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    702_ay

    DC(赤安)、呪術(五夏)の二次創作同人サークル『702』のアカウントです。
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    702_ay

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    <2/3 帳の中の誕生日5>
    【五夏】夏油の誕生日話です。

    ##五夏

     光が陰の中で揺れている。ゆらゆらと動くか細い炎が二十六個も集まれば、それなりの明るさになっていて。
     月明かりだけが頼りの夜。古びた校舎の中で浮かび上がる灯りは、怪奇現象としてSNSの注目の的になることもあるだろう。場合によっては瞬く間に拡散され、新たな肝試しの会場として名を連ねたりもするのだろうが、この場所に至っては大丈夫だと言い切れる。なにしろここは、人通りが少なく都心から遠く離れた場所だからだ。さらにいえば、現役の都立高校。仮に部外者に見られたところで、各学校が保有する七不思議のひとつの枠に収まる。学校の七不思議なんて言葉で収まるかは人によるかもしれないが。
    「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースディーディア――……」
     安っぽい本日の主役と書かれた襷も、簡素な作りの三角形の帽子も存在しない。主旋律だけの静かな音。灯りだって月明かりと揺れる炎だけだ。
     それでも。
     ゆらりと反応するように炎が揺れた。





    「なぁ、誕生日って何すんの?」
     午後のうららかな陽気。久しぶりに見せた太陽が降り注いでいる。独特な機械音がする自動販売機の隣に座り、古びた天井を見上げていた。
    「また唐突だな。どうした?」
     視線を向けられることもなく手だけを出してくる女にポケットの中にあった小銭を弾いて手のひらの上に乗せれば、当たり前のように自販機に投入していた。迷いなくボタンを三回押して、落ちてきた缶を一緒にいた男がひとつずつ取り出している。
    「えー? もうすぐ傑の誕生日じゃん」
     優しくなった陽光が木漏れ日の間から存在を主張して目を焼く。キラキラと輝いて見えるのは五条の内心を反映しているのかもしれない。
    「ああ、確かにそうだな。なんだ? 今年は五条がプロデュースするのか? カオスになるなら、私はパス」
     目の前に突き出されたのはおつりの小銭とメロンソーダ。この真冬にメロンソーダが自販機のラインナップに存在しているのは、夏の残りなのか。それともメロンソーダがないと苦情を言い続けたために、切らせないように補充されているからか。どちらにしろ、五条のためのラインナップに他ならない。
    「そうですね。誕生日っていえば、大きなホールケーキのロウソクを消して、クラッカーが鳴って、その後にプレゼントをもらう感じじゃないですか? 自分はいつも家族にそうやって祝われていました! 小さな時はクラスの友だちを呼んでたくさんプレゼントをもらうこともありましたけど」
     あざっす、と三本目を取り出した灰原が礼と共に教えてくれるのは、おそらく一般的な誕生日の祝いなのだろう。たぶん。
    「何それ。集会ってこと?」
    「え? 集会? 集会ってなんか硬い感じがしますけど……どちらかっていると、もっと楽しい感じなのでパーティじゃないですか? え? 誕生日パーティの話をしているんですよね?」
    「灰原、気にするな。こいつの常識は私たちと違うんだ」
     面倒なことを言うなと物語る家入に灰原は要領を得ていない。
     常識が違うのは認める。口を出さなければ精進料理が多く、出したところで和食しか出てこないような古臭い家だ。誕生日だからといって特別なことはない。正月と同じ、ただの行事。五条の家に連なる人間が集り、上座で座っているだけの。出される食事が赤飯に尾頭付きの鯛とか普段の食事より多少は豪華になるが、面倒な行事という点においては変わらない。それでも、まだ正月と誕生日では誕生日のほうがマシか。正月のほうが集まる人間の数が多い。
     ないほうがいい、ではなくてなくなってしまえばいいと思っていた誕生日の存在意義が大きく変わった。誕生日の重要性が高専に来て一新した。
    ――両親に産んでくれたことを感謝するんだよ
     当然のように告げた男の顔をまじまじと見てしまった。道徳の教科書を作る人間でさえ驚きに顔を染める優等生らしい台詞だ。意味がわからないと思ったことが顔に出ていたのだろう。夏油は、悟の顔が大変なことになっていると笑っている。
    ――はぁ? マジで意味わかんないし。なに? オマエ、将来は呪術師じゃなくて教祖にでもなるつもりなの?
