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    702_ay

    DC(赤安)、呪術(五夏)の二次創作同人サークル『702』のアカウントです。
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    702_ay

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    <2/3 帳の中の誕生日会2023>
    【祓ったれ本舗パロ】バレンタインデーの話です
        \Happy Valentai……?/

    3/19 俺達最強5(春コミ)発行予定の祓ったれ本舗パロ本の総編集に収録予定です。
    校正中のため発行時には加筆修正が入る可能性がございます。
    同設定で書いた祓本の小話を集め、7割の書き下ろし追加で一冊にまとめる予定です。
    よろしくお願いします。

    ##五夏

     甘い匂いが室内に広がっていた。時折、香ばしい香りも漂ってくるが、甘い匂いのほうが強い。甘い匂いなんて可愛いものではなく、甘ったるい匂いと言い切っていいだろう。そう言わなければ、きっと怒るヤツがいる。
     コポコポと湯が沸騰する音だったり、ジジジと何かが焼ける音だったり。キッチンに存在しているすべての家電がフル稼働していた。稼働理由はただ一つ。
    「次こそ! 次こそは!!」
    「それはこちらのセリフです。もういい加減にして、帰ってください」
     ダン! と黒い塊に包丁を突き刺して大声を上げた。
     大抵のことは何でもできると自負していただけに楽勝だと思っていた。それがこうもうまくできないとは、想定外すぎて自分自身でも驚きが隠せない。
     料理は下手ではない。たぶん。もはや最後に包丁を握ったのがいつかは覚えてはいないが、それなりにできたはずだ。それこそ真っ黒に焦げた料理や、塩と砂糖を間違えてハチャメチャな味の料理なんて作ったことはない。それなりに普通の、どちらかと言うと可に分類される出来だったはず。だからやればできる。できるが、愛しの相方に甘えることが多いから滅多にしないだけで。
    「いやさ? 作れないとか、マジありえないって。僕はなんでも、ちょちょいのちょいでできるのにさー」
    「確かに意外ですよね。五条さんは何でも器用にできるイメージはありましたので!」
    「でしょ!? でしょ!? もうマジありえない! あー、これ明日は大寒波かも……いや、大寒波じゃなくて、この時期に酷暑かな!? 地球滅亡じゃない!?」
    「あ、ありえますね!! うわぁ。どうしよ……」
    「酷暑なわけがないでしょう。それから、灰原もどうしようじゃないですよ。まったく……」
     大きく息を吐き出す男を睨みつける。どうやら可愛い後輩は、今日は一人しかいないらしい。いや。今日は、じゃない。今日も、だ。七海がデレてくれた記憶がない。高校で出会ってから今まで、この調子だ。
     灰原の爪の垢を煎じて飲めとまでは言うつもりは、やっぱりある。言いたい。それくらいには可愛くなってくれてもいいだろうと思いながら、涼しい顔をしている男の顔を眺めた。
    (あー、でも、こうやって場所を提供してくれるだけで十分にデレなのかも……)
     当然、初めは拒絶を示された。
     ご自宅でお願いします、なんて一秒、一瞬たりとも悩むことなく当然といった顔をしていたか。だから必死に食い下がった。思いつく限りの言葉を並べて食い下がった。どうしても場所が必要ならレンタルハウスもあるでしょう、とも言われたが、そんな誰が使ったかもわからない場所で料理したくないと頑なに言い続けた末に、先に根を上げたのが七海だった。粘り勝ちだ。勿論家入や灰原。それこそ伊地知に虎杖たちの家も候補として考えた。考えたが、家庭環境や調理器具の状況。様々な理由からやはり七海の家しかなかった。
     改めてやり切ってやると決意していると、はぁとわざとらしいほどに大きな溜め息が耳に付く。ひどくないだろうか。誰から見ても、類を見ないほどに頑張っているというのに。
    「いい加減、諦めたらいかがですか?」
    「諦めたらそこで試合終了ってセンコーに言われた」
    「漫画の読みすぎですね」
    「あれ、やっぱ感動しますよねー! バスケめっちゃしたくなりましたもん」
     だよなー、と話に夢中になっていると、オーブンが焼き上がりを教えてきた。
