或る道行独り。
暗い牢に座している男がいる。
額と、膝に置かれた両の拳にぞんざいに巻かれた包帯に、少なくない血が滲んでいる。
言葉もなく、動きもせず、ただ目を開いて格子の外を見ている…。
その目は像を結ばないと言っていたのは、先刻も話した上司だったか。
盲目の身で、9人もの子どもたちを世話し、共に暮らしていたという。
────そのうち7人を一夜のうちに惨殺したという、人の形をした化物が、座して涙を流し続けている。
拭いもせず、瞬きもせず、頬を流れ落ちるままに泣いている、異様。
ここに入って一昼夜、尋ねられた事に応える以外、木偶のように同じ様子でいる囚人に声を掛ける。
「悲鳴嶼行冥」
反応しない。
だが此方の仕事に応えは関係ない。
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