…。
    その目は像を結ばないと言っていたのは、先刻も話した上司だったか。

    盲目の身で、9人もの子どもたちを世話し、共に暮らしていたという。

    ────そのうち7人を一夜のうちに惨殺したという、人の形をした化物が、座して涙を流し続けている。

    拭いもせず、瞬きもせず、頬を流れ落ちるままに泣いている、異様。
    ここに入って一昼夜、尋ねられた事に応える以外、木偶のように同じ様子でいる囚人に声を掛ける。

    「悲鳴嶼行冥」

    反応しない。
    だが此方の仕事に応えは関係ない。

    「出ろ」

    通常の手続きでなく、この科人は何処へ行くのか。
    訝しさを感じようが、下りてきた指示に従うのが仕事だ。

    例え化物だろうと、この様では最早害をなすまいが───

    ガチャン

    鍵の外れる音に、涙を流し続けていた白い目が、こちらを向く。
    ぬらりと光る、その不気味さにぞっとしながら、繰り返す。

    「出ろ」

    化物──異様の男が、そろり、と包帯の巻かれた手のひらを床に這わせ、格子に辿り着いた歪んだ指でそれを掴んだ。
    ゆら、とふらつきながら立ち上がる。
    格子を伝いながら、摺足で、一歩ずつ歩を進める。
    漸く辿り着いた戸口の大きさを手で探り、身体をゆっくり折り曲げる。

    ごす

    額の包帯が吸った鈍い音を聞きながら、別種の訝しさが重なる。

    ───今更、尋常の盲人の振りか?

    ───この有様で、本当に────

    「…わたしは…何処へ…」

    戸口を潜った姿勢のまま、ガサガサに掠れた声が落とされた。
    悲嘆も哀願もなく、ただ乾いた声だった。
    答えるつもりはない。
    己は答えを知らない。
    返答を待つでもなく、異様の男がその背をゆっくりと伸ばした。

    見上げる様な背丈の、幽鬼の如き姿が眼前に立ち、いつの間にか乾いた白い目で此方を見下ろしている。

    背筋に震えが走る。
    それを無視して、口早に告げる。

    「縄は掛けるなと言われている。着いて来い。」

    ───ただしく、正気の沙汰ではない。

    時間も手続きも、何もかもがおかしな『御沙汰』だった。
    こんな妙なことは、早く終わらせるに限る。

    「…申し訳、ありませんが…」

    踵を返しかけた所に乾いた声が降る。

    「──貴方を追うのは…難しい…縄を」

    掛けて、引いて下さらないか。

    御沙汰を破れと頼んできた。
    御免被る。

    「…我々と変わらずに動けるのだろう」

    だからこんな所に居るのだろう。
    でなくば、凶行をなせるはずもない。

    構わずに歩き出す。
    幽鬼の気配が離れていくのに安堵を感じ、しかし。

    ずる、ずり

    堅い壁を擦る音に、振り向く。
    房の前から数歩進んだのみの位置に、身体を壁に預けながらそろそろと進む幽鬼の姿。
    苛立ちが寒気を上回る。

    ────あのザマでは、夜が明けてしまう。

    大股で歩み寄って、矢鱈に細い手首を捉えようとして。
    ───思いとどまって、警棒を突き出した。

    「これを掴め」

    再び眼前に立つ幽鬼は、壁に右半身を凭せ掛けながら此方を見下ろしている。
    鈍い反応に舌を打ち、繰り返す。

    「掴め」

    「…手に、当てて下さらないか」

    見当違いの空間に差し出された、手首に似合わぬ大きさの掌に警棒を雑に押し当てる。
    警棒の半分程を覆った指の長さに、苛立ちに追い遣られた怖気が帰ってきた。

    ぐい、と引きながら、再び歩き出す。
    重い。
    揺れながら着いてきた、背の高い影がたたらを踏んだのを、堪えた。
    重い。
    転ばれては面倒なことになる。
    歩調を緩める。