    三人の視線を一身に集める。今、この瞬間、七海建人家の主役はオーブンだろう。このオーブンがこんなにも注目される日が来るとは本人さえ思っていなかったはずだ。
    「鳴ったよな?」
    「はい。鳴りました。とりあえず、嫌な臭いはしませんね!」
    「言っときますが、今日はこれが最後ですからね。もうこれ以上は付き合えませんよ。駄目ですからね」
    「わかってるって!」
    「大丈夫ですよ! 美味しそうな匂いもしますし、絶対成功してますから!!」
     視線を合わせて、頷き合う。ドキドキと心臓が早鐘を打つ。こんなに緊張したことがあっただろうか。いや、ない。思わず反語が出てしまう。
     目を閉じ、一度ゆっくりと深呼吸をした。
    (大丈夫。大丈夫。僕は天才だ)
     失敗なんてありえない。
     よし、と気合いを入れて、オーブンを開けた。むわりと漂ってくるのは、甘い香り。そして、目の前には予想通りに膨らんでいる物体。ごくりと喉が鳴った。
     ミトンで鉄板を掴み、取り出す。型を外して完成と声を上げたかったのだが、型を抜いた瞬間にジャーっと黒い液体が焼き上がった生地から流れ出てしまった。無情にも流れていく液体のせいで余計に甘い匂いが立ち込め始める。
    「だぁー! こんなのもうやってられねぇ!!」
     思わず、ワークトップを叩けば、小さく跳ねた焼き上がりの生地が無様に倒れていた。卒倒したいのはこっちだと言うのに。
     一度目は焼き加減が足りずに、今回と同じく型を外す時に中のチョコレートが流れ出した。二度目も同じ。ならばと、三度目は焼き時間を増やしたところ、焼きすぎたらしくただの焼き菓子になってしまった。そうして臨んだ本日四度目。
    「今回こそ、絶対できたと思ったんですけどね……」
    「もう、いいじゃないですか。固めるだけで十分ですよ。それだけで夏油さんは喜んでくれますから。何しろ五条さんが自ら用意したものですよ。夏油さんが喜ばないわけがないじゃないですか」
    「確かにそうですよね! あ、そういえば高校の時にバレンタインってすっかり忘れてて、持ってたチョコを夏油さんに渡しただけなのに、お返し貰ったことありましたね。懐かしいね」
    「はぁ!? 何それ、僕そんな話知らないんだけど!!」
    「あれ? そうなんですか? 自分は女の子たちのついででしたけど、てっきり五条さんも貰ってるもんだと思ってました」
     初耳だ。しかもお返しだと。夏油がご丁寧にわかる範囲だけでもホワイトデーにお返しをしていたのは知っていたが、それを灰原も貰っていたなど。悟からは貰ってないからね、といつもくれなかったと言うのに、ずるくないだろうか。
    「だいたい専門は違っても料理人に張り合わなくてもいいじゃないですか。アナタは今まで通り、食べる専。そして夏油さんが作る専。互いの領域は犯すべきじゃないんです」
     諭すような声に苛立ちが募る。わかっている。無理せずに初めから、高級パティシエのチョコレートを用意すればよかった。勿論そこは金に糸目をつけずに。味は保証されているし、何よりもこんな苦行に一週間も向き合わずに済む。そう、済むが。
    「やだ」
    「何を意地になって――……」
    「だって、このためにもう一週間も傑とまともな会話してないんだよ!? ありえる!? ありえないよね!?」
     今まで一週間も夏油と話をしなかったことはない。まったくしていないわけではないが、一の言葉に一、または二程度しか言葉のキャッチボールをしないなんて、異常事態だ。
    「ええ。そうでしょうね。ありえないことです。でも、会話くらい普通にしたらいいでしょう」
    「傑、勘がいいからなんかバレそうじゃん」
    「まともに会話をしていない時点で怪しんでいると思いますよ」
    「うるさいな!」
    「はぁ……。私もこの一週間で嫌になるほどチョコレートの匂いを嗅ぎましたし、何よりも五条さんが一週間も私の家に居座ってるなんて異常事態ですよ」
    「もうそんなになるんですね! そういえば、自分も妹に甘い匂いが染みついてるって言われちゃいました! 確かに一生分のチョコの匂いを嗅いでそうですよね」
     心底迷惑だと顔に書いている七海とは対照的に灰原はニコニコと笑っている。どうしてこの二人はここまで違うのだろうか。極端すぎる。
     一応。これには理由があるのだ。男三人で一週間。もちろん二人は日中仕事に行っているが、この一週間、お菓子。ことさらチョコレートスイーツを作っている理由が。
    ――サンキューな!