    ――あはは。その時は悟が私の教団の神様かな
    ――ええー。俺、もう十分崇め奉られすぎて飽きたから却下。これ以上、崇拝されるのは、うぜぇって
     自分でそう言えるってすごいよ、と感心される。
    大袈裟だと思っているのだろうが、実家に連れて行けばきっと理解するはずだ。ここに来なければ一生知ることのなかった自由。まさか、自分を取り巻く環境が鳥籠だったなんて考えもしなかった。
     夏油に言えば、悟を閉じ込める檻が鳥籠って言うのはずいぶんと可愛いね。猛禽類の檻くらい必要なんじゃないの、とか言ってきそうだ。確かに、よく大人しくしていたものだと思う。思いはするが、空を自由に飛ぶ楽しさを知らなければ、鳥籠から出る必要性を感じない。
    ――悟に感謝する気がないなら、悟のご両親には私が悟の分も感謝をしておくよ。ご両親のおかげで、私はこうして悟と楽しく過ごせているわけだしね
    ――はいはい。優等生
    ――ああ。そうだ。もちろん反対もあるよ。ご両親や友人たちから生まれてきてくれて、ありがとう、って感謝するんだ。これからもたくさんの幸せが悟に降り注ぐように、ってね
     黒翡翠を柔らかく細めて笑うからか、いつものご高説に反発するのが遅れてしまった。そして、その言葉が胸に沁みる。感謝されることは今に始まったことではない。今までだって飽きるほどに聞いてきた形式的な同じ単語なのに、夏油の口から発せられる単語は初めて聞く単語のように聞こえるのだから、不思議だ。
     それからは誕生日を祝っている。去年は家入から始まり、五条、夏油の順番だったが、今年は七海や灰原の誕生日も追加されたので祝う日が増えた。そして今は、一週間後に夏油の誕生日が控えているのだから、親友として主催してやるしかない。任務で誕生日当日に全員参加は難しいかもしれないが。
    「え、誕生日ってパーティをするもんなの!?」
    「オマエの誕生日だってパーティしただろ」
     記憶を掘り返す。確かにパーティと言われたら、灰原が言うようなパーティだったような気がしてくる。
     今年は、桃鉄九十九年やろうと夏油の部屋に呼び出された。意気揚々と部屋に行けば、ホールケーキが出てきたか。ロウソクの刺さったケーキの火を吹き消して、等分にケーキを切り分けて、個性のあるプレゼントをもらって、朝までゲームをして。一人ひとり睡魔に負けて脱落していくなかで、夏油と九十九年をやり切った記憶がある。
     楽しかったですよねぇ、と同じく過去を回想する灰原に力強く同意する。楽しかった。楽しかったのは、楽しかったが。
    「俺のパーティにクラッカーなかったじゃん!! イチゴは皆がくれた気はするけど!」
    「クラッカーくらいでつべこべ言うな。別に必要ないだろ。イチゴ食べたんだから」
    「夏油先輩が掃除が大変になるからって却下になったんでしたよね、確か」
    「はぁ!? 傑のせいなの!? いや、そこはいい。傑が嫌なら仕方ないけど……いーや! やっぱ!! 必要だし!! ハッピーな感じするじゃん。クラッカー! なぁ! 灰原!!」
    「確かにクラッカーの音聞くと楽しくなっちゃいますよね」
     頭を縦に振って同意する灰原に家入は、そういうものか? と首を傾げていた。正直なところ、クラッカーの有無なんてどうでもいい。どうでもいいが、やはりないよりはあるほうがいいだろう。夏油たちが過ごしてきた一般的な誕生日パーティをしたい。そして過去に開催されただろうパーティの中で、一番楽しかったと言ってもらいたい。