    こんなザマの罪人など、何処に召し出したところで、なんの贖いにもなるまいに。

    自分で養った子どもを、数多殺した殺人鬼であるという。
    おそろしい、人の形をした化物であると。

    だが今は、ただ背丈がばかに高いだけの、白い目の盲人でしかなく。

    ────あわれな、異形のひと。

    脳裏に浮かんだ対称の呼び名を、頭を振って追い出す。
    仕事には関係ない。

    決して長くはない距離を、時間を掛けてふたり、黙然と、連なって歩く。

    ───幽鬼に警棒を掴ませて引き連れ、獄舎の裏口から放り出さねばならない。

    滑稽な怪談だ。
    これまで何人もの収監者を、手続き通り放ち、刑場に送り出してきた。
    その身の疑いが晴らされ明るいばかりの顔も、悪びれずほくそ笑む、近々ここで再会するであろう顔も、待ち受ける娑婆の洗礼に不安がる顔も、近付く死に震え恐怖する顔も、気が触れた狂気の顔も、様々見てきた。

    安寧の隔絶から、人の世の地獄へ続く様々な道行を見てきた。

    今更何に怯える事がある。

    これを世に放とうとしているのは、或いは死を与えようとしているのは、己ではない。
    何処のどいつか知らないが、罪科、或いは善行の責任はこれを意図した者が負うべきだ。

    ────この虚ろな絶望を宿した男の未来を、余さず負うべきだ。



    漸く辿り着いた裏口で待っていた上司が、備え付けられた簡素な机の上に書類を据えて、万年筆を差し出している。
    中身を見れば職務上の命取りになりそうなそれに、記名欄以外を見ないよう意識を集中する。
    仕舞おうとした警棒が、重い。

    「…離せ」

    ───するり

    長い指が滑る音を残して、繋がりが解かれた。

    絶望の重みから解放された心地がして、思わず息をつく。
    己にこの仕事を任じた張本人であるところの上司が、同情の念を浮かべながら視線を寄越すのを気づかぬふりで、受け取った万年筆で担当として名を記す。

    上司の思いの外優しげな声が背後に向かうのが聞こえる。
    「悲鳴嶼、字は」

    書けるか、と発せられる前に乾いた声が返る。
    「…今は…書けません」

    ───今は…?

    「…確かに、その手ではな」
    上司も同じ疑問を脳裏に浮かべて、敢えて当たり障りない答えを出した様だった。
    「拇印を此処に…おい、手伝ってやれ」

    御沙汰が下ったなら仕方がない。
    万年筆を上司に返却する。
    ただの罪人ではなく、尋常の盲人でもない筈の男の手首を掴む。
    身の丈に合わず、見たままに細い。

    どくり

    どくどくと、青白く薄い皮膚の下に激しい脈が打っている事に心臓が跳ねた。
    燃えるように熱い。
    思わず息を呑んで、顔を見上げる。

    ────悲鳴嶼はやはり虚ろで乾いた幽鬼の顔をしている。

    訝しんだ上司の声がする。
    「どうした…早くせんか。迎えが来ている。」

    迎え、何処の、誰の。
    もう何度目かになる疑問をそのままに、七人もの幼い命を奪ったとされる、大きくも薄い掌を取る。

    ここも、熱い。

    胸が塞がるような心地を飲み下す。
    拳全体を覆う血に塗れた包帯を押しずらして、歪んだ親指の腹に朱を押し付け、署名欄を埋める。

    されるがままになっていた悲鳴嶼の手を解放する。
    だらりと、重さのままに長身の脇に垂れ下がった長い腕を目で追う。
    包帯が緩んで指の歪みと、拳の傷が顕になっている。
    悲鳴嶼の顔には、何も浮かんでいない。



    ────己の仕事はこれで、終わり。

    上司への引き渡しは済んだ。
    後は上司のおまけとして、迎えとやらが悲鳴嶼を連れて去るのを見送るだけだ。
    先程触れた異様な熱を制服で拭う。

    終わりだ。


    上司が厚い扉を軋ませながら開くと、夏の夜特有の湿った外気が流れ込む。
    開いた裏口の向こうに、二つの丸い明かりが並んでいる。

    ────自動車?