     営業を終えて、出待ちの相手をする。そこまでが仕事らしい。ファンレターやプレゼントを渡してきたら、笑顔で受け取らなければならないと愛しの相方に言われて、笑顔で相手をするようにしている。個人的にはできていると思っているが、どうやら夏油に言わせるとムラがあるらしいが。
     いつでも、どんなときでも、一定の対応をするべきだよ。私たちはまず応援してくれる人を増やしていくべきで、アンチを増やそうとしているわけじゃないんだ。
     機嫌によって態度のムラが大き過ぎるとため息交じりに言われた。そんなこと言われたところで、ロボットではないのだ。いつでも百パーセントのパフォーマンスを期待されても困る。自分たちはアイドルでもなんでもない。芸人だ。笑いを売っているのであって、ビジュアルや愛想を売っているわけじゃない。
     そんな言い訳は通用しないと諭されるが、今日はそんなことにはならなさそうだ。口元が緩んで仕方がない。
    ――今日は機嫌よさそうだね
    ――さっすが! 傑!! 僕のことに敏感! 愛を感じちゃう!!
    ――まぁ、相方のことだからね。わかるよ。それで何かいい事でもあった?
    ――そこは恋人のことだからって言ってよ。減点だわ。けど、今の僕は機嫌いいから許してあげる! ね。見てよ。コレ。行きたかったホテルのチョコ!! 限定二十個の商品なんだけど、めっちゃテンション上がらね!?
     タイムリーにも控室で話していたばかりだ。今日からバレンタイン当日までの限定発売。入手チャンスは二週間しかなく、ましてや店舗限定。こんな時に限って営業が連日入っているため、芸人の後輩に行かせるしかないかとまで頭を悩ませていた所でのプレゼント。テンションが上がらないわけがない。
     ぶち上がっているテンションに夏油もよかったね、といつもの笑顔で言ってくれると当然思っていた。いつも自分のことのように喜んでくれていたから。
    ――そんなに嬉しいんだ?
    ――あ? 当たり前だろ。だって食いたかったんだもん。逆に聞くけど、喜ばないヤツがいる?
    ――まぁ、喜ばないことはないだろうけど……
    ――でしょ、でしょ? マジ、ラッキーだわー。バレンタインって最高の文化だよなー。こっからチョコラッシュだろうし、出待ちはこの時期だけでよくね!?
    ――…………前から思ってたんだけど
     SNSにアップしようと貰ったチョコの写メを撮っていると、聞こえてきた声が落ちていることが気になり、ん? と首を傾げる。何か変な事を言っただろうか。単に差し入れを喜んでいるだけだ。それだけで。
    ――悟は誰から貰ったものでもいいんだね
    ――は? 何言ってんの? 食い物に良いも悪いもなくね? だって、うまいものに罪ないじゃん。僕がおいしく食べるだけで……あ!! わかった!! もしかしなくてもヤキモチ!? ヤキモチなんでしょ!! うわぁっ! マジで!? こんなチョコで僕の傑君が名前も知らないヤツに嫉妬しちゃうの!?
     食べたかったチョコレートを手にして、テンションが上がっていたのもある。夏油の反応を気にすることなく一息に言い切ったのは。
     夏油がにこりと笑みを浮かべた時に調子に乗りすぎたと焦っても後の祭りで。さらに言えば、その時にすぐに訂正していれば変わっていたのかもしれない。今の状況も。
    ――悟は誰から貰ったチョコでもいいみたいだから、今年は私からはなくてもいいよね
     勝手に嫉妬して、勝手に怒って、本当に意味がわからない。それなのに有無を言わせない決定事項だといった態度に苛立ちが勝った。そうなると結果は見えていて。
    「あーあ。なーんで、僕、いらないって言っちゃったんだよー。僕の馬鹿ー。傑のあんぽんたん! いるに決まってるじゃんー。そんなことくらい知ってるだろ!? なんなら、送って来られたどのチョコと引き換えても傑のチョコが欲しいに決まってるのにさー!!」
    「どうしてすぐにそう言わなかったんですか! そうしていただければ、今こんな状況になっていなかったと思うんですが……」
    「うるさいな。僕だってそう思ってるっての。あー。もう無理。傑成分が足りない。全然足りない。欠乏で倒れそう。死因は傑欠乏症って診断でちゃう。どうしよ」
    「そんな死因聞いたことないです。未知の病みたいですので、すぐに国の保健機関に連絡したほうがいいですね。なので帰ってください」
     今頃、夏油の家でゴロゴロしながら夏油の作るスイーツを堪能していたはずだ。バレンタインが近いからチョコレートは飽きるだろうときっとプレーンだったり抹茶だったりと味を変えてくれる気配りをしつつ、お菓子作りは本職じゃないんだけど、なんて言いながらも、そこらへんのパティシエなんかよりもおいしいスイーツを作ってくれていたに違いない。好みの味と甘さで。
