お詣り「みんなどこかしらね。全然見えな――わっ」
目の上に手を翳したマァムが、横を逆の方向に降りていく男とすれ違いざまにどん、と肩をぶつけた。
「すいませーん」と男が軽く頭を下げるのにマァムも「すみません」と頭を下げて、ヒュンケルの顔を見上げてきた。
「人、多いわね。はぐれちゃいそう」
参詣のために並んだ列は、入り口から門の先までずっと伸びていて、本殿までの階段は人でごった返していた。ひょい、と手袋の手を取られてヒュンケルは目を見開く。
「どこまで混んでるのかしら。上までいっぱいかなあ」
取った手をなんの屈託もなく握ったまま周りを見回すマァムに、ヒュンケルは胸中によぎった動揺を表に出さぬように平静を装った。
1919