    驚きに上司を見ると、頭を振られた。
    これも、見なかったことにしなければならないらしい。

    迎え、何処の、誰の。
    意味のない疑問に意味のない答えが一つ。
    悲鳴嶼を獄舎から召し出すのは、相当のお大尽だ。

    ────荒涼の刑場に、独り牽かれていくのではない。

    「…達者でやれ」
    上司の言葉の裏付けを得て、安堵する。

    ────悲鳴嶼は吊るされない。少なくとも今夜は。

    己の胸の内に浮かぶ安堵の正体もわからぬまま、悲鳴嶼を見上げる。
    変わらぬ虚ろな顔があらぬところを向いている。

    「おい、なあ」

    幽鬼に感じていたのとは別の怖気が、震え声を喉から押し出した。
    はた、と気付いて上司を見ると、目を丸くして此方を見ている。
    ────やらかした。

    「…外まで連れてやって、よいでしょうか…」

    冷や汗をかきながら、続ければ、微妙な顔で頷かれた。
    「…今は、不自由なようだから、致し方あるまいよ」



    ────今は。

    かつては、一昨日までは、この丈の高い、若い男には仮初ながらも、家があって。
    家族があって。
    そこいらの目の見える大人どもより、立派にやっていたという。

    何があったのか、子どもが7人も死んで、1人は行方が知れず、生き残った1人に化物と呼ばれて────このでくの坊の如き、空っぽの顔をした盲人が出来上がった。

    空っぽの顔の、青白い皮膚の下。
    激しく脈打つ血と熱に、尋常ではない痛みが襲っている筈なのに。

    ────それすら感知し得ない闇の中に、この男は居るのだ。

    迎えの先に待つ何者かが、このあわれな、異形のひとの虚ろを、少しはマシにしてくれることを祈る。
    ────何故己が祈りたいのか、わからないまま。
    どうせ意味もないのだから、構うまい。

    胸中で独り言ちながら、再び手を取る───できるだけ、そうっと。

    悲鳴嶼が顔を俯向け、繋がれた手を見つめるような仕草をした。
    やはり虚ろな顔がそこにある。

    「迎えの所まで、手を引いてやる。───行くぞ」

    ひくり

    己の手のひら下で、悲鳴嶼が震えたようだった。


    おぼつかない摺足の歩みを背後に感じながら、血塗れの細い手を引いて歩く。
    ほんの数十歩の距離を、祈りながら歩く。
    手のひらに悲鳴嶼の傷の熱が移って、汗をかく。

    残り数歩というところで、自動車の脇に立つ人物の姿が光の中から現れると、また驚くことになった。
    詰襟の制服に、白地に炎をあしらった派手な羽織を羽織った、金獅子の如き男が険しい顔で立っている。

    ────こんなのを見なかったことにするのは、無理だろ。

    立ち止まり、開いてしまっていた口を閉じながら、悲鳴嶼の手を握る力を緩めた。
    動揺に乱れそうな息を整えてから、声を出す。

    「彼が、悲鳴嶼行冥です」

    盲人ゆえ、手を引いて来ました。確かにお引渡し致します。

    一息に言い終えて、繋いだままの手を男に差し出す。
    二つの手を見つめ、次いで悲鳴嶼の虚ろな顔を見、最後に此方の目を見つめながら金獅子が声を発した。

    「痛み入ります。確かに、彼の身柄は引き受けました。」

    闇を煌々と照らす篝火を思わせる、太く明朗な声だった。
    悲鳴嶼の手のひらを獅子の男に手渡す。
    熱だけを残して、悲鳴嶼の手が離れていく。

    「…では、これで失礼致します。」

    残った熱を握り込む様に、指を畳んで身体の脇に添える。
    そんなことをしても、意味はない。
    燃えるようだった体温は失せて、ただ暑気だけを感じながら悲鳴嶼を見る。
    またあらぬところを向いている顔は、やはり虚ろで。