    「今回の夏油の誕生日も五条と同じでいいだろ。次は五条が部屋に呼び出せ。そこでクラッカーでも鳴らせばいいだろ。自分の部屋だからな。予定がなかったら行ってやる」
    「はぁ!? 硝子に拒否権とかないから!! あ、そうだ。歌姫も電話でいいから参加させよーっと。まさか京都組もいるとは思わねぇだろうし、傑、絶対泣いて喜ぶと思わね? みんなで祝ってやらねぇとアイツ拗ねるしさ!」
    「夏油は常識があるから大丈夫だろ。あと、歌姫先輩に迷惑かけんな」
    「ええー! だって歌姫じゃん。別にいいでしょ。弱いし」
    「京都の先輩にも会えるんですか!? それは自分もちょっと楽しみです!!」
    「可愛い後輩がこう言ってるし、やっぱ電話じゃなくて呼び出すか―! 傑は寂しんぼだから、絶対次は自分の番だって期待してるって!」
     しかも同じ祝い方をするなんて芸がなさすぎる。親友の誕生日は毎年違う方法で盛大に祝いたい。せっかくの親友なのだから。
     息を吐き出した家入が携帯を取り出して、操作を始めた。のぞき込むと画面にはカレンダーが表示されている。
    「夏油の誕生日は……金曜か? なら教室でいいだろ。灰原、七海を昼に教室に連れてきな」
    「わかりました! 夏油さんのためなら!」
    「はぁ!? なんで昼なわけ!?」
    「限られた時間の間で終わるから。また徹夜ゲームは勘弁だ」
    「じゃあ、ゲームは無しにするか……その代わりに朝から! 朝からやろうぜ! 朝、昼、夜の三回はクラッカー鳴らさねぇと!」
    「いや。さすがにクラッカーは一度でいいだろ。そんなの」
    「えー」
     ノリが悪すぎる。十七歳の誕生日は一生に一度しかないのに、一回だけなんて寂しすぎる。ムッと口を尖らせたことに、家入は言い出したら聞かないとでも思ったのだろう。仕方がないとばかりに息を吐き出す。
    「多数決で決めるぞ。灰原、七海はどこだ?」
    「夏油先輩と任務中です!」
    「マジかよ! 七海、俺の傑とデートとか聞いてないし!!」
    「随分色気のないデートだな。しかし、いないのか」
     夏油が任務に出ていることは知っていたが、七海が同伴だとは知らなかった。
     五条が把握しているのはあくまで夏油の予定のみ。ここ最近は祓除依頼の多さに時間が合わず、遠距離恋愛の恋人よりすれ違っていると文句を補助監督につけたばかりだ。未だに顔を合わせる時間が少ないため、補助監督ではどうにもできないのだろう。これは非常識な予定をぶち込んでくる上層部に物申す必要があるらしい。
     ひどい話だ。同級生との青春を奪われるなんて。
    「仕方ねぇから、七海の決定権は俺が――……」
    「同期の灰原が七海の分の二票な。それじゃ決めるぞ。いいか、灰原。絶対に空気読めよ。オマエの同期性格を考えろ」
    「硝子! それは横暴だろ!! 独裁政権じゃん」
    「多数決の時点で民主主義だろ」
    「あ、えっと……」
     有無を言わせない家入の言葉に二票分の決定権は灰原に移り、どちらの先輩に従うのがいいのか灰原は困惑している。せーの、と木霊す掛け声に合わせて、今年の夏油の誕生日会の開催回数が決定した。民主主義なんて嘘だと叫びたくなるくらいには五条以外の票数がそろって。明らかにインチキだ。こんなもの。
     夜に一回。それも学校の教室で。
     夜になったのはなぜだったか覚えてはいないが、きっとそれも民主主義だったのだろう。形だけでも平等を謳っているから。