     スイーツもいいけど傑が食べたくなったとか言えば、そっちのけでエッチなことだってしてくれたはずだ。勿論、お約束のじゃんけんはしなければならないだろうが、おいしく頂く側になるだろう。絶対。
     想像しただけで、ムラムラしてくる。大好きな甘い香りの中で夏油をいただくなんて最高じゃないだろうか。
     よし。この手作りチョコをプレゼントしたあかつきには絶対シよう。
     包丁や火を使っていないタイミングなら怒られないはず。
    (あー、でも困るな。傑って言うデザートも美味しいだろうからな。どっち先に食うか悩む)
     いっそうのこと、夏油を抱いて、スイーツを食べて、夏油を抱く。フルーツサンドのごとく好物で挟むのはどうだろうか。どっちにパン役をしてもらうかは甲乙つけがたいが、その時の気分で決めてしまえばいい。
     最高な想像をしていると、余計にこの一週間が虚しくなってくる。チョコレートに飽きはまだこないが、夏油がいないのはつまらない。そろそろ自分が作った不揃いなものではなく、夏油の美味しいものも食べたい。
    「それじゃあ、このチョコどうします? さすがに自分たちはもう食べれませんよ」
     さすがに丸焦げは廃棄したが、それ以外は食べている。そんなことを一週間も続けているわけだ。毎度作るものが違っているだけ、二人には救いになるらしい。毎日フォンダンショコラだろうと、一か月は生きていけると思うのに解せない。
    「僕が食べますー。チョコに罪はねーもん。なんでこんなに菓子作りってむずいんだよ! もうパティシエに足向けて寝れねぇじゃん!! 元からうまいもの作ってくれるから、それなりに尊敬はしてたけど!」
    「慣れ? センス? ですかね? 妹は簡単そうに作っていましたよ?」
    「灰原、五条さんを煽らないでくれ」
     え、ごめん、と全くこれっぽっちも思っていなさそうなトーンで七海に告げる灰原だが、雰囲気は飼い主に叱られた犬のようにしゅんとなっている。見せつけてくれやがって! と普段なら自分が夏油に注意されてしょげる役を代わりにされているように思えて、不貞腐れそうだ。
     そもそも七海の言うように、このスイーツ作りは無謀だったのだろうか。いらないと言ったこともあり、バレンタインが近づいているにも関わらず、リクエストを聞いてくれる空気がなかったので、今年はもらえない可能性が強いと判断した。
     だったら、と。いつもと違うことをして、仲直りをしようと思った。あくまで喧嘩をしたつもりはないが、原因がチョコレートなら、仲直りもチョコレートでと思ったわけだが、それがどうした。大抵のことはなんでもすぐにできるのに、こればかりはどうにもうまくできない。こんなに作り続けているのに。
    「もう、素直に夏油さんにお願いしたらいいんじゃないですか? 夏油さんもきっと許してくれますよ。あの人、アナタには弱いですから」
    「だから、僕は喧嘩したつもりないんだけど」
    「それは五条さんの言い分でしょう。どうせアナタが余計なことを言ったんでしょうから……ここは意地張らずに――……」
    「なーんで僕が原因だって言うんだよ! 傑かも知んねぇだろ!!」
    「夏油さんって怒る時は静かに怒るタイプですよね」
     笑顔が怖い時あります、とぼそりと口にする灰原にチョコレートを受け取って有頂天になっていた時の夏油の顔が思い浮かんだ。確かにそうだ。今思えば、確実に怒っていた表情をしていた気がする。
    「やだ! やっぱり絶対、うまいの作って、傑に惚れ直してもらう!!」
    「こんなことしなくても夏油さんは五条さんにぞっこんですから」
    「ぞっこんって言いかた古すぎない?」
    「今、そこをツッコむんですか?」
     大きく息を吐いた七海は頭が痛いとばかりにこめかみに手を当てていた。これだけ夏油断ちをしているのだから、成果は得なければならない。そうしなければこの苦行の意味がない。
    「さ! もう一回やるよ!!」
    「まだするんですか!? さっきのが最後だと言いましたよね!? 私や灰原は明日も普通に仕事ですから」
    「当たり前じゃん!! つーか、僕だって明日も営業あるし。さ! だから早く終わらせて、傑と普通に会話できるようにしようぜ!!」
    「完全に原因はアナタでしょう」
    「あ、自分はそろそろ帰りますね! 甘い匂いを嗅ぎすぎてもう胸やけしてきちゃいました」
    「灰原! 自分だけ逃げないでください!! 帰るなら五条さんも一緒に連れ出してください!」
     ぎゃいぎゃいと声をあげながら、夜が更けていく。甘い匂いに満たされた部屋で、甘い男といつも通りに会話をすることを目指して。
     今年のバレンタインは自分たちの歴史の中で一番風変わりなものになるはずだ。
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