    「悲鳴嶼…」

    感じる空しさに、意味はない。

    「達者で」

    ───これで、本当に仕事は終わりだ。

    房の前での心持ちと真逆の色をした感慨が浮かび、己に呆れる。
    せめてと祈りを込めて、言葉を掛けてから、背を向ける。



    「…世話に、なりました…」

    掠れ乾いた小さな声が追ってきて、慌てて振り向く。
    夜の闇の中に照らされた虚ろな顔が、己を見ていた。
    その白い目の中には何も浮かばず。
    だが確かに此方を向いていた。

    「う、む…」

    正体不明の感情に声が震え、不格好に返す。
    やはり灯りの中に居る、迎えの金獅子が怪訝な顔をしたあと、ほんの少し表情を緩めたのが見えた。
    今のやり取りに、なんと思われたのか。
    考えても意味はない。

    男はその見事な金糸を会釈で揺らしたあと、悲鳴嶼の背に手を添えて、身体を折り畳むようにして自動車に乗り込ませる。
    そしてもう一度、此方にきちりと頭を下げると、颯爽と羽織を翻した。

    ─────そして、悲鳴嶼と金獅子を乗せた自動車は、音を立てて走り去っていった。

    遠ざかる騒音に向かって一礼し、此方も背を向ける。
    と、裏口に上司が腕組をして立っている。
    小走りに駆け戻りながら考える。
    やばい。

    「無事引き渡しを完了しました」

    殊更に背筋を伸ばして報告する。
    この奇妙すぎる夜を無事に終えるには上司の温情が要る、気がする。

    始末書で済めばまだ、マシかもしれない…。

    「…ご苦労」

    やたらと間を空けてそう返してきた上司は、溜息をついた。

    「…安心しろ、あの男は殺人鬼ではない」

    「はい」

    内容ではなく、それが己に告げられたことに驚いて、返事が口からまろび出た。
    次いで思わず手で口を塞ぐ。

    上司が此方を胡乱げに見ている。

    「…房から此処までの間に、そう思ったと…?」

    この短い道行で、疑いの掛かった収監者に絆されただと?

    ───弁明しなければやばい。

    「絆されたのではありません、直感であります!」

    声を張りすぎた。
    が、上司は咎めなかった。

    「そうか」

    そうか…。

    重ねてやり切れない声で受け容れられ、安堵と同時に訝しさが顔に出たらしい。
    上司が何かの説明を始めた。

    「あの男の疑いは晴れた、が、公にはされない」

    下手人不明のまま、精神を病んで、何処かに移された、ということになるだろう。

    「…では、娑婆には」

    「戻れるとはとても言えんな」

    あのナリだ、知るものが見れば直ぐに判るだろうから…遠くに行くのではないか。

    言いながら、痛ましげに外を見遣る上司に、何を知っているのかを尋ねるべきか、否か。

    この夜に過ぎっていった、正体不明で意味を成さない様々な感情とともに思い出す。
    格子の外を見つめ続け、涙を流し続けていた白く濡れた眼。
    ゆらゆらと歩む丈の高い幽鬼の如き影。
    余りに目立つ金獅子の羽織姿。

    此方を見ていた悲鳴嶼の、乾いた白い瞳と掠れた声、虚ろな顔。

    そして、手のひらに感じた燃えるような熱を、思い起こして。

    ───どれもこれも、忘れるのは無理だろうよ。


    ───この数刻後、上司の万年筆に刻まれた藤の紋の意味を教えられ。
    かの異形のひとや、その同志たちの無事を祈り続ける羽目になるなど、露ほども知ることなく。

    腹を括ったつもりの愚かな己は、口を開いたのだった。



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