     当日まで携帯でサプライズパーティを調べた結果、顔面にケーキをぶつけてお祝いするなんてものが出て来てテンションが上がった。即採用したが、夏油に避けられてしまったのは悔しい。目標を捕らえ損ねたケーキの犠牲になったのが七海というあたり、あの男もなかなか持っていると思う。
     肩を震わせて怒る七海とおろおろする灰原。そこに笑ってはいけないと笑みを堪える夏油と家入。
     関係性がよくわかる光景だった。輝かしいほどに眩しい思い出。
     忘れられない誕生日になったよ、と夏油に言われたので、結果からすればおそらく成功だ。それも大のつく成功。





    「ハッピバースデーディア、傑ー。ハッピバースデートゥユー」
     ふうっと息を吹きかけられることのないロウソクがゆらゆら揺れている。小さく笑って、己で火を消そうとした時、コンコン、と扉が控えめに叩かれた。
    「硝子……に七海と伊地知。どーしたの? こんな時間に」
     近づいてくる呪力で誰が来たのかはわかっていた。高専にいても不思議ではないメンツだ。全員が全員。とはいえ、全員そろって教室に来るのはいささか不自然だろう。誰かが声をかけたのだと言われる方が納得できる。
     今日が何の日なのか覚えていたのだろう。各々にとっては過ぎていく三年間の中のたった一回か二回。それだけにも関わらず、こうして覚えていてくれているらしい。
    「さっき伊地知君に報告書を出しに来たところなんです」
    「私は今、上がりです」
     各々、高専にいる理由を口にするのに思わず瞬いてしまった。
     七海が昨日まで任務に向かっていたのは知っている。秤あたりを一緒に連れて行けないかと考えたので、祓除内容も知っている。
     伊地知は毎日遅くまでいるので未だに敷地内にいても不思議ではない。仕事に忙殺されているタイプの人間だ。下手をすると等級の低い呪術師なんかより。その主に仕事を押し付けているのが五条だということは脇に置いておくとしても。
     家入に視線を移したところで、疲れを伴っていた瞳が優しく細められた。
    「ずいぶんとしんみりしてるな。こんなのでいいのか? 今日の主役は寂しんぼだったんだろう?」
     再度ぱちりと瞬いて、自然と口角上がった。
     ロウソク吹き消す? と言えば自然の風によってロウソクが消えたことに思わず笑ってしまう。タイミング良すぎないだろうか。まるで、見えずとも主役がいるかのようで。
    「んじゃ、一人、ノルマ五分の一ね! 厳しかったら僕が食べてあげないこともないけど、ここは皆、平等にしよう! 民主主義らしいから!」
    「この時間に食べる量ではないですね」
    「五条が買って来たなら、美味しいケーキなんだろう。どこの店のだ?」
    「五分の一ですか……この歳になるとこの大きさのケーキは胃が試されますね」
     取り分けられたケーキを前に各々が苦笑する。
     もしも、とふと考えてしまった。あのまま何もなければ、誰一人も欠けることがなければ、なんて話は無意味だとわかっている。わかっているが、家入に七海に灰原。そこに伊地知も加わった六人で男の誕生日を祝うことができたかもしれない。そうすれば一人当たりのケーキの配分はもう少し小さくなり、どれが大きいだとか、どの苺がいいだとか、チョコレートプレートは当然主役のものだろうとか。いろんな声が飛び交って、もっと賑やかで、もっと騒がしい一日をなっていたはずだ。
    (愛されてるなー。傑。嫉妬しちゃいそう)
     月明かりが綺麗に差し込み、ゆらりとチョコレートプレートの乗ったケーキを照らしていた